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『熟した果実と若き覚悟』

皇太后と皇后からの承諾を得て翡翠宮へ戻ったフレデリカは、間を置かず二人の姪、リゼリアとセシリアを自室へと呼び寄せた。


「二人とも、よく聴きなさい。今日、皇太后様と皇后様から正式なお許しをいただきました。あなたたち二人を、第五皇子イリアードの妻として迎えます」


静かだが力強いフレデリカの言葉に、部屋の空気が一瞬で張り詰めた。


「ただし、正式な婚礼のお儀を執り行うのは、セシリアが十五歳になるのを待ってからです。つまり、今から二年後のこと。イリアードが十七歳、リゼリアが十六歳、そしてセシリアが十五歳を迎えるその時に、二人揃ってイリアードの元へ嫁いでもらいます」


二年の猶予を設けるのは、幼いセシリアの成長を待つと同時に、後宮内の動向を観察し、隙を作らぬための慎重な策略でもあった。



◇

この寝耳に水のような告解に対する少女たちの反応は、見事なまでに正反対であった。


「まあ……! イリアード様のお嫁さんに!? わあい、それじゃあこれからもずっと、お姉様とイリアード様とみんなで一緒に暮らせるのですね!」


今年十三歳になるセシリアは、生まれつきの天真爛漫で無邪気な性格も手伝い、まるで上等なおままごとの約束でもされたかのように素直に歓喜した。彼女にとってイリアードとの婚礼は、大好きな家族と離れずに済むという、純粋で微笑ましい幸せそのものであったのだ。


「私、イリアード様に教えてあげてきます! 二年後にお嫁さんになるねって!」


セシリアは弾むような足取りで、愛らしくスカートの裾を揺らしながら、さっそくイリアードの居室へと走り去っていった。


一方、残されたリゼリアはというと——。


「リゼリア……? どうしたのですか……?」


フレデリカが思わず声を漏らしてしまうほど、リゼリアの様子は尋常ではなかった。白く透き通るような彼女の肌は、塗られた青痣の塗料すら押し破らんばかりの真っ赤な朱に染まり上がり、耳の先端から首筋まで沸騰したかのように赤く熱を帯びている。


「あ、あ、あの……伯母、様……イリ、アード様の……お、お妻……っ!?」


息を荒らげ、瞳を泳がせながら、今にも泡を吹いてその場に倒れ伏してしまうのではないかと危ぶまれるほどの過剰反応。男女の情愛を意識し始める年頃とはいえ、いくらなんでも極端すぎるリゼリアの狼狽ぶりに、観察眼に長けたフレデリカは即座に悟ったのだった。


(……なるほど。これは単なる恥じらいではないわね。すでに二人の間に、私すら把握していない何かが……いいえ、イリアードがこの子に何かした administrative な理由かしら?)



◇

自室で混乱の極みに達しているリゼリアを下がらせた後、フレデリカはすぐさま息子である第五皇子イリアードを呼びつけた。


「母上、お呼びでしょうか」


入室してきたイリアードは、十五歳らしい若々しさと、同時にどこか冷徹なほどの静けさを湛えていた。フレデリカは卓越した息子の面容を見つめながら、探るような視線を向けた。


「イリアード。今日、皇太后様と皇后様から許しを得てきました。二年後、セシリアが十五を迎える折に、リゼリアとセシリアのふたりをあなたの妻として娶らせます。……突然のことで驚いたでしょうが、これが我が宮とあなたたちを守る最善の道なのです」


フレデリカは、息子が戸惑いを見せるか、あるいは若い身空で二人の妻を持つことに照れや難色を示すのではないかと予想していた。しかし——。

イリアードは一切の動揺を見せなかった。それどころか、母の言葉が終わるやいなや、静かに衣の裾を払い、床の上に右片膝をついたのだった。



◇

深く頭を下げ、床に片膝をつくその姿は、軽々しい感謝などではなく、一人の男としての重い臣下・夫としての『誓い』の礼であった。


「母上……深く、感謝申し上げます。私のためにそこまでのご思慮をめぐらせ、二人の尊い人生を私に託してくださったこと、身に余る至福にございます」


まっすぐに向かってくる息子の瞳には、迷いのない真剣な光が宿っていた。


「私は……リゼリアとセシリアを、生涯をかけて命に代えても守り抜きます。母上が築いてくださったこの平穏な翡翠宮を、そしてふたりの笑顔を絶対に壊させはいたしません」


その凛とした声と佇まいに、フレデリカは一瞬、言葉を失った。幼いと思っていた息子は、すでに母の深謀を受け止め、己の運命と二人の少女を背負う覚悟を完璧に固めていたのだ。


「……そう。覚悟はできているのですね、イリアード」


「はい。二人が私の妻となってくれること……これ以上の喜びはございません」


息子の迷いのない答えに、フレデリカは胸の奥が熱くなるのを感じた。リゼリアがあれほど赤面し動転していた理由、そしてイリアードのこの揺るぎない確信。二人の間にはすでに、他人が立ち入れぬ強い絆と芽生えたばかりの真実の情愛が存在していることを、母は確信したのだった。



◇

母の部屋を辞したイリアードは、ゆっくりと廊下を歩み、東屋へと向かった。そこには、遠くからセシリアの楽しげな笑い声と、それに恥ずかしそうに応えるリゼリアの引きつった声が聞こえていた。


角を曲がると、イリアードの姿を認めたリゼリアが、弾かれたように顔を上げて固まった。その頬は、夕明かりのせいばかりではなく、いまだに熟した果実のように赤く染まっている。


イリアードは二人の元へ近づくと、優しく、しかし確かな温もりを込めて二人の頭に手を置いた。


「セシリア、リゼリア。母上から話を聞いたよ」


「殿下……! 私、本当に本当にお嫁さんになれるのですね!?」


「ああ、約束だ。……リゼリア、二年間、待たせてしまうけれど……私を夫として受け入れてくれるか?」


「っ……! は、はい……! イリアード様……私、私……っ!」


顔の青痣など吹き飛ばすほどの真っ赤な顔で、しかしリゼリアは逃げ出さずにイリアードの瞳をしっかりと見つめ返した。その瞳には、溢れんばかりの愛おしさと小さな決意が宿っていた。


二年後。イリアード十七歳、リゼリア十六歳、セシリア十五歳。


偽りの仮面を被りながらも、彼らは固い絆で結ばれ、共に未来へと歩み出すための静かな約束を交わしたのだった。

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