第14話:水晶の使い道は?
あれから1週間と少し。私たちは完全に日常へ復帰していた。
翌日には退院し、警察やギルド職員とのやり取りの末規定通りに冒険者への試験は合格となった。
これで、晴れて私も冒険者を名乗れるようになった。まぁ、ランクは最低のFからでそこまで胸を張れることではないが。
また、今回ギルド側が照会したダンジョンで問題があったために迷惑料として一人10万円、正式にタトゥーゴブリンと名付けられたユーンを倒したということで報奨金を全員で50万円が支給された。三分割でそれぞれ13万弱。
そしてゴブリンからドロップしていた魔石という魔力のこもった石や錆びた武器防具を売ったお金が一人8000円。
もろもろ合計で約24万円。これに加えてボスからの宝箱の中身が今回の報酬ということになった。
下世話な話だが、新設した銀行口座にこのお金が入ったのを預金通帳で見た時はにやつきを抑えられませんでした。
ただ、問題もあって、
「これ、どうするかなぁ。」
私は目の前の箱に収められた三つの水晶球を見ながらぼやいた。
そう、結局あの水晶は売らずに手元に残している。ただ、実験だ訓練だと考えたはいいものの、どうすればいいかが分からないのだ。
訓練と言ってもやろうとしているのはアビリティという未知の力の訓練で、しかも私のアビリティは今のところ他に同じもののない一点物。
あれこれ調べたり、ギルド職員に聞いたり、ギルドのデータベースを調べさせて貰ったこともあるが、結局そこまで有意義な情報は見つけられなかった。
なんか、錬金術の到達点である賢者の石に特別な心臓という説もあるらしいが、詳しく調べても分からなかったし類似点が心臓という点しかなかったのでたぶん関係がない。
それはともかく、私はかれこれ30分水晶の前で悶々としていた。しかし、結局触ってみるしかないという結論にたどり着いて水晶を一つ手に取った。
不純物のない、とても透明な水晶だ。魔力的な何かが宿っているのでは?とも考えたがギルド職員いわく「きれいで価値は高いが普通の水晶」と言われてしまっている。
そんなものを右手で握りこみ、心臓に意識を集中する。水晶の心臓は今も莫大な魔力を生成し続けているが、戦闘中よりかはかなり落ち着いている。
私は生成された魔力の一部を動かして水晶へ流し込んでいく。そして、その球体からブロック状に変形するようにゆっくりとイメージしていった。
すると、水晶はグニャリと形をゆがめていく。ただ、
「ウグググググ……。」
これ、かなりきつい。何がきついって常に水晶の形を意識して次にどう変わるかのイメージを魔力を操作しながらやらなければならないのだ。ありがたいのは、水晶がちょっと固い粘土をこねるぐらいの速度で変形してくれることだろうか。もっと固かったら心が折れていただろう。
それでも四苦八苦して、時には直接触ってイメージを補強しながら20分ほどで不格好な四角形にすることができた。
終わった瞬間、「終わったー」といって女の子座りからそのまま後ろへ倒れこんでしまった。
まだ熱いというほどの気温でもないのに全身にびっしょりと汗をかいていて、軽い耳鳴りもする。少し形を変えるだけでこんなに疲れるようじゃ実践では使えないなと思う。
やはり水晶の形を変えるにはかなり集中力が必要だなと思って今私がいじっていた水晶を顔の上に掲げて天井の蛍光灯の光に透かして見る。
やはり不格好だ。辺の長さがそろっていないしまっすぐにもなっていない。
それでも力が使えたことがうれしくて、でも直後にこの力が心臓由来であることを思い出して落ち込む。
そんな風にその日はぼんやり過ごした。明日も学校で、水曜日の午後はダンジョンだ。
翌日、一人で自転車で高校へ向かう。教室に入って誰とも話すことなく席に座るとそのまま腕を枕に突っ伏した。
なんか昨日の夜は変な興奮が残っていてうまく寝られなかった。だからと言って授業中に眠る気に慣れず、少しでも休もうと今こうすることにした。
ぼんやりしていると、教室中の声が耳に入ってきては素通りしていく。
「最近のトレンドはーーー」
「で兄貴がさぁ。ーーー」
「やっぱり清水さんって美人だよな。」
「お前清水さん狙いかよ。」
「いやいや、俺程度じゃつりあわないって。話し掛けんのも恐れ多いわ。」
「見てみて~。昨日見つけた動画~。」
私がうとうとしていると、急に教室の扉が大きな音を立ててあけ放たれた。
一瞬教室が静まり返る。私はチラリと前方の、今荒々しく開けられた扉を腕の隙間からのぞき込んだ。
そこには富田が、明らかに不機嫌そうな表情で入って来るところだった。そのまま大股で教室を横断し、自席にたどり着くと荒々しく椅子を引いてどっかりと座り込む。
そして、すぐにスマートフォンをいじり始めたので、教室内がホッとした空気に包まれ、また騒がしくなる。
私は元に戻った教室に安堵すると、そのまま寝てしまった。
結局、1時間目の授業中に先生に肩をゆすってもらうまで起きることはなく、かなり恥ずかしかったです。




