18、セーイ、初出陣
はい、Twitterの方から来てくださった方々、ありがとうございます!
こちらで運命的な出会いをした方も、ありがとうございます!
ということでみなさんありがとうございます!怪物mercuryです!
今回は再びのセーイ回です。
この作品、キャラの濃さのバランスが本当に難しいです……
冷静に考えて、素人が戦場でやっていけるはずなどない。特に俺なんかは、ずっと引きこもっていて、まともに運動をしたのは8歳のころ。もちろん、多少の運動は傭兵家業を始めてから、やるようにしていたが、それも多少である。
それでも何とかやってこれたのは、ティンケとソリアのおかげだろう。ティンケの熱戦銃は、クワトロを打ったのが最後に忘れられ気味だったが、これはとても強い。
見張り台ぐらいの高さに立ち、敵陣の方に向けて引き金を引く。なるほど、トレはこういう光景をみていたのか。
さらに、ディバイダーの方も優秀だ。この世界の剣はせいぜい1メートルだが、このディバイダーは周囲の原子・分子を取り込むことで、無限に伸ばせるらしい。
ちなみに、ソリアは王家の部屋から戦いを見守らないといけないらしい。ソリアのぽかんとした様子が目に浮かぶ一方、出陣したくとも、魔法による援護ぐらいしか許されない彼女がかわいそうにも思えた。
ならば、彼女のくれたモーニングスターも使わなくては失礼というものだろう。地面に勢いよくたたきつけ、魔法力を流し込む。
本来は、魔法にも決まった形状があるらしい。(「暗闇」「火矢」「カマイタチ」など)だが、何せ電気魔法は誰も見たことがないので、わからないんだとか。
だが、魔法力だけよりもイメージによる指向性があったほうが威力は上がるのだろう。周囲の敵たちはパチッという音とともにびくっとしている。静電気かよ。
慌てて剣を横なぎにし、周囲の人間が崩れる。敵とはいえ、同じ人間を切ったのに吐き気を禁じ得ないのは、傭兵として前線に立ってこなかったからだろうか。
あたりを覆う血の海から目をそらすために見上げた空が曇っているので、ちょっとしたことを思いついた。
周囲に味方の少ないところへ移動して、モーニングスターを高く振りかぶりながらこう叫ぶ。
「雷撃!」
すると、金属製のモーニングスターに雷が落ちる。
自分の魔法力と同時にコントロールしながら、再び勢いよくたたきつけると、バチィ!という先ほどよりはるかに大きい音がした。
周囲の敵たちが一気に大勢崩れ落ちる。その、俺を中心とした戦場の穴は、同心円状に広がっていく。
やがて、一番近くにいた味方も倒れる
「えっ……?」
もちろんその近くにいる敵も倒れる。
その戦場の穴は広がり続け、ついには自陣も敵陣も大穴ができる。
「何やってんのよ大馬鹿―!」
ソリアの声が耳元で響く。おそらく、塔の上から、風魔法で器用にここまで声を運んできたのだろう。
「そういわれても、これ、どうしたら……。」
「魔法力をストップさせればいいだけ!
そんなこともわからないの?このドベッ!」
女の子の使う言葉ではないなと思いつつ、慌てて魔法を中断させる。周りの様子にあっけにとられて見えていなかったが、モーニングスターには雷が落ち続けていたらしい。
ふとまぶしさに顔を上げると、自分の上空だけ晴れていた。魔法で力を吸いつくしてしまったのだろうか。
「どうも、あんたの魔法は、自分自身の力よりも、周りの力を返還させる方が上手みたいね。」
今度は声量を絞ってくれたソリアの声が耳に届く。なるほど、コンピューターの本質みたいなものだな。
そう思いながらあたりを見回すと、わずかに意識のある敵兵が、味方を見捨てて逃走していた。
さらに振り返ってみると、わずかに意識のある味方が、俺を敵でも見るような目で逃走していた。
「このばかっ!
ドベッ!
あほんだらっ!」
ちょっと女の子とは思えない威力の、蹴り、パンチ、払い腰を受け、本当に久しぶりに受け身を取る。
戦場でのダメージよりもこちらの方がダメージ大きいんじゃないだろうか。
「城の中に残っていたわずかな塀で、何とか敵も味方も回収できたし、被害はほぼゼロ、敵方を大勢捕虜にできたのはいいけどねぇ!?
あんなに大勢味方も気絶させたら意味無いの!
おわかり!?」
同じくほとんど気絶している味方である俺には容赦なく罵声という名の追撃をしてくるくせに。
ふらふらする頭を振って意識を取り戻し、何とか座る。
「初陣なんだから、あれぐらいやらかしても仕方ないだろ。」
「初陣であんな化け物みたいなことする奴がいるか!
おかげで、おいそれとあんたを外に出せなくなったじゃない!」
そんなに大ごとなのか。
「それに、魔法を使っているのが見つかったら、街を歩けなくなるわよ!」
それは困る。
「しかもしかも、あなたを神の使いとして担ぎ上げようってやつまで出てきてるのよ!
