神の化身
「なぁに、簡単な事さ。ナル帝国のあやつの大規模転移魔法を利用させてもらおうと思ってな。」
自慢げな顔でそういうと。ホレ、と言って窓の外を見るように促した。
その指示通りに外を見るとそこには上空に一人、黒い鎧を纏った人間が巨大な魔法陣の上に居座っていた。
聞けば全世界に散らばりその侵蝕を抑えているという。
「あれは神柱を変質させ悪魔を宿した人間でな。そのおかげであのナル帝王の魔法にも飲まれずにああして抑えることが出来ているのじゃ。」
自らの工作品を自慢するようなその小学生のような物言いはなにを意味するのか。
今にも切りかかろうとする本条をいさめ、その意図を尋ねた。
「だから言っただろう?あのナル帝王の計画を潰し、その転移魔法を使いたい。」
ナル帝王の計画を潰す点に関しては利害は一致するはずだ。と言ってどうじゃ?と聞いてくる女神。
見鏡はしばらくの逡巡の後こう答えた。
「帝王の計画を潰すまでは協力しよう。だがその後は――――」
そういいかけた見鏡の台詞を女神は分かっておる、と言って制止し、そうと決まれば話は早いといって地面に魔法陣を描いた。
「この世界の中を転移する程度ならば簡単なんじゃがのぅ。」
そう言って女神は言葉を呟くと、視界が透き通った青一色で染められた。
視界が晴れると、そこはかなり大きな白一色に染められた正方形の部屋だった。
中央に描かれている魔法陣もかなり大きく、その魔法陣をまたいだ向こう側には豪華な椅子に座った見覚えのある顔を見つけることが出来た。
「久し振りじゃのぅ、ナル帝王さんや?」
見鏡の隣で女神がせせら笑いを含めた声で問いかけると、帝王は重苦しい言葉を放った。
「貴様が何かしておるとは思ったが・・・こんな事とはなぁ、何時までも悪魔程度に押さえつけられる力ではあるまいよ。」
そういって顔を上げると、こちらを認識し少し驚いた声色で帝王は言った。
「お主も来たのか・・・アイツの息子を殺してアイツをよみがえらせるのは心が痛むな・・・」
アイツの息子を殺してアイツを蘇らせる。
ソレはつまり。
「お前、俺の親父か母親でも蘇らせるつもりだったのか?」
見鏡がそう聞くと、帝王はハッハッハッと豪快に笑いながら答えた。
「そうともさ。アイツはまだ死ぬべきでは無かったのだよ、あの程度で死んでいい人間ではなかった!」
言葉の途中から言葉に怒りを滲ませ最後には怒号を上げていた。
「ソレなのに世の神は殺した!見捨てたのだ!それを私は許せない!」
怒りのあまり座っていた椅子の肘掛を握りつぶすがそこからは一滴の血も垂れていなかった。
すると突然勢い良く立ち上がると、低い声でさらに怒号を上げた。
「貴様もそうは思わぬか!氷雨!貴様の両親はあの程度の事で死んでいい人間ではなかった!そうだろう!」
「うるせぇ!あの二人は死んだんだ!今更それを行き返すなんざ!あの二人の物語は終わったんだよ!」
帝王のその問いに見鏡はディールークルムを引き抜き、怒りを地面を切り裂くことで発散させながら叫び、答えた。
「あの二人の物語をつぎはぎだらけでも!それでも続けさせようというこの気持ちがわからぬか!」
「わかるさ!だからこそ俺はそれをさせない!」
見鏡が帝王の問いにまた更に怒号で返すと、このままではただのいたちごっこだという事に気付いた二人は静かに武器を構えた。
見鏡が武器を構えたのにあわせ、ステラメンバーと女神も共に武器を構える。
見鏡たちが武器を構えるのを確認すると、帝王は派手に装飾された両手剣を振り上げながら言った。
「私は、あの二人を生き返らせるためには神程度殺して見せようではないか!」
そう叫ぶと、剣に魔力を纏わせながら振り下ろした。
「ぬぅん!」
