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2章の5 「家族」

 ミシェル・オリヴァー


 その名前を双子の侍女から聞かされたのは、クラウス王と出会ってから三日後の朝の事だった。あれからクラウス王は毎日夜になると私の部屋に訪れ、当たり前のように書き物机で仕事をこなす――特に会話を交わす事なく続くそんな日々だったが、最初に出会った時よりも緊張は解れ、私も王様が夜に部屋にいても自分なりに自由に過ごす事ができるようになっていた。

 意識しない、とまではいけないけど……。

 頭痛の方はまだ治っていないというよりも少し悪化したように思えるが、筋肉痛の方は一日一度だけレオンの部屋に行って診察を受ける事以外はほぼ部屋で休んでいたため、今ではすっかり治っていた。

 常時頭痛薬を飲んでいる状態ではあるが、薬が効いていれば何ともないので最近では少し暇を持て余すくらいの余裕も出てきている。


 話を戻すが、双子から今さっき聞いた名前、ミシェル・オリヴァー。


 私は彼女の名前を知っているような気がした。

 いや、知っている名前なのだと思う。

 レオンは私が元々住んでいた家をオリヴァー家と呼んでいた。

 これがただの偶然でないとするのならば、ミシェル・オリヴァーはあのオリヴァー家の誰かという事になる。

 名前を聞く限り、女性だから私の母親か妹かどちらという事になるのだろう。

 ミシェル。

 彼女の名前を思い浮かべるだけで、胸が苦しくなる。

 酷い嫌悪感を感じる。

 この気持ちはただの思い込みなのだろうか、それとも本当に家族だから感じる事なのかは解らない。養子であり、いらない子扱いされて育った私が家族と言っていいのか解らないが、この場合の正しい表現が私には解らない。元家族と言った方がいいのだろうか。


 そしてなぜ、ミシェルの名前が出てきたのかというと。

 ミシェルが私に会いたいと侍女を通じて、面会を申し出てきたからである。


 ミシェル・オリヴァーが本当に私の家族だったとしても、今の私は女神リア姫の生まれ変わりという設定になっているのだから、ここに来る理由が検討もつかない。

 まさか私がリア・オリヴァーであるという事が知られてしまった? しかしレオンがそんなミスを犯すはずがない、例え万が一にも私がいなくなった事でオリヴァー家が私を探していたとしても、たった数日でここに辿り着ける訳がない。

 あれこれと考えていてもきりがないので、私は素直に聞く事にした。


「その人は、私になぜ会いたがっているのですか?」

 目の前に立つ侍女二人は私の問いに非常に困った表情を見せた。

「ええと、リア様は体調が悪そうでしたので今まで断っていたのですが……」

「さすがにこうも毎日来られると、うるさくて」

 ミシェル・オリヴァーが毎日ここに訪れていた?

 なぜ会いたがっている? という私の質問とは的外れの答えに、ますます疑問が深まってしまう。

「ミシェル様は怖いんです、こう目が釣り上がってて怒ってて、私はあの人とリア様を会わせるのは反対ですよ!」

「でも仕方がないじゃない、どうせいつか会うんだし……レオン様も体調が良くなってきたらリア様に会う事を許可なさっていたし、いつまでも逃げてる訳にもいかないわ」

 レオンがミシェル・オリヴァーに会う事を許可している?

 どうせいつか会う?

 私は再び、同じ問いを繰り返した。

「その人はなぜ私に会いたいのですか?」

 そしてまた双子は同時に困った表情を見せて、恐る恐るとアミムの方が口を開いた。

「あのですね……リア様の体調が良くなるまで、あまり負担になる事は言わないようにとレオン様に言われていまして……とても言いづらい事なのですが、その、リア様は妃第一候補じゃないですか?」

「…………?」

 アミムは一瞬の間を置いて、こう言った。


「と言う事は、妃第二候補が居ても不思議じゃありませんよね?」


 予想外もしていなかったアミムの言葉に、私の顔が引きつったのだろう。

 キーチェは慌ててフォローをする。

「リア様、ご心配なさらないでください!! あの方は性格も悪いし、確かに美人ですけどリア様に比べたらもうそれはそれは雲泥の差です! 現に妃の間におられるのはリア様ですし、負けるような事なんて絶対ありません!」

「キーチェの言うとおりです、これはちょっとした手違いのようなものでお気になさる必要は全くございません」

「…………」

 双子侍女ははっきりとはまだ一度も言っていない、だけど言ったも同然だ。

 つまりミシェル・オリヴァーは――私の家族だと思われる人物は、


「ミシェル・オリヴァーは、クラウス王妃第二候補なのですね?」


 はっきりとした言葉を聞きたかった、だから自分で答えを言った。


 双子はとても気まずそうに同時に頷いた。

「はい、その、そうなんです」

「ミシェル様はリア様のライバル……という事になるのでしょうか」


 レオンは私と初めて出会った時、女神リア姫でいるための条件の一つ目に言った言葉を思い出す。

『リア様が女神リア姫の魂である限り、リア・オリヴァーである事を他人に知られてはいけません。オリヴァー家にリア様の存在を気づかれてはいけません。つまり他人として振舞ってもらう事になります』

 レオンが条件の一つ目としてこれを最初にあげたのは、この事を知っていて忠告していたのかもしれない。

 妃候補は他にもいる。

 そしてそれは私の身近な人物であるという事を……。

 本当に、ミシェルという子が私の家族ならば、彼女は――きっと私の妹。


『笑顔が醜いわ!! 汚らわしい!!』


 一瞬過ぎった恐ろしい言葉に頭痛を覚え、頭を抑える。

「リア様! 大丈夫ですか!」

「少し休みましょう、ミシェル様には今日もお断りを入れておきます」

「いえ……」


 ここで逃げてどうすると言うの?

 私には時間がない、私にはこの体でいる事でしか居場所がない。

 ミシェルが私の妹だったとしても、もしもそれが私の勘違いだったとしても、ここでミシェルと会う事を拒否すれば、きっとそれはクラウス王に伝わるんだ。

 そして私が相応しくないと判断されて、他の誰かがこの体の中に入る。

 だから例え相手が誰であろうと、例え妃候補が何人いたとしても、それに動じることなく私は美しく振舞えなければいけない。


 美しく、誰よりも美しく――。

 私は呼吸を整え、できるだけ穏やかに言った。


「お気使いありがとうございます。けど私は大丈夫です。

 妃第二候補ミシェル・オリヴァーに会わせてください」


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