20、珍事、団、悪戦苦闘
どうも皆さん、おはこんにちばんは、怪物mercuryです!
皆さんのおかげで、アクセス、ユニーク共に増えており、うれしい限りです。
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めざせ書籍化!道は(超)長いけど!
ウーノ
まずい、読めない。敵方に、少なくとも一人、多ければ三人は団員並みの才能を持つ化け物がいるらしい。
そいつ自体はゼロといい勝負ができるレベルの才能の塊だ。ドウエが出撃している地点を大きく避けて暴れまわっている。おかげで、お互いに兵の消耗が激しく、かなりの数の死傷者も出ている。
こちらはオットが治療してくれているが、それすらも間に合わない。誰彼構わず使えるほどローコストで便利な技術ではないのだ、蘇生は。
おそらく、そいつとドウエがぶつかった時がこの戦いの最後になるだろう。こちらが勝てば、ッ向こうは撤退するし、もし向こうが勝つようなことがあれば、こちらの全滅は免れない。戦争とは、本来は3割ほどの死傷で「全滅」扱いになるのだが、魔法があると追撃含む一人で戦況をひっくり返しうるから、こちらでは全滅させることも少なくないのだろう。
だが、あまりに強力な魔法は味方への被害が大きすぎる、お互い初めからそれを打ち合うと、死者が増えすぎる、などという理由から、あまり使われないらしい。この、ユミル国王の「空駆ける星」もそれに匹敵する。はたまた、我々の世界の核に近いものなのかもしれない。
観測手も兼ねているトレと連絡を取りたいのだが、ここではあまり手の内を見せつくしたくない。敵の出方を見るのが一番だろうか。
トレ
3・2・1・fire.
3・2・1・fire.
2・1・fire.
1・fire. Fire. Fire. Fire.
残弾数およそ15。的中562。戦闘力、ドウエ級と判断されるユニットを確認。補足。
3・2・1・fire.着弾。外傷なし。何らかの方法で防がれた模様。リロード……完了。
……!スコープ越しに視線を確認。こちらを捕捉された模様。撤退行動に移る。
目標の高速接近を確認。手りゅう弾用意。3・2・1・投擲。着弾を確認。外傷なし。自爆用手りゅう弾用意。
ピン設定3秒。目標からの不可視の攻撃により手りゅう弾喪失。
理央……ごめん……。
オット
こりゃあヤバいな。負傷者が多すぎる。珍しく本気出さないといけないところじゃないのこれ。
この傭兵団において、「最強」の戦力はドウエ。それは間違いない。それに、「最大」の戦力はミサイルやなんかを使えるティンケの一強だろう。でも、敵が目にしたときに、「最悪」の戦力は別だ。
人は、ある特定の形、材質、見た目に恐怖を覚える。だからこそ、それを使える人間がいたら、それこそ「最悪」の戦力になるだろう。
実は僕には、ウーノにも隠している能力みたいなものがある。使ったあとは瀕死になるし、気分も悪くなるから、できれば使いたくないけど。
でも、たぶんこのままだとトレとかめっちゃ狙われるだろうなぁ。狙撃手ってのは、ポイントを変えながら戦うのが普通なんだけど、この城だとそもそもそれができるところがほとんどないから。
仕方がないから、トレは見張り等の上に陣取って狙撃しているけど、それもそろそろ弾切れ。うーん。よくないなぁ。
この場を手伝ってくれている愛しのノヴェには申し訳ないけど、もしかしたらここでお別れになるかもね。
あーあ、せっかく付き合えたのにもったいないことしてるなぁ、僕。
でも、医者である以上、人命を最優先にしないといけないし、そのためにはあいつを早く討ち取って、戦争を早く終わらせないといけない。
はぁ。仕方ない。
この秘薬は、かつてマウスに使ったらえらいことになったから、ドウエとウーノにめちゃくちゃ叱られたもの。でも、これの本来の用途はネズミじゃない。僕は医者だからね。
これを隠れて改良して、使っても死なない程度に抑え、自らの体が拒絶反応を起こさないように調整したもの。これが「最悪」の兵器であり戦力だ。
「ノヴェ。」
手伝ってくれているノヴェにも声をかけておく。これが最後かもしれないんだ、これぐらい許してほしい。
「なんだい?」
すっかり僕の恋人として、周りにも本人にも定着したその反応は、別れを非常に惜しませるものだ。
「済まないんだけど、トレの弾薬を補給しに行ってあげなきゃいけないんだ。
浮気じゃないから、安心してほしい。
