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黒猫は白猫に翻弄される

 宗教団体”神のいぶき”は、教祖ハブリナの逮捕をへて壊滅的に報道された。そして、集団ストーカーやテクノロジー犯罪を犯していた事を自供し始めたという。とは言っても、その方法を利用して、裏世界の人間が、まだ闇バイトを雇っているという話しだ。各国の拠点も、次々と活動を停止させられ、次第に信者の数も減っていった。ハブリナは、各国の場所でこの忌まわしい”灼熱のブラッドダイアモンド”に生き血を吸わせていたのだ。犠牲者は、日本を含めて100人以上にもなる。いわく付きの宝石を、月夜はヒナコに鑑定してもらう。

「これは、マニアなら高くつくわ。人の生き血を吸わせて輝きを保つダイアモンド。まさに、血のダイアモンドだわ。取り扱いには慎重にさせてもらうわよ。」

「ああ。この亡くなった人たちの命が無駄になるのは、こっちも性分じゃない。売れたら、宇佐美哲也の口座に三割の金を振り込んでくれ。福祉の施設の資金源にしてもらう。」

 月夜は、膝をついて宝石を見ながら、目を細める。

「あら、殊勝な気遣いをするじゃないの。」

 ヒナコは、笑ってみせる。

「このお宝を見てると、数多くの霊魂がうごめいてるように見えるんだよなぁ。だから、単なる偽善だ。」

「そう。で、話は変わるんだけど、李が手が空いたら店に来てくれって言っていたわよ。」

「分かった。じゃあ、後はたのんだぜ。」

 月夜は、ヒナコの館を出ていく。


 宗教団体に続いて、今度は世界的なシンガソングライターのジェフリー・ディーヴァーが日本に現れたという話しが盛り上がっていた。テレビを見ていた月夜は、金髪のその男を見て怪訝そうな顔をした。と言うのも、飛行機から出てきた時に、三人もの美男子をはべらせていたからだ。

「…こいつ、自信過剰そうなナルシストだろうなぁ。」

「まあ、確かに顔はとても整っているし、彼は若い子たちに人気らしいからねぇ。」

 新聞を見ながら、一条がつぶやく。空港のフロントでは、多くの老若男女たちが黄色い声援を送って、内輪に写真を貼っていたり、名前を掲げたりしていた。

『こいつ、時期的に合ってるんだよなぁ。』

 月夜は、李から受け取った怪しい予告状のようなものを受け取っていた。それは、赤い紙に書いてあった。

「怪盗シルバー。君の大切なモノを手に入れてみせよう。近々、参上いたします。ラブ・ファントム⁉」

 紙の右下には、赤いバラの刻印が刻まれていた。

「ラブファントムって、B‘〇かよ!」

「私も、こんなものが届いて戸惑ったのよ。何か、このラブファントムの情報を得ようとしたんだけど、彼に出会うと、心臓を持っていかれるだなんて書き込みがあったわ。」

「つまり、こいつはあのいかれ教祖と同じように、俺の命を狙ってるってことか?」

「分からないわ。でも、彼の目を見ると、一瞬で操り人形になると聞いたわ。警戒に越したことはないんじゃない?」

 月夜は、テレビをよく見る。すると、ジェフリー・ディーヴァーは、サングラスをしていたが、熱狂的なファンの前でサングラスを外すと、見惚れている人間や、失神して倒れている人間が何人かいた。画面上では、彼のエメラルドグリーンのような瞳が輝いていた。それに加え、キラキラと存在感がありすぎる。画面越しでも、お星さまが彼の周りに散らばっている幻覚を見る。

「ジェフリー・ディーヴァーって、素敵ですよねぇ。彼の曲を聴いて、恋心を抱く女性が増えているって話しですよ。でも、女性だけではなく、男性の間にも人気があるシンガソングライターですよ!」

