表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/50

13.今川との駆け引き

 初夏の風が、岐阜の城下を撫でるように吹き抜けていった。

 城下では市が立ち、尾張と美濃をつなぐ街道を商人の列が絶え間なく通っていた。


 だが、その空の下――信長の脳裏には、常にひとつの“影”があった。


 今川氏真いまがわ・うじざね


 駿河の太守。かつて桶狭間で信長が討ち果たした今川義元の嫡男であり、尾張と三河の隣に座するもう一つの“巨大な目”。



◆ 今川の焦燥


 駿府城。

 今川氏真は庭園にて弓を引いていたが、その顔は晴れなかった。


 「信長め……父を討ち、今や美濃を手中に収めたとな」


 その声には、復讐と焦りが入り混じっていた。


 父・義元が討たれてからすでに数年。

 三河では家臣の裏切りが相次ぎ、ついには松平元康――後の徳川家康までもが独立を果たした。


 氏真の今川家は、もはや往年の威光を失い、内政も綻びつつあった。



◆ 信長の次の一手


 「今川は、動かんよ」


 信長は、報告書を読みながらそう言い切った。


 「松平元康――あの男は、今川にとって最も危険な“不安定要素”だ。

 奴らは尾張を攻めるより、まず“三河の統制”に全力を注がねばならぬ」


 柴田勝家が眉をひそめる。


 「では、我らは静観と?」


 「いや――こちらから、“毒”を流す」


 信長が差し出したのは、書状だった。


 >「三河・遠江にて、通宝の流通を拡大する。

 > その地の商人に免税特権を与えよ。

 > また、元康の意志を尊重し、尾張は軍を向けぬ旨、密書を送る」


 つまり――

 **今川を挟み撃ちにできる環境を整えながら、“自らは何もしないように見せる”**という策である。



◆ 三河の動き


 松平元康のもとにも、信長からの密使が届いていた。


 「信長公より、貴殿に“尾張の和平”と“通商路の開放”の申し出あり。

 駿府を刺激するつもりはないと」


 元康は静かに微笑んだ。


 「信長公……恐ろしい御方だな。こちらの心の動きまで、見透かしておる」


 彼は、この時すでに“独立”をほぼ成し終えていた。

 だが、公に今川に背を向ければ戦となる。

 信長の一手は、元康に“逃げ道”と“交渉の余地”を与えるものだった。



◆ 駿府、ざわめく


 やがて、遠江と三河の市場で“尾張通宝”が静かに使われ始める。

 信長の商人たちが、物資を流し、安価に塩や鉄をばらまいていた。


 今川家中が動揺する。


 「通宝が、すでに遠江の市に……」


 「三河の村では“尾張の米”が売られておりまする!」


 氏真は歯ぎしりをした。


 「やつは、戦わずして我らの背を崩す気か……!」



◆ 信長の真意


 岐阜城。

 信長は、報告を聞きながら筆を走らせていた。


 「戦とは、刀を交えることではない。

  “相手の動きを縛り、心を削ること”だ」


 いま、尾張は軍を動かしていない。

 だが、経済・情報・外交――あらゆる手で、信長は東の地に“無言の圧力”をかけ続けていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
米や鉄をいったい何処から捻出しているのか? そんな余裕は尾張美濃には無いように思うんですが… そもそも銅山も大きなものが無いのに鋳銭できるのか…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