帰るまでに時間がかかるから、その間ここを頼む。」
「えっ、補給なら僕が……。」
「かわいい恋人に危険な目にあってほしくないんだ。たまには、わがままを聞いてくれ。」
「たまにはって、いつもだr……!!」
口答えしかけた恋人の故地は、自分の口でふさぐのが古来よりのやり方。しばらく抵抗していたが、やがて体中から力が抜ける。
「続きは終わったらね。」
続きがあることは約束できないけど、とは続けられなかった。
万が一のために白衣のポケットに隠し持っている注射器を取り出す。
「さてと、死なないといいなぁ!」
こっそり呟いて、トレのいる見張り台に駆け上がった。
ノヴェ
オットが駆け上がっていった階段をしばらく呆然となって見てしまった。見とれてしまったといった方が正しいか。
それにしてもオット、何か覚悟を決めた顔をしていた。こっそりとはいえ、ずっと見ていた恋人を見くびらないでほしい。
でも、オットが何かに覚悟を決めることなんてそんなにあることじゃない。この前はティンケの蘇生の時だったけど、その前見たのは、いつだったか。
それを止めるなんてマネは無粋も無粋、できるわけがなかった。
遠くに見える線上には、二つ大きな穴が開いている。おそらく、ウーノの言っていた「ドウエに匹敵する戦力」だろう。その周りには、もはや誰も近づかない。
ドウエは味方かどうかきちんと見極めるが、敵はそうではないらしい。近づくものを片っ端から切っている。だから、だれもその人の周りには近づかず、その人は大暴れする一方だ。
ふと、その人のわきで何かがはじけるような閃光が見えた。誰かに狙撃でもされたのか?
考えるより先に、足がオットを追いかけていた。何か、とてもよくない予感がする。オットはトレの補給に行くと言っていたし、冷静に考えたら、いつも敵に見つかったことさえないトレのもとに行くのに、「危険」ということはないだろう。
つまり、トレはおそらく敵にすでに見つかっていて、「危険」だから、そのトレを助けるためにあちらへと向かったのだ。
でも、オットの戦闘力は皆無じゃないか。いったい、どうするつもりなんだ。
見張り塔に上る途中、塔から敵を偵察するための穴から、先ほどの敵の中でもドウエ並みに強い奴が、その戦場の空白から跳躍してくるのが見えた。
とても大柄な女だ。女性でそんな筋力を持つなんて、とも思ったが、そもそも魔法があるのだから関係ないと気が付く。そうこうしているうちにたどり着いた屋上では、オットがトレを抱えて、間一髪の回避をしたところだった。
どこぞのヒロインみたいに安い誤解をするつもりはないが、いい気はしない。
でも、そんなことより、オットにその敵が向かっているほうが厄介だ。とどめを刺すかのようにそちらへとじりじり歩み寄る。
「オット!」
こんなときに、早く走れない自分をどれだけ呪っただろう。
「とまれ、ノヴェ!」
オットはそう叫ぶと、手に取った注射針を自分の腕に突き刺し、薬品を流し込む。
「この姿、ノヴェにだけは見られたくなかったけどなぁ。」
その声が、だんだんと太くなっていく。あのトレですら驚いた顔をしている。
「これは、三つの薬品を混ぜた混合物を、僕の体用に調整したもの。
一つ、筋肉を数千倍に増強させる薬品。
二つ、皮膚を大きく引きのばす薬品。
三つ、体全体を不定形にする薬品。
僕の体用に調整したのが君だけでなかったことは謝るよ、ノヴェ。
バカな恋人を許しておくれ。」
最後の方は、もとはテノールだった声がバスの歌手もびっくりなほど低くなり、体がぶよぶよとしていく。
「この世界は異世界なのに、スライムがいなかったからね。ちょうどいいだろう?」
わざとらしくおどけて言うオットに、僕は怒れない。自分のためにここまで頑張ってくれているのに怒るのはその人への侮辱でしかない。
トレや僕と同じように目を見開いて驚いていた大女は我に返ると剣を握りしめる。
「化け物めぇ!」
そう言って切りかかってくる女をかつて右腕だった部位で軽くバチンとやると、女は漫画のように遠くへ飛んで行ってしまった。
「じゃあ、いっちょ戦争終わらせてくるわ!」
そういうと、オットは塔の一部が陥没するほど高くとび、戦場の敵陣ど真ん中へと行ってしまった。残されたのは呆然とした僕とトレ、そして、オットの使った注射器だけだった。
ティンケ
あーあー、オットのおじきったら、若くないのに無理しちゃって。それ、君が動けないから治す薬作るの僕なんだよ?
