第8部 第2話:ROOT(地獄)への接続
偽フェリシアを粉砕したリリィの前に、旧管理者エリカが現れる。だがそれは救いではない。システムに食われゆく亡霊との、互いの存在を削り合う地獄のハッキングが幕を開ける。
管理室の奥、回路の海は白すぎて吐き気がした。
《ACCESS DENIED》
無機質な拒絶が網膜を焼く。
「……目障り。消えろ」
リリィはレンチをコンソールに突き立てた。バキ、と物理的な破壊音が響く。
「やめたほうがいいわ。今のあなたは、システムに『未知のウィルス』として定義されている」
背後からの声。
振り返ると、エリカが半透明の体で立っていた。その瞳には、かつての威厳はなく、ただ「消去」を待つ囚人のような諦念が濁っている。
「……何しに来た、元ラスボス。アンタの『綺麗な管理(Java)』はもう、フェリシア様がぶち壊したはずだろ」
リリィの口調は、フェリシアの悪い部分を煮詰めたように刺々しい。
エリカは自嘲気味に微笑む。
「ええ。だから、今のシステムは私の制御(仕様)すら離れて暴走しているの。……ねえリリィ。私を使いなさい。私の管理者権限(ID)を、あなたのレンチで『生贄』として捧げれば、ROOTへのバックドアが開くわ」
「生贄……?」
「システムは私を『旧式のゴミデータ』として消したがっている。私が囮になっている間に、あなたが中枢を叩き割るのよ。……ただし、私の魂は、あなたの黒いノイズに焼かれて消えるけれど」
リリィは一瞬だけ、レンチを握る手を止めた。
だが次の瞬間、かつてないほど「汚く」笑った。
「……いいよ。アンタの罪、私のバグで上書きしてやる。……感謝しろよ」
レンチが黒く発光し、エリカの半透明の肩を貫く。
「っ……! ああ、なんて……不快で、熱いノイズ……!」
エリカの叫びと共に、世界の論理層が悲鳴を上げる。
黒い亀裂が白い空間を侵食し、ROOTの防壁が溶け落ちていく。
《SECURITY BREACH DETECTED》
《DECOY : ERICA_LOG DISCARDING…》
「開け……ッ! フェリシア様を隠してる、クソったれな仕様書!!」
リリィの絶叫が、エリカの消えゆく残響と混ざり合う。
ROOT権限が、初めてその「喉元」をさらけ出した。
《ACCESS GRANTED : PARTIAL(強制介入成功)》
「……地獄へようこそ、リリィ。ここから先は、誰も愛さない世界の裏側よ」
エリカの掠れた声が、黒いノイズの中に消えた。