技自体は良くある剣戟を飛ばすというものだったが、レベルがまるで違った。
それは威力のあまり周囲にあるものを粉々に粉砕しながら突き進んでくる。
魔法陣のある地面を抉り取っていくが、魔法陣はそれ自体で存在しているのか全く影響を受けずに漂っていた。
ガガガガガガガガ!と地面を削り取っていくその威力を目の当たりにし、見鏡は全員に指示を出す。
「全員自分の一番強い攻撃を叩きつけろ!」
見鏡は両の剣に魔力を纏わせ、シンリアはスタッフに冷気を、本条は巨大な両手剣に剣戟を。ルイとアキは人形に魔力を。秋乃はその全てを後押しするように後ろから押し出すように両手を突き出した。
「「「「「「あぁあっぁあぁああぁああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」」
全員の掛け声と共に飛んでいった攻撃は帝王の剣戟と真正面からぶつかり視界一面を埋め尽くす光と何もかもを吹き飛ばす爆風を部屋中に生み出した。
視界が晴れて周りを見渡すと、部屋のいたるところにひび割れが走り、そこからパラパラと土や小石が落ちている。
爆発の際に吹き飛ばされ痛めつけられた体を起こし前方を確認すると、そこには帝王との間の空間がゆがんでいる様が見えた。
一瞬どういうことかと目を疑うが、次第にゆがんでいるのは帝王だけではないという事が分かった。
「空間が歪んでいる・・・?」
見鏡が呟くと、同じく痛そうに体を起こした女神が答えた。
「恐らく閉じられた空間にあまりに大きな力が働いた為に違う空間に逃げ出すための道具として開いたんでしょう。」
そう答えると、ただそれだけなら良いのだけれどね。
と一人で呟いた。
ソレがなんのことを指しているのか分からずに呆然としていると直ぐに意味が分かる事となる。
歪んではいるものの、まだ開いてはいないその空間のゆがみから突如手が現れた。
スキマを無理やりこじ開けるようにして出現した指はその空間を押し広げていき、ついには両手がはいるまでの大きさに至り両手で一気にこじ開けていた。
ゆがみの中は真っ暗でまさに暗黒と称するのが一番と言った暗さだった。
そしてそこからゆっくりと現れたのは。
先程レニが戦闘したものやいつぞやの村で見鏡が戦った魔物と酷似した生き物だった。
二人が戦ったのはレプリカであるが今度は本物だ。
「グルニアス・・・まさかあいつが・・・」
本条が呆然と呟くと、女神が肯定するように頷いた。
グルニアス。
何故あんなものがこんなところに。
軽く絶望に打ちひしがれていた見鏡達の考えを察したように女神が説明した。
「おそらくこの世の理を大きく曲げようとしたあの帝王を殺す為に、本物の神が遣わしたものでしょうね。そして恐らく命令はその場にいる全員。」
そこまで言って一呼吸置き言った。
つまり、私達も狙われているわ。
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「これはまずいねぇ・・・違う空間に行ったのにこの残った空間のゆがみから気配を感じ取れる程のものとは・・・グルニアスかな?」
神の化身とも呼ばれるグルニアスが来るとは誤算だった。
そういってツカツカと空間の歪みに歩み寄ると少し右手を突っ込み感触を確かめてから面倒そうに言った。
「ま、僕も魔物の類だし、通れるでしょ。」
そう言うと何の躊躇いもなく、亜空間へと身を投げた。
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グルニアスは部屋へと出現すると、ゆっくりと周囲を見渡した。
恐らく部屋にいる人間・・・標的となる物体を確認しているのだろう。
行動には全く殺意のこもっているものではなかったが部屋に満ちるその雰囲気には息をも止めさせる物があった。