「もしかして、菖蒲さんも、曲をダウンロードしたりしてるの?」

 月夜の言葉に、菖蒲は頬を赤くする。

「なに言ってるんですか。当たり前ですよ!彼の曲を聴いて、恋に落ちない者はいないですよ!」

「あ、そう…。」

 月夜は、興味がなさそうな返事を返す。

「明日から2週間、彼は日本でのライブを披露するんですよ!私も、友人からチケットをもらったんですよぉ~!」

 菖蒲は、頬を赤らめながらチケットを抱きしめる。

「2週間ねぇ。」

 月夜は、思う所があった。

『なら、なんらかの仕掛けはしてきそうだな。」

           ※

 月夜は、買い出しに来ていた。

「さてっと。買い出し修了~!」

 月夜は、事務所に戻ろうと一歩踏み出そうとすると、後ろから女性の悲鳴が聞こえた。何事かと振り返ると、人だかりができていた。

『なんだ?事故か何かあったのか。』

 人だかりの中心を見てみると、どこかで見たことのある人物が居た。

「きゃ~!ジェフリー・ディーヴァーよぉ!」

「本当だ!ジェフリーだぁ!」

 白い御貴族様のような格好をしたそのジェフリーと呼ばれる男は、倒れそうになった老婆に手を添えて、押し倒していた。

「お怪我はありませんか、マダム?」

「ジェフリー様…!」

 老婆は、乙女のように目を輝かせてジッと見つめていた。

「…。」

 月夜は、何も言葉がでなかった。自然と、目が細くなる。

「おっと。これは、困ったことだ。こんなに早く、正体がバレてしまうなんて。」

 言いながら、サングラスを外して髪をかき上げる。そして、ファンたちにウインクする。途端に、黄色い声援が飛び交う。

「ジェフリー様~!」

「ジェフリー様、素敵!」

 群衆に囲まれて、ジェフリーは声を出して笑う。

「ははははっ!順番に並びたまえ、諸君。」

 すると、あれだけ押し合い圧し合いしていたファンが、一斉に一列に並ぶ。それを見て、月夜は、後ずさる。

「うおっ!ビビったぁ~!なんじゃ、こりゃ?」

 ファンたちは、黄色い声援を挙げてはいるが、誰一人として列を乱す者はいなかった。そして、一人ずつジェフリーに声をかけてもらっている。

「君は、とてもキュートだね。素敵だよ。」

「ジェフリー様…!」

 手を握ってもらい、その女性はじーっと目を見つめている。すると、何事もなかったかのように、列を外れてジェフリーの後ろにボーッと立ちすくむ。

「ん?」

 それは、その女性だけではなかった。次々と、ジェフリーと見つめあった人間は、無表情になり静かに後ろにつく者と列を離れて去っていく者とで別れていた。

『なんだ。この、異常な光景?』

 そして、最終的に、6人の男女がジェフリーの後ろについた。

「良い子だ。それじゃあ、皆行こうか。」

「はい、ジェフリー様!」

 そう言うと、6人は素直に後に続いていった。高笑いをしながら横を通りすぎて行くジェフリーたちを横目で見て、月夜は溜息をついて事務所に向かう。

「なんだったんだ、今のは?まあ、いいや。」

 その場を去っていく月夜を見て、ジェフリーは後ろ目で追った。

「ふ~ん。」

 ジェフリーは、パチンと指を鳴らす。すると、側に居た一人の女性がサッとその場を去る。

            ※

「今日こそ、怪盗シルバーを捕まえるぞー‼」

 いつものようにシルバーは、得物を持って外へ逃げた。ラブファントムからの予告状をもらって、3日が経とうとしていた。これと言って、なんの支障もなく仕事はスムーズに進んでいた。

