第7章 「崑崙仙軍の密使」
挿絵の画像を作成する際には、「Ainova AI」を使用させて頂きました。
紫禁城に帰城された本物の愛新覚羅麗蘭第一王女殿下による、此度の日本での公務を話題とする談話の動画生配信。
それは私にとって戦いのゴングであり、「EMプロジェクト」における自身の役割の移行を促すシグナルでもあったんだよ。
王女殿下の身代わりである影武者から、紅露共栄軍を内側から切り崩していく破壊工作員へ。
何しろ後ろ手錠で拘束された上にスーツケースに閉じ込められるという窮屈な姿勢で我慢していた訳だから、思う存分に暴れられるのが楽しくて仕方ないんだよ。
この我慢を重ねた末のエネルギーの爆発は、呉越の戦いで生まれた故事成語の「臥薪嘗胆」にも通じる物があるよね。
「アッハハ、かかって来なよ!幾らでも相手してあげるからさ!」
拳銃やアサルトライフルを乱射したり、手榴弾や爆弾で纏めて吹き飛ばしたり、そしてアーミーナイフや近接格闘で敵を徹底的に破壊したり。
準備期間中に改めて訓練し直した各種の戦闘術を存分に活かした実戦は、素晴らしい程の充実感があるんだよね。
とは言え未だ友軍と合流出来ていない訳だから、悠長に楽しんでばかりもいられないよ。
人類防衛機構と中華王朝政府軍とによる連合軍と合流するまで、私は孤立無援で頑張らなくちゃならないんだもの。
要するに楚漢戦争末期の項羽よろしく「四面楚歌」って訳。
周りが全部敵ってのは誤射を気にせず手当たり次第に殺しまくれるから気楽だけど、助けてくれる人がいないので僅かなミスが命取りになりかねないんだよ。
そういう訳で、私は相も変わらず群がる敵を一人で殺し回っていたんだ。
「あっ、そう言えば…」
一個分隊を全滅させた手榴弾の爆風を背後に感じながら敵兵をヘッドショットで仕留めた私は、右下の義歯を引っこ抜いたの。
この左右の下顎に填めた義歯は確か、紅露共栄軍の拠点に潜入して破壊活動を始めてから使うようにと言われたんだっけ。
「え〜い!神様仏様に護国の英霊様、お力添えをお願いしますよ!」
物は試しと投げてみたけど、凄い事が起きちゃったんだよね。
支局で説明された通りに虚空へ投げた義歯は眩い光を放ち、次の瞬間には緑色に輝く半透明の葉っぱの奔流となって渦を巻き始めたの。
「ちょ、ちょっと…あんまり目立つ事をやらないでよ!敵が纏めて来たら面倒じゃない…」
そうして宥めてはみたものの、果たして聞く耳を持っているのか。
「えっ、これは…」
困惑する私を尻目に半透明の葉っぱの奔流は一箇所へ集まり、まるで人間のシルエットみたいな形を取ったんだ。
そして発光が収まった次の瞬間には、そこには仕立ての良い緑色の漢服を着た細面の美人さんが上品に佇立していたの。
愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者である私が赤い満州服だから、バランスが取れているね。
「成る程、貴女ですね。愛新覚羅麗蘭第一王女殿下の影武者を務められている日本の方は。私は崑崙仙軍の葛葉舒と申します、どうぞお見知り置きを。」
「あっ、これはどうも…私、人類防衛機構の吹田千里少佐と申します。こちらこそお見知り置きを…」
口振りから察するに、どうやら敵ではないみたい。
私も相手の流儀に合わせて、拱手礼で応じさせて頂いたよ。
「さっきは派手な御登場でしたが、葛葉舒さんは精霊か何かの類なので…?」
「いえいえ、吹田千里少佐と同じ人間で御座います。ただ、道教の秘術で霊体の一部を先行させているのですよ。本体は身体同様、中華王朝政府軍と共にこの秘密要塞を目指して進行中で御座います。」
この葛葉舒さん、そう言えば御自身の所属組織の事を「崑崙仙軍」って言ってたよね。
あそこは確か、道教や仙術を駆使する形で各種の怪奇現象から中華王朝を守護する役割を担った霊能者の武装集団だったっけ。
すると支局長室で聞いた「外部協力団体」というのは、この崑崙仙軍の事だと考えてまず間違いはないね。
そして葛葉舒さんとの会話で何より有益だったのは、GPSによる私の位置情報を友軍がキャッチしてくれて現在進軍中だって事だよ。
要するに、友軍との合流も秘密要塞の制圧も時間の問題だって事。
後は葛葉舒さんと協力して残る敵を掃討するだけだよ。
これはもう、二重の意味で心強いね。




