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story in story  作者: 初谷ゆずる
ナルへの侵攻
43/46

終わりの始まり

「揃った事だし、さぁ帝王の邪魔と行こうじゃあないか。」


ラファエルがそういうと、他の二人の神柱は頷いて肯定した。


押し寄せる魔物を背中に、ラファエルは三人に風を纏わせ一直線にナル帝国の城へと飛んでいく。


少し飛び、あと100mほどで城に着く、と言うところで眼下の建物の影から出てきた門術使いの人間達に囲まれた。


ここまで対応が速いと言う事は。


「なんや、神柱四大天使の特権使って帝王のところまでは存外早くいけると思ったんやがなぁ。」


「もう敵として認識されているわネ」


後頭部に両手を当ててウッシッシと笑みを浮かべるウリエルと、面倒そうにつぶやくガブリエルからはおよそ戦いの前の危機感と言うものはまったく感じられなかった。


恐らく目の前に立っている人間は敵として認識していない・・・という事なのだろう。


それはラファエルも同様だった。


眼鏡の位置を右手で直すと、目の前にいる10人ほどの門術使いに向けて告げた。


「今すぐそこを退かなければ、自分の体を下から見ることになるけど良いかな?」


意訳:退かなければ首撥ねるぞ。


という明らかな脅しをしても一向に微動だにしない門術使いたち。


恐らくいくら神柱といってもこちらは10人。


束になってかかれば問題ないとでも思っているのだろう。


しかしそれは思い上がりと言うものだった。


その証拠に、ラファエルが相手に動く気が無いと判断した次の瞬間。


門術使いたちの首から上が消え去った。


「あまり思い上がらないほうがいい。」


そう冷たく言うと先を急ぐべく城へと再び進んだ。


時刻は四時。


****


同時刻。


城の中でガサゴソと動き回る一人の人物がいた。


茶髪で無精ひげを生やした中年男性はご存知の通りのレニスン・フィアだった。


「いやぁ、何か知らないが警備が薄くなってくれて助かったな。」


何か、というか既にどういう事が起ころうとしているのかは分かっているのだが。


恐らくそれを前にして警備が厚くなっていたのだろうが、今何者かの進入によって警備陣が荒れていた。


それに乗じ、帝王の部屋を目指す。


正直真正面から叩き潰してやるのもいいがそれだと意味の無い死が多く出過ぎる。


それならば直接一対一が良いだろう。


伊達に門術を作った人間ではない。そう簡単に負けるということも無いだろう。


守衛を脅した情報では、立ち入り禁止区域はこの先100mほど真っ直ぐな廊下を突き進んだところにあるらしい。


いくら警備が荒れた状態でも常に三人は警備がいるところをみると恐らくかなりの重要性のあるところだろう。


それに。


早くこの騒動を終わらせなければ世界の秩序を守る為に存在する神とやらが面倒な魔物を送りつけて来かねない。


グルニアスなんて出て来たら手に負えないからな。


すると、スルスルと右手首から細いロープを垂らしグッと足に力を溜め一直線に警備へと跳びかかった。


一瞬で警備に肉薄し、警備の首へ向かいロープを振ると警備の首に当たる寸前でローブは堅くなり先が尖るという鋭利な刃物へと化した。


それで右から左へ三人もろとも切り崩し、その勢いで扉の中へ飛び込む。


部屋はエントランスと言っても良いほどに大きいものだった。


恐らく全ての辺が100mはゆうに行くだろう正方形の箱のような形で、中央には巨大な赤く怪しく光る魔方陣が描かれていた。


扉を閉めてしまうと光源はその魔方陣だけだったが、魔方陣の輝きが強くそれでも十分なほどだった。


ツカツカと魔方陣に歩み寄り、罠かもしれないので魔方陣上に体を入れないようにして出来るだけ近づき分析を始める。


「こいつは・・・門術使いに神柱を宿らせた人間の作ったものだな・・・」


それが分かる理由といえば、魔方陣からにじみ出る魔力の質としか言いようが無いのだが。


そうして観察を続けていると突如魔方陣が更なる光を発した。


それに言いようの無い危機感を感じたレニはとっさに後ずさりをした。


何が起こるのかを把握する為にじっと魔方陣の中央を睨みつけていると、ズ、ズ、ズという何かを引きずり出すような音と共に何者かの頭が覗き出た。


頭、と言うのは角が最初に出てきたので恐らく頭だろうと判断できただけであったのだが。


段々と姿を現すのに応じて、段々と魔方陣の大きさが縮んでいく。


つまり魔方陣がなくなるときが眼前の敵であろう者の全長が現れる時。


簡単に推測して大体60mほどの高さだろうか。


「おいおい・・・でかすぎだろ・・・」


呆れたように呟くが事実は変らない。


相手が完全に現れる前に攻撃しようとも考えたが、あの不安定な魔法陣を考えると下手に手を出して亜空間にでも放り出されてはたまらない。


「見立てとか今の状況からするとあれは転移魔法ってところだったとして・・・」


普通の転移魔法ならば魔法陣は消えていかないはず・・・とそこまで考えたところであることに気がついた。


最近発明されたと言うガーディアン。


