14. 家康との邂
六月下旬、空は梅雨を思わせる曇天に覆われていた。
尾張と三河の境にある、穏やかな丘陵地に建てられた小さな茶屋。
その場所は、奇しくもかつて今川と織田の軍がぶつかった“桶狭間”から遠くない場所にあった。
そこに、ふたりの若き武将が相対した。
ひとりは――織田信長。
そしてもうひとりは――松平元康。
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◆ 対面、沈黙
しばしの沈黙。
互いに警戒と観察の目を隠さず、ただ静かに相手を見つめる。
信長が、先に口を開いた。
「初めてお会いするな、元康殿。いや……これからの時代、“家康”とお呼びしたほうが相応しいか」
元康の目がわずかに細まる。
「そなた、私の“後の名”まで知っているのか」
「未来の名ではない。――才ある者には、然るべき名が必要だと思ったまで」
皮肉も嘘もなく、ただ静かな語調で信長はそう言った。
元康は数拍の後、口元にわずかな笑みを浮かべた。
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◆ 手紙のやり取り
信長が懐から取り出したのは、一通の書状。
それは、信長が密かに送っていた“尾張・三河不可侵条約”の草案だった。
>「尾張は三河を攻めず、三河も尾張に軍を向けぬ。
> 双方は東西の通商を保護し、交易と安寧を保証すること」
元康は手紙を読み、静かにうなずく。
「……おぬし、戦わぬことに本気なのだな」
「戦は、最も愚かで、最も金のかかる外交手段だ。
それに、俺とそなたが戦えば、誰が得をする? 駿府だけだ」
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◆ 対話、試し合い
ふたりは湯を酌み交わしながら、互いの城下、民政、兵制、通商路の実態にまで踏み込んで語り合った。
それは軍議ではなく、まるで二人の政治家の会談であった。
やがて元康が、やや低い声で呟いた。
「おぬし、まるで……“外の時代”を知っているようだな」
信長は一瞬だけ表情を止めたが、すぐに笑った。
「“過去”だけ見ていても、天下は取れぬ。
未来を想像できる者だけが、生き残る」
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◆ 握手
やがて、ふたりは席を立ち、手を差し出した。
信長が先に言った。
「戦で出会えば、どちらかが死んでいた。だがこうして手を結べば――天下は、分かち合える」
元康がその手をしっかりと握る。
「我が三河は、尾張の背を決して突かぬ。
――だが、その代わり、天下を取るときは“我もまた”その一角に加わらせてもらうぞ」
「望むところだ、家康殿」