「なんか、拍子抜けだな。ちょっとした小細工を仕掛けてくるかと思ったけど…。」

 すると、満月のビルの屋上に突然白いマントの人物が姿を現した。

「あ?なんだ。」

 シルバーは、足を止める。すると、マントの人物は大きくジャンプする。

「とうっ!」

 だが、着地を失敗してバランスを崩す。

「…。」

 白マントの人物は、コホンと一つ咳払いをしてから大声で笑い声をたてる。

「わっはははは!我こそは、ラブファントム!この時を待っていたよ、怪盗シルバー‼」

「バッ…!そんな大声たてたら居場所がバレるだろが‼」

 シルバーは、汗をたらす。

「今宵、君の大切なモノ、ハートをいただくとしよう‼」

「…はあ?」

『まさか、俺の心臓でも取ろうって言うのか?』

 シルバーは、臨戦態勢をとる。

「さあ、我の”ゴッドアイ”を見つめるといい‼」

 ラブファントムは、深々と被っていた帽子を外すと、エメラルドグリーンの瞳を見せた。

「⁉」

「ははははっ!これで、君も我のもの…。」

 言い終わる前に、シルバーはラブファントムをグーパンで顔面にヒットさせる。

「ぐあぁあ~‼」

 ラブファントムは、建物の壁にめり込む。

「誰かと思ったら、ジェフリーじゃねぇか!わざわざ、白いスーツ着て大声出しやがって!」

「そ、そそそんな!今一度、我の瞳を…!」

 シルバーは、再び顔面にグーパンを入れる。

「ぐふっ…‼」

「なぁにが、ゴッドアイだ!仕事の邪魔すんじゃねぇよ‼」

 すると、後ろから大勢の足音が聞こえる。その音に気がつき、シルバーは振り返る。

「ったく!バレちまったじゃねぇか‼付き合ってられるか!」

 シルバーは、その場を去る。ラブファントムことジェフリー・ディーヴァーは、鼻血を垂らしながら叫ぶ。

「つ、次こそは、我のモノに…!」

「いたぞ!怪盗シルバー…、ではない?」

 警察たちは、白いマントの人物が気絶しているところを見る。

「なんだ、こいつは…?」

「あ!ジェフリー・ディーヴァー…だよな?」

 一人の警察官が、答える。

「ジェフリー・ディーヴァー?何故、こんなところに…。」

 轟は、腕を組む。


 それから、ジェフリー・ディーヴァーはことごとくシルバーの元に姿を現した。だが、返り討ちになっていた。

「なっ、何故、このゴッドアイが通用しないのだ…!」

「仕事の邪魔だっての‼」

「逃げるな、シルバー‼」

 警察は、次第に大声のする方へと向かってくるようになっていた。シルバーは、舌打ちしてその場を去る。警察たちは、ボコボコの顔になっていくジェフリー・ディーヴァーが可哀そうになっていた。

「…こいつ、もはや誰か分からないぐらいになっているぞ。」

「ライブがあるのに、大丈夫なんですかねぇ?」


 月夜は、深いため息をつく。

「まったく、散々だな。まあ、ツアーは2週間って言ってたから、もう出てこないだろう。これで、心置きなく…。」

 だが、背伸びをしたところで、包帯だらけになったジェフリー・ディーヴァーが、バラを一本持って姿を現した。

「ははははっ!また会ったね、怪盗シル~↓」

 言い終わる前に、月夜は地面にのめり込ませた。

「ぐげっ…‼」

 そして、胸倉を掴む。

「まっじ、なんなんだよお前~!殺されてぇのか?」

「ま、まま…待っておくれよ、マイハニー。」

「だぁれが、マイハニーだ!ぁあ⁉」

 月夜は、マジ切れして体が、怒りで震える。すると、最後の力を振り絞るかのように、月夜の目の前にボロボロのバラを差し出す。

「そ、そんな、つれないこと…言わないでおくれよ、マイハッ…。」

 月夜は、拳をあげる。すると、ジェフリーはワナワナと両手を前に出して、降参する。

「わわ、分かった!今回は、君の勝ちってことにしておくよ!」

「今回って、毎回俺の勝ちだってぇの!っつか、ラブファントムってなんだよ。B‘〇か‼俺の好きなバンドの曲名使ってんじゃねぇぞ‼稲〇さんと〇本さんに謝れ‼」

「そ、その名のとおりだよ。我…コホンッ!私は、このゴッドアイで、人の心を奪うことができるんだ。だから、君のことも、私の虜にしてあげようと思ったんだけど、まったくその気配がない。おかしいなぁ~。」

 すると、バラが急に爆発して煙をあげた。月夜は、ゴホゴホと咽て手を放す。

「私も、人気があるアーティストだからね。もう、タイムオーバーになってしまったけれど、次にジャパンに足を運んだ時には、君のハートを奪ってあげるよ!」

 ジェフリー・ディーヴァーは、投げキッスをしてその場を去った。

「…最後まで、騒がしい奴だったな…。」

 すると、手にジェフリー・ディーヴァーのアルバムが渡されていたことに気が付く。題名”君のハートにロックオン♡” 月夜は、その場でへし折った。








 テレビでは、包帯だらけのジェフリー・ディーヴァーが空港で手を振っているところが映され、なぜか黄色い声援が普通にあがっていた。

「ジェフリー・ディーヴァー!…あれ?大怪我でもしたのかしら。」

 菖蒲が、首を傾げる。

「ああ。なんか、轟さんから聞いたんだけど、怪盗シルバーにボッコボコにされてて、可哀そうだったってきいたよ。」

 一条が、新聞を読みながら言う。

「話によると、日本をとても気に入ったらしくて、来年もツアー巡りをするって言ってたみたいよ?」

 それを聞いて、月夜は、うっ、となる。

『二度とお目にかかりたくないぜ。』

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