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クリスタル・ウェポンズ~心臓が結晶化した私は助かるために現代ダンジョンに潜る~  作者: 彩名氏シエル
第2章「シーリー・コート」編

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第18話:[Toxic Love]

木曜日は投降できずすみません。

内容が難産すぎてまとめられませんでした。それでは、本編をどうぞ!

私たちが正面玄関に到着すると、少年と少女の言い争う声が聞こえてきた。

「あー、もう、離れろって言ってんだろ!」

「どうしてよ?別にいいじゃない。私たちの仲なんだし。」

「だーかーらー、俺とお前はそんな仲良くないだろ。お前が一方的に話し掛けてくるだけで。」

「ひどい。あんなに誘ったのに、そっちが乗ってくれないのが悪いのに。」

かわいらしくほうを膨らませながら愛原ルルは火野さんの腕に自分の腕を絡ませて引っ引っ張っている。

火野さんは心底からうんざりとした表情を浮かべていた。さすがに家まで特定されたうえ、こんなところにまでストーカーされてしまえば、表面上でも穏やかな対応は厳しかったらしい。

その二人を取り囲むように常駐のスタッフや訓練中だったクラン所属の冒険者が集まりつつあった。

私とサブマスターが通路から顔だけ出すと、それに気が付いた社員たちがぎょっとした表情でこちらを見てくる。サブマスターは整った顔に酷薄な笑みを浮かべて、唇に人差し指を当てた。

周囲は強張った表情で中央で言い争っている二人に視線を戻していく。

「止めなくていいんですか?その、かなりの迷惑になっていると思うんですけど。」

私が小声でそう尋ねれば、美貌の女性は艶やかに笑った。

「あの子、スペースプラントのご令嬢でしょう?最近、あそこのクランがどうにもきなくさいのよ。だから、どこかで探りを入れたいなって彼と話していたの。だから、ちょっとあの子使って揺さぶりをかけようかなって。」

「あぁ、なるほど。」

彼女がちらりと天井隅の防犯カメラを見るのを見て、なんとなく魂胆が分かった。

まぁ、要するに火野さんを生贄に、おたくの関係者がこちらのクランが目をかけている人に迷惑行為を行っているが、どういうことかと問い詰めるついでに向こうの様子を見ておきたいのだろう。

ルルの暴走を黙認しているか、追認しているか、あるいはさっさと切り捨てるのか。それによってその「スペースプラント」とやらの方針を確認したいらしい。

唐突な状況でも自社の有利になるように立ち回るのは、さすが大きな組織の上層部と言ったところだろうか。

サブマスターは二人を監視しながら、スマホでどこかに連絡を取り始めた。漏れ聞こえてくる内容的に、ルルを泳がせるように指示しているらしい。

周囲は周囲で、いざとなったら動けるようにと身構えつつ、ルルの身勝手な発言に呆れているらしい。あちこちで小さく話し合う声が聞こえてくる。

しかし、そんな周囲の動きなど目に入らないというように、二人はさらにヒートアップしていく。

火野さんは必死に腕を振り払おうとしているが、さすがに配信で人気が出る程度にはダンジョンを攻略している冒険者というべきか、パワーレベリングとはいえ、相当な力があるらしく、ルルの細腕を振り払えずにいた。

「ねぇー、なんで来てくれないのよー。別にダメなことないじゃん。だって、君のパーティメンバーろくな人いないじゃん。片方はわけわかんないし、もう一人はあんなちんちくりんで、顔もパッとしなくて、何のとりえもなさそうな女の子とパーティなんてかわいそうだもん。私の方がかわいいし、胸も大きいし、SNSで人気あるんだよ?ぜぇっっったいこっちの方がいいって。だから……さ……?」

そんな支離滅裂な言葉を言い続けるルルだったが、その言葉は途中で尻すぼみに消えてしまう。

なぜなら、それまでは嫌な顔をして腕を引き離そうとしていた火野さんが、急に動きを止めたからだ。そして、その雰囲気は先ほどまでと一転していた。

「今、なんて言った?」

「え、あ、え?」

「今、あいつのことちんちくりんのブスって言ったか?」

「え、えっと……そのー。」

ルルは急な雰囲気の変化に戸惑い、まともな応答ができない様子だったが、そんなことは関係ないとばかりにうつむいた火野さんが拳を強く握りながら続ける。

「お前、ふざけるなよ。俺だけなら別にいい。ストーカーしようが悪口言おうが別に気にならなかった。だけどな!俺と関係のないあいつのことまで悪く言うな!!」

段々と声を荒げていき、最後には大声で叫びながら大きく腕を振り払う火野さん。ルルは振り払われて数歩後ろによろめく。しかし、周囲の誰も助けることはない。

彼女は理解できないという表情で混乱しているようだった。

「言っとくけどな!あいつはちゃんとかわいいだろうが!しかもお前と違ってとってもいいやつなんだよ!俺が辛かった時に寄り添ってくれて、弟たちにお菓子も持ってきてくれて、ダンジョン攻略だって危ないのについてきてくれたんだよ!お前にあいつの何が分かる!あいつはいいお前なんかよりもいい女なんだよ!」

