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100:完全に蚊帳の外というか、夢の中に追いやられている

「いったいどうやって入り込んだッ!? 外部からの侵食侵攻に対して対抗策は整えてあるというのにッ!?」


 明らかな異物である禍々しき帆船の姿に、ウケカッセはテーブルに乗せた手を軋むほどに握りしめる。

 そうして苛立ちも露に、視線を別のところへ。


 剣呑な目を向けられたのは、ホロモニターのバウモールだ。


『スマナイ。だが我には何も……今の今まで何も感じることができなかったのだ』


 これまでの経験から、スリリングディザイアにはすでに外敵の侵食に対する防衛システムが整備されている。


 主人とパークの守護。

 それを最大の欲望とするバウモールが、外からの侵略があればそれを察知。

 直属の眷属や防衛用の装備を整えたアガシオンズが迎え撃って、弱ったダンジョンボスをコアもろともにパークに吸収させる。というものだ。


 庇護欲を司り、その塊であるバウモールならば見逃すことはない。その信頼があってののぞみの抜擢であり、残る魔神たちの承認であった。


 しかし現実として、外敵・異物としか思えない船舶が洋上に浮かんでいるのである。


「……つまり、あれは内部から現れた……と考えるべきであるな」


 そんな帆船をモニター越しに眺めて、ベルシエルが推測を口にする。


「内側から? そんなことがッ!?」


「現にバウモールの警戒を抜いて、異物が現れているわけであるからな。もちろん何かの細工でもって目を潜った可能性は否定しない。しないがな。逆に質問させてもらうとだな、バウモールの警戒を縫って何かを引き込むことができるのかな?」


 ベルシエルの問いかけに、魔神衆は濃淡の差こそあれ、皆一様に渋い顔を見せる。


 魔神たちは総合面ではともかく、各々が司る欲望において、自分に並び立つものは無いと自負している。

 だからこそバウモールに対しても、全員が口では何を言おうとも防衛戦力としては絶対の信頼を置いている。


「……たしかに。お客に紛れて入り込んで内側で仕掛けを動かす。それが現実解だな……」


 なので、頭を冷やしたウケカッセの意見に否の意見は誰からも上がらなかった。


「しかしともかく、です。原因や敵は探り出すとして、まずはお客様がたの安全確保を」


『そちらは問題ない。中で異物が現れたと察知してすぐに動いている』


 バウモールはそう言って自身の顔が大写しになったホロモニターを別の映像に差し替える。


 ある場所ではライフセーバー風に水着と救命ジャケット姿のアガシオンズが客に避難を促して。また海上にはロケット推進で浮かぶコンパクト化したバウモールと呼ぶべきマシンゴーレムたちが幽霊船に警戒の目を向けている。


『そしてみすみす侵入を許した失態は、我が直々に取り戻すッ!!』


 その宣言に続き、幽霊軍艦生駒の上部ハッチが軋み音を立てて展開。

 全開になったゲートをくぐり、バウモールの巨体がせりあがる形で船上に現れる。


 船を揺るがし飛び出すヒヒイロカネの巨体。

 しかしいかに巨大であるとは言え、そのままに飛び込めば沈んでしまう事は、試すまでもなく明らかだ。


 だが巨体が水面を砕くその前に、追いかけ飛び出してきたモノがバウモールの背中に取り付く。

 取りついたユニットはバウモールのボディを包み込む形で可変。共に海中に潜る。


「おおッ!? これがママが先の制圧戦で使えなくて残念がっていた……ッ!?」


 その名も「ヴェーパル」ユニット。

 バウモールの水中戦用の補助ユニットとしてのぞみが準備していた品である。


 ヴェーパルから胸から先だけを出したバウモールは、海中を猛然と幽霊船めがけて進み、船底に突っ込む!