体中からは冷や汗がダラダラと流れ出し、既に顎の下には汗で出来た小さなしみが出来ていた。
次元が違う。
恐らくあのレニでさえも時間稼ぎにすらならないだろうというレベルの敵だった。
全員がグルニアスの重苦しい気配に動きを止められていると突如グルニアスの向こう側に倒れている帝王がムクリと立ち上がり、明確な怒りの表情に顔を歪めグルニアスに叫んだ。
「また神は邪魔をしようというのか・・・っ!それならばこちらも神を殺してでも目的は果たさせてもらう!」
ドス、という音を立てて持っている剣を地面に突き立てると次の瞬間。
帝王の周囲の空気が弾けとんだ。
パン!という乾いた音が響くと、音にそぐわぬ暴風が吹き荒れた。
恐らくあの国での女神が放った風よりも強いものだろう。
ステラの面々が必死で武器を地面に突き立て飛ばされないように苦労している中、見鏡がやっとの思いで視線を上げると、風にとばされまいと踏ん張っているグルニアスがいた。
一瞬その光景に我が目を疑ったが何度見直してもソレは事実だった。
まさか。
可能性は限りなく0に近いがあるにはあることだ。
「人が神の化身を超えた・・・?」
見鏡が呟くと、隣で女神がそれを否定した。
「いいえ、あれは違うわ。あのグルニアスはまだ幼体と言うだけ。グルニアスは顕現してから成長を始めるの。そしてその成長スピードは計り知れないものよ。」
そこまで言うと一旦言葉を止め、女神は顎でグルニアスを指し始まった。とだけ言った。
それがなにを意味するのか頭では考え付かなかったがグルニアスを見ると一瞬で分かった。
成体への最終成長だった。
腕を×形に組み片膝を突き屈む。風に飛ばされまいとしていたと思っていたその姿勢は成長の一貫だったのだ。
グルニアスは巨大化こそしないもののその様はみるみる変っていった。
肩甲骨からは黒い羽が生え、尻尾が生え。
全体的に茶色だった体毛は漆黒に塗りつぶされた。
そして更には角が巻き角へと変化して行った。
その変化したグルニアスを一番手っ取り早く形容するならばそう――――
「悪魔ね。」
女神はそう呟いた。
「それも人間に宿すためではなく破壊するためだけに生まれた悪魔。皮肉なものね。神が生み出すものは何時だって悪魔だなんて。」
女神は自分の今までの行いを思い出したのか、自虐の色を混ぜた言葉を放った。
見鏡は一瞬なんと言ったものか迷ったが、目の前の状況が一瞬で変った。
成体への変化を遂げたグルニアスは羽を一回だけ羽ばたかせると、一瞬で帝王に肉薄し右の拳で頭上から垂直に降ろした。
グシャ、という音と共にグルニアスの拳の下に血の水溜りが出来る。
初めて人の死を間近で見たアキとルイは顔を青ざめて今にもはきそうになっているがそんな事を気にすることが出来るほど余裕のある状況でもない。
帝王が死んだことで風が止み、痛むからだを引きずりながら立ち上がる。
グルニアス。
神の化身と呼ばれ、場所によっては崇拝すらされている魔物との対峙はどの戦闘よりも緊張感を伴うものだった。
見鏡達が立ち上がるのと同時にこちらに視線を移したグルニアスは、見鏡達より速く臨戦態勢に入った。
全員が武器を揃え、構える終わるとそれを待っていたかのようにグルニアスは見鏡達の目の前へ出現した。
全員がその動きを見ることは敵わなかった。
ステラの面々がグルニアスの姿を視認した次の瞬間。
見鏡達の目の前にグルニアスの右拳が落とされた。
その衝撃波によって吹き飛ばされた。
見鏡は一瞬戦闘になれて居ないアキやルイが気に掛かったが、秋乃がアキを庇いながら吹き飛んでいるのを見た後にルイも気絶はしているが死んではいないことを確認すると意識を手放した。




