第1章 「出頭命令への期待」
単騎で突っ込んだ敵陣のど真ん中で満州服に身を包んだ身体を存分に躍動させ、仕留めた敵兵から奪い取った軽機関銃や拳銃を武器に新たな死体の山を築き上げる。
全くもって、殺伐としているよね。
これじゃまるで、B級アクション映画に出てくるチャイニーズマフィアみたいだよ。
どうしてこのような状況に至ってしまったのか。
それは私こと吹田千里が、極めて重要な密命を帯びているからなんだよ。
人類防衛機構の軍籍を頂いて早くも六年になる私だけど、これだけの重要任務を背負う事になったのは今回が初めてかも知れないなぁ…
全ての発端となったのは、今を遡る事十日前。
その日もまた、いつもと同じような勤務日になると思っていた。
普段の勤務日と同じように射撃訓練や近接格闘訓練の結果に一喜一憂し、デスクワークを地道にこなし、巡回パトロールの為に跨った武装オートバイで管轄地域をツーリング気分で疾走する。
もしかしたら特定外来生物の駆除や過激派の掃討の為にスクランブル出動があるかも知れないけど、背中を預けられる戦友達と一緒なら恐れるに足らず。
そうして一日過ぎていくのだと、何となく考えていた。
だけど五年前の卒配以来の職場である人類防衛機構極東支部近畿ブロック堺県第二支局に登庁した私 は、早々に支局長室への出頭を命じられたんだ。
「えっ、大至急の出頭命令?一体何故に…?」
「申し訳ありません、吹田千里少佐。小職も存じ上げていないのであります。」
部下である尉官の子も、単なる伝令としての役割しか与えられていないみたい。
だけど、それで何となくピンと来ちゃったんだ。
メールやSMSみたいな軍用スマホのアプリによる通知ではなくて口頭での呼び出しだという事は、証拠を残したくない内々の密命って事だね。
「こりゃ私も、気を引き締めてやらないといけないぞ…」
みるみる数字が進んでいくエレベーターの階数表示を見つめながら、私はこれから自分が携わるであろう密命に向けて胸を躍らせていたの。
支局長を始めとする幹部将校直々の招集による密命はそんな頻繁にある物じゃないけれど、私も何度か経験があるんだ。
まあ私の場合は専らの所、個人兵装であるレーザーライフルを用いた遠距離からの暗殺任務が多かったんだけどね。
テロ組織の幹部とかカルト教団の構成員とか、国際秩序を脅かす色んな連中を闇から闇に葬り去ってやったんだ。
特に邪教集団である「黙示協議会アポカリプス」の活動が激しかった時期なんかは、教団の幹部構成員を次から次へと撃ち抜いてやったっけ。
そうしてターゲットの狙撃に成功する度に、訓練生時代に授かった「赤眸の射星」という私の二つ名は存在感を増していったんだよなぁ。
正攻法の白兵戦でアクティブに敵を倒すのも特命遊撃士らしくて良いんだけど、精密な遠距離狙撃でスマートに射殺するのもクールでストイックな感じがして良いんだよね。
観測手代わりのドローンを飛ばして、後はレーザーライフルで一撃必殺。
そして後は軍用オートバイの地平嵐で現場を軽やかに離脱する。
この一切の無駄の無い機能的なプロセスが、本当に堪らないんだ。
「この『赤眸の射星』こと吹田千里少佐の戦績に、また新たな一頁が加わるんだ…その時も、よろしくお願いするね。」
こうやってレーザーライフルを収納したガンケースを抱き締めて一撫でしちゃう位だから、私がどれだけ狙撃手としての自己に重きを置いているか分かるよね。
あっ、ナルシストだなんて言わないでよ。
そりゃ私だって、レーザーライフルという精密な狙撃を得意とする個人兵装を選んだ身の上だもの。
やっぱりその力を存分に発揮したいのは人情だし、上手く出来たら誇りたいじゃない。
だから支局長室のあるフロアを目指してエレベーターに乗り込んだ私は、支局長直々の招集を暗殺の密命だと九分九厘まで決めつけていたんだ。
「う〜ん、ワクワクしちゃう!」
それで武者震いまでしていたんだから、本当に世話がないよね。
だけど事実という物は、私なんかが考えているよりも遥かに複雑で尚且つ深刻だったんだ。
遠距離狙撃による暗殺任務なんか些事に思えてしまう程に重要で困難な特別任務が、支局長室で私を虎視眈々と待ち受けていたんだよね。
もっとも、この時の私は全く気付いてなかったんだけど。
江戸カルタじゃないけど、「知らぬが仏、知るが煩悩」って奴だよ。
今だから分かる事だけど、知らないって事は本当に恐るべき事なんだよね。
無邪気な話だよ、全くもってさ。