本当にどうしてくれんの!」
それまた困る追加情報だ。ここに長居するつもりは、そんなになかったからなぁ。
そんなことを、王座の間で正座させられながら、かつ、一応出されたシチューとパンをぱくつきながら考える。
「大変です!
オーディンの国王からの使者がもう捕虜を返せと!」
「吹っかけてやれ!」
ソリアが叫ぶと、ソリアのお父さん=国王も苦笑い。
「さすがにそうやすやすと吹っ掛けさせてはくれないだろうなあ。」
なるほど、娘さんに苦労なさっているのですね。どうしてこんな子に育てた……。
「いいえ、お父様。
きっとこちらのセーイ様のお力を持ってすれば可能ですわ!」
余計なことを言うでない。
「いや、もう晴れてしまったし、彼の力はいまだ不安定なのだろう?
それに頼りすぎるのもよくない。」
と、言葉を区切った王が、一番聞いてほしくないことを聞いてきた。
「ところで、先ほどのは何属性なのかね?
後学のために教えていただきたいのだが。」
俺とソリアは我先にと逃げ出した。
「はあっ、はあっ、おまえ、何自分の父親から逃げてんだよ。」
「お、おまえこそ、国王に背を向けるとは何事だっ……はあっ。」
城から通じる長い通りの、城壁側。この内側に街を構成するすべての施設が入っており、先ほどまで戦争だったとは思えないほどの賑わいを見せていた。
「お前の国の民たち、たくましすぎるだろ。
というより、元気すぎるだろ。」
「あたしは冒険者ギルド周辺の、つまりここら辺のみんなと仲がいいから、さりげなく何かあってもきちんと自分たちでフォローできるように鍛えてるんだよ!」
「なるほど、つまりここら辺の民たちはみんなお前みたいに狂ぼブッ……」
「元気っていいよなぁ!」
本当に、凶暴な女だ。
「それで?こっからどうするんだ?」
そう聞かれて、ちょっと考え込む。魔法のことがばれた以上、なるだけこの国に長居したくない。
「うーん、おそらくクワトロがいると思われるオーディンにいくかなぁ。
でも、問題点として、暗殺じゃあいつに勝てるわけないからなぁ。」
「なら、ずっとこの国にいればいいよ。」
「えっ……。」
「い、いや、なんでもない!
ただ、そんな危ないことするなら、私たちと一緒に動いた方がいいと思うってだけ!」
「一理あるけど、それじゃだめだよ。
またクワトロの被害者が出る前に、早くあいつを殺さなきゃいけないからね。」
というか、こんなにも活気にあふれた街のど真ん中で、殺す殺さないの話をしている俺達って、単なる不審者じゃん。
そう思ったところ、それはフラグだったらしい。
「お前ら!
街中で人目をはばからず殺す殺さないと話すとは、何者だ!」
巡回中の衛兵さんに目をつけられたらしい。なんとも職務勤勉なのだろうか。しかし、権利的な問題なのか、ソリアの顔は知らないらしい。
「また逃げるのかあぁ!」
今度は出だしで完全にソリアに置いて行かれた。今度会ったら、泣くまでくすぐってやる。
逃げながらそんなことを考えていると、運悪く袋小路に行きついてしまった。しかし目の前には大きな箱が!この中に隠れれば……。
はい、無理でした。そりゃそうだよね!袋小路で人が消えたときに、大きな箱を見つけたらその中調べるよね普通!
漫画かアニメみたいにうまく逃げ切れるほど世の中は甘くなかった。それでも、俺を置いて逃げた罰が当たったのか先に捕まったソリアが、何とかして自分が王族だと証明したらしい。牢屋ではなく、来客用の部屋に通された。
「それで、おぬしらはなにをしているのだ?このようなところで。」
王族が街中で不審なことをして捕まるという事態に、さすがに王が動いたらしい。ほんと、ご迷惑をおかけします。
一度王の書斎に通されたときに、ギャグみたいに積まれた資料や書類の山を見た俺はもうしわけなくなる。
「いろいろあったのです、お父様!」
民の前ということもあり必死に敬語で取り繕うソリアだが……お前、冷や汗出てるぞ。
「まあ。深くは聞かん。
そもそも、他人の魔法を詮索するというマナー違反を犯したのは私だ。
申し訳なかった。」
さすがに、衆人環視の中で王が頭を下げるわけにはいかないだろうが、これはそういうレベルのことだったのか、と何となく理解する。
「まあ、過ぎたことですし、お気になさらず?」
最後は少し疑問形になってしまったが、取り繕うと、
「とりあえず、お城に帰りません?」
捕らわれている姫様と旅人、それに謝る王という変な構図に集まる好奇の目をに耐えられるほど、俺は達観できなかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます!
いかがでしたでしょうか!
さて、フェンリル対オーディンの第一回戦はフェンリルに軍配が上がりましたね。
一方のユミル対オーディンはどうなるのでしょうか?
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