 ボディ上部から伸びた衝角ラムは、船の腹を破り、竜骨をへし折る。


「ふふふ……どうやら魔術で防御を施しているようであるがな、その程度でヒヒイロカネ製で、オーナー肝煎りのバウモール強化ユニットの突撃を防げるワケがないのだな」


 肝心要の支え、脊椎動物で言えば脊椎をへし折ったに等しいダメージを与えた様子に、ベルシエルは得意気に解説する。


「さすがにバウモール……趣味にジャストフィットしているからと、ママから手をかけられているのは妬ましい……が、その力そのものは認めざるを得ませんね」


 対するウケカッセのコメントと同じく、残る魔神たちも割合はそれぞれに嫉妬と感心の入り混じった目を鋼の巨神へ向ける。


「ともかく、これで侵略者の一番の大物、大元になるだろうものは沈められた、ということかしら?」


 ともあれ致命傷は確実な映像に、会議室に居合わせた魔神たちの胸中は、ザリシャーレが代表して言葉にした通りにまとまる。


 そして幽霊船はラムに貫かれた個所から、まるで枯れ木を折るかのように真っ二つにへし折れ、バラバラに散っていく。


 が、割れて砕け散った破片は海に落ちるや自ずと集まりはじめ、見る見るうちに元の船体を洋上に形作る。

 まるで砕いたのは霧中に生まれた影であったかのように。沈没必至の致命傷など無かったと言わんばかりに、バウモールが通り過ぎた水上で揺れている。


「……まあ、そうやすやすと片付くわけがないですよね」


 一筋縄では行きそうにないというその光景に、しかしイロミダは見越していたかのように艶めいた笑みを浮かべる。


 それを裏打ちするように、バウモールは諦めずに配下と共に氷結竜巻や熱線を浴びせるも、海が温度変化に荒ぶるばかり。

 肝心の闇を纏う帆船は凍てつき、燃えて、沈んでもまた平然と浮上し直すのである。

 そしてやられっぱなしではないとばかりに暗いオーラを纏った砲撃を放つ。が、ヒヒイロカネに防御術を付与したバウモールらの装甲には通じない。


 バウモールらに幽霊船は沈められず、しかし幽霊船にもスーパーロボットなガーディアンたちに対する決定打はない。

 つまり完全に膠着した形になる。


「ではこのまま大物はバウモールに食い止めてもらうとして、ワタシたちも動き始めることにしましょうか」


「ダネダネー。バウちゃんばっかに良い格好させてられないもんねー」


 この手詰まりな状況を眺めつつイロミダが方針を示せば、ベルノが舌なめずりしながら乗っかる。


「良いでしょう。犯人は何者か、手引きしたものがいるのか。そのあたりをはっきりさせておくのは、パークのために必要な事ですし」


「手引き? 裏切り者がいるとでもいいたいのかしら?」


 ザリシャーレが目を鋭く細めての問いに、ウケカッセはまさかと苦笑を返す。


「我々欲望の魔神たちの中に、そんな愚か者がいるはずはないでしょう?」


「ではサンドラ? それとも……北郷要、か・し・ら?」


 ザリシャーレが口に出して並べた容疑者の名前に、ウケカッセは苦笑のままため息を吐く。


「その二人ならばサンドラの一択でしょう。サンドラは直接に逆らおうとするには強烈な欲望を必要としますが、外に情報を漏らす程度ならば可能でしょう。しかし……進んで味方になった要と、捕まって仕方なしに大人しくしているサンドラを一緒にしては、彼女に失礼では?」


「そうね。向こうと手を切ろうとした彼女の欲望に対して無礼だったわね」


 逆に睨み返すウケカッセに、ザリシャーレは素直に失言であったと詫びる。


「……まあ、彼女も難しい立場に身を置いているという所はあります。やむを得ずに切り売りした情報を予測以上に利用される。そういう可能性はゼロではない。ですからね」


 対するウケカッセも、要の二重スパイという立場から、可能性としては否定しきれないと認めて矛を収める。


「ではそういうわけで、我々も動き出しますので、この場で情報をまとめるのはお願いしますよ、ベルシエル」


 そしていざとばかりに腰を浮かせて、知識欲の魔神に留守番を任せる。


「了解であるな。というよりも、言われずともやるつもりであったし、もちろん集めてまとまった調査データは皆に共有する形でな」


「では、バウモールが手こずっている再生のからくりについても平行してデータ取りをお願いしますよ。彼が自由に動けるようになってくれれば頼もしいですから」


「え? いや、まあそれも気になってたからやるけどな……え? 全部いっぺんに?」


 役目を快諾したところへさらに積み上げられた仕事に、ベルシエルは慌てて情報処理用の魔法陣の厚みを増やす。


「それではそういうことでお願いしますよ。ママを起こさずに解決してしっかり休ませてさしあげるつもりですからね」


 そして出撃するつもりの魔神衆たちは、ベルシエルの準備が整うよりも早く、各々に光に包まれて会議室からワープする。


 ベルシエルと、すやすやと眠るのぞみとボーゾ。そしてその枕役をしているスムネムだけになった会議室は一気に広々としてしまった。


「……スムネムに私の手伝いは……いや、オーナーの安眠キープに集中してもらって、自分は自分の仕事に集中できるだけで良しとすべきかな」


 自分以外は安らかに眠りこけているこの状況に、ベルシエルはため息を一つ。そうして頭を切り替え、自分に任されたデータ収集の仕事に注力するのであった。

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