まったく、皆さんもっと私をいたわってー!
筋肉を小さくする薬、皮膚を引き締める薬、骨格を再形成する薬……だけじゃああぁなああぁい!!
この薬を、その日のオットの体調とかと合わせながら調合して、何より一番面倒なのが、栄養!あんだけ肥大化して大暴れしたら、どんな馬鹿でもわかるぐらい大量のエネルギーを使う。
な!の!に!あのおっさんはなぜか自分で先に栄養を取ることをしない。そのぐらい自分でしろや!
一度そのことについて文句を言ったら、
「だって、若い子に看病してもらった方がいいじゃん?」
とのこと。なので、尊き恋人に栄養食品と、栄養注射(もちろん針は無意味にぶっとく)を大量に送り付けてやろう。全部恋人の手で突き刺してもらうといいさ。
ついでに、普段は刺される側であろう恋人のために、栄養座薬も混ぜておいてあげることにした。ぐ腐腐腐。
さてさて。本当は、私がやれば戦争は秒で終わる。でも、ウーノに
「環境破壊をしたら、すべて直すまでここに残ってもらうけれど、いいかい?」
と言われてしまった。
それをされると、次のコミケに間に合わなそうなので、やめた。
ドローンで戦場を見ていると、何かが飛んできて、ドローンごと吹き飛ばされてしまい、画面が一瞬ブラックアウトする。
女の人みたいに見えたけど、きっと気のせい!うん!
そんなことより、早く戦争を終わらせないといけない。それでいて、環境破壊はダメ……。そうだ!回復薬を味方に散布してやろう!
そう思いついたら、もう止まらない。
超高濃度の回復薬を手元にある新しいドローンに張り付けて、飛び立たせてあげる。
「いってらっしゃい!ヒーラー1号!」
即席でつけた名前で、ドローンは飛んでいくが。バシュッ。トレに撃ち落されてしまった。
「何するのさートレっちー」
「地面、芝生。」
それしか言わないとは、相変わらず無愛想ちゃんだねぇトレっちは。
でも、以心伝心の僕と君なら、その思いも伝わるよー!
つまり君は、地面が芝生だから地面が芝生なのにそんなもの撒いたらどうなるのかって聞きたかったんだね!?
もちろん、元気よくおいし……げ……。
足が動かなーい!
トレっちが撃ち落としたところからじゃんじゃん芝生が出てきて、おかげで足が絡み取られて動けないんだけど。
これ、助けてくれるんだよねぇ、トレっち?ねぇ、トレっちってば!
「要反省。」
「大丈夫ですかー?」
結局、駆け付けたノヴェさんに助けてもらった。
苦労人ですねえ、あなたも。私は主に苦労かける側だけどさ。
ウーノ
その日の戦闘において、オーディン軍約8万、ユミル軍4万の死者が出た。オットはしばらくは起き上がれなさそうだし、ほかのメンバーも多かれ少なかれ怪我をしていた。
その日、私はオーディンに攻め込むことを決意した。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
いかがでしたでしょうか!
今回で、団の「防衛戦」は終わり、次回からは攻戦に入ります。章分け、しようかなぁ。
さて、終わりも見えてきましたが、あともう少し、お付き合いくださいませ!