そう絶叫してルルのことを強くにらみつける。ルルは強く言われたせいか怯んだように数歩後ずさる。しかし、キッと火野さんをにらむと、負けないぐらいの大声で叫び返した。

「へー!そんなこと言っちゃうんだぁ!じゃあパパに頼んでこんなクラン潰して、あんたが大切にしてるものぜーんぶ晒してあげる!!こんな私よりもいい女なわけないじゃん!!私のファンに聞いてみようよ!みんな私の方が可愛いって言ってくれるもん!」

「あら、それはスペースプラントからうちへの宣戦布告と受け取っていいのよね?」

周囲の全員が二人の空気に飲まれ、いつ爆発するか分からないほどに緊迫した空気の中、そこにぬるりと声が滑り込んできた。

私の隣にいたサブマスターが笑顔のまま、しかし寒々しい威圧感を纏って前に進み出る。

その瞬間、空気が一変し、たった一人に支配された。

サブマスターである彩芽は女王の威厳を漂わせながら澄んだ声で告げる。

「あなた、スペースプラントのご令嬢だったわよね?そして、今あなたは父親に頼んでここを潰すと言った。つまり、スペースプラントは私たちとの全面抗争がお望みということね?」

子どもに言い聞かせるようにそう言えば、赤かったルルの顔色が真っ青に変わっていく。

「え、いや、そういうことじゃなくて……。」

「あら、何が違うのかしら?」

艶やかな表情で告げる彩芽さん。あまり長い付き合いではないが、たぶん中堅のクランにつぶされる程度の組織だと言外に言われてブチギレている。そして、周囲の冒険者たちもその怒りに呼応して殺気立ち始めた。

「それとも、あれはあなた個人の意見ということかしら?それは大変。冒険者クランの名を借りた詐欺・恫喝になってしまうわ。普通の組織よりも重罪ね。」

蒼かった顔がより色を失い、真っ白になっている。小刻みに震え出したルルは、目にいっぱいの涙目を浮かべ、周囲を見回した。

しかし、周囲には殺意を浮かべた屈強な冒険者たちに取り囲まれて彼女の味方はいない。それどころか、私と目が合うと、からだを硬直させて怯えたように目線をそらされた。私よりもこわもての人が多くいるのに、なぜこちらを見て怯えるのだろうか。

周囲に自分の味方がいないと分かったからだろうか。ルルは顔をうつむけたかと思うと、何も言わずに自動ドアへ向かって走り出す。

「あ、おい、止まれ!」

しかし、その声に答えることもなく、思ったよりも素早い動きで外に出ると、一気に見えなくなってしまう。しかし、それを誰も追うことはなかった。

そうして、嵐が過ぎ去って、数十秒後。

「……フフッ。」

急にくぐもった笑い声がした。そうして、一気に笑いの爆発が起こる。

「え?あの、え?」

私も声こそ上げていないが、お腹を抱えてうずくまって笑っていた。状況が分かっていないのは火野さん唯一人。

サブマスターも目じりに涙を浮かべて笑いをかみ殺そうとしている。そうして、一人の男性が混乱している火野さんに近づいて行く。

「おう、火野。」

「あの、本田さん?これはどういう。」

「いい公開プロポーズだったぞ。くくくくっ……。」

「え?」

わけがわからないという顔でこちらを見てきた火野さんに、私は片手で私がいる所とは別の通路を指さす。

そこには……忘我の表情で涙を流している澪の姿があった。

「え、あ、もしかして聞かれて……。」


「……。」

無言が答えとでもいうように私はニヤニヤと笑う。周囲の大人たちも同じような表情を浮かべていた。

そして、とうの相手にあの公開告白がと同じような叫びを聞かれていたことに気が付いたのだろう。火野さんは顔を赤くしたり青くしたりとパニック状態に陥っていた。

「え、あの、ああ、あのー、澪……。」

「う、うわーーーーー!!」

「ちょ、ま、ぎゃー!?」

言葉にならない歓喜の声をあげて、澪が火野さんに飛びかかる。そして、対格差を無視して押し倒すと、その胸に顔を埋めてワンワンと泣き出してしまう。火野さんはおろおろとするばかりでどうしていいかわからないらしい。

私はそっと、頭をなでろとジェスチャーをした。それを見た火野さんがぎこちない動きで澪の頭をなでる。

周囲にはそれを生暖かい目で見つめる大人が、祝福するようにみていた。一部は今にもハンカチを引きちぎりそうな表情を浮かべているものもいたが、それは一部の紳士が抱えてどこかへ運んで行ってしまった。

私は彼に伝えることを伝えたので、一人休憩室に戻ることにした。

けっして、あの甘酸っぱい空気に居心地の悪さを感じたからではない。

そうして、この問題は解決するのだった。

ただ、私はこれで終わるとは思えなかったが。

「あいつら、おぼえてなさい。パパに言いつけてやる。」


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