あれは魔法陣の秘匿性を主な旨とした物だった筈。


従来のガーディアンはただ出現するだけで、魔法陣の形を覚えられそして逃げられるという事も何度かあったらしくそれの改良版ということだ。


しかし万能に見えて今のガーディアンはガーディアンが倒されれば魔法陣を解析しなくても勝手に発動するという曰くつき。所謂不良品だ。


しかしガーディアンの強さは門術30門に匹敵すると言われているほどだからその心配も無いだろう。と言うものだった。


つまり。


「ここまでしてるってことは、正解ってことか?」


おそらくあのガーディアンが飲み込んだ魔法陣は帝王の例の大規模魔法の準備のための部屋に繋がっている事だろう。


ガーディアンを倒さなければいけないという面倒が条件として存在するわけだが。


「まぁ、門術30門程度なら勝てるか?」


ゴキゴキと肩を鳴らすと、レニは大して気合も込めずに呟いた。


「30門、開錠。」


良くある空気の爆発などは無かったのだが、レニの周囲の空気が異質なものへと変化した。


そして次に変化したのは、レニの縛った髪や衣装がフワフワと漂っている。


「重力制止って疲れるからなぁ、一気に終わらせてもらうぜ?」


そういってニヤリと笑った表情はとても主人公側とは思えない顔だった。


時刻は五時。


****


レニが門術を使い始めた時と同時刻。


ラファエルは城の一角からドロッとした異様な気配を感じとっさに身構えた。


レニの物なのだが、それを知らない神柱の面々はその気配の出所を探った。


「ねぇ、この感じ・・・」


ガブリエルがピリピリとした表情でラファエルに聞くが、ラファエルにその質問に答えるほどの余裕は残されていなかった。


既に化け物の領域へと突入しているソレはもはや次元が違った。


人間として認識して良いほどのレベルじゃあない。


この異質な殺気にラファエルとガブリエルの二人は冷や汗を流しているが、ウリエルは大した影響もなくその気配の元へと歩みを進めた。


それをみたガブリエルが呆れたようにため息をして言った。


「相変わらず・・・アイツの神経の図太さにはあきれるわね・・・」


その諦めたような台詞にラファエルも同調し、下手に警戒するのも馬鹿らしくなったのか先程までの警戒を解きウリエルの後を追った。


****


ドン!という空気が押しつぶされた音が鳴り響くと、続けてドドドン!という拳を肉に叩き込んだ音がした。


レニスンは、60m超の全長を持つ敵に対して拳で戦っていた。


相手は巨大な斧を持っていたが、それをものともせずに顔面へ拳を叩き込んでいく。


小さい攻撃を10発ほど仕掛けた後、敵がよろめいているうちに右腕を限界まで引き絞りためを作り顎へ渾身の一撃をお見舞いした。


グシャ!という顎の骨や肉がつぶれた音と共に敵は20mほど吹き飛んだ。


しかしまだ攻撃を終わらせるつもりが無いのか、空を蹴って追いかけようとした次の瞬間。


敵の体が突然ゴゥ!という音と共に燃え上がった。


全身から炎が噴出し、先程まで持っていた斧は松明へと変化していた。


流石に炎に近づくのは危険だと判断し、追うのを中断したレニに敵は松明を振り下ろした。


ヴン、という空気を切り裂く音を伴いレニに襲い掛かるそのたいまつはレニの上空2mほどで突然動きが止まった。


何事か、という表情で敵が松明を戻そうと腕を引っ張るがソレも動かない。


段々と手のひらが動かなくなり、次いで腕。そして肩と動かなくなり、明確な恐怖に彩られていく敵の顔をみてレニは笑った。


「ガーディアンにも恐怖ってのはあるんだなぁ?」


そういうと、静かに両手を叩くとパスンという何かが抜ける音と共に敵の胴体に大きな空洞ができた。


「所詮ガーディアンと言ってもこの程度か。」


グタリと崩れ落ちるガーディアンを冷たい眼で見下ろし、その肉体から浮かび上がる魔法陣を静かに見下ろした。


いよいよ帝王との対敵、と言うところで背後にあるドアがバタン!という音と共に勢い良く開いた。


扉から入ってきた闖入者はガーディアンが崩れ落ちている姿とレニの姿を確認し唖然としていた。


しかしレニはそれを一瞥しただけで魔法陣の中へと入っていった。


それを見て意識を戻した三人は、レニを追うべく急いで魔法陣の中へと入っていった。


****


魔法陣の中に入るとそこは何も無い亜空間だった。


20分程してこの中に入ったことを少し後悔し始めたころ、何処からとも無く現れたあのガーディアンを倒した男が現れた。


「なんだ、追ってきたのか?」


髪を後ろでしばり、無精ひげを蓄えた男はお世辞にも良い男とは呼べないが表情は温和だった。


とてもあの殺気を放っていた本人とは考えにくい。


そんな事を考えていると、返事の無い三人に面白く無さそうに言った。


「お前らもそれなりの術者なんだろ?だからこんなに転移が遅れるんだ。」


どうやら力が大きければ大きいほど転移魔法というのは時間が掛かるらしい。


「感じではかなりかかるかもなぁ・・・」


そう呟いた後、ま、やる事ないから寝るか。と言って自分で腕枕をして寝始めた。


それを見たラファエルは呆れたようにため息をついた


(どこまでマイペースな人なんだ・・・)


****


神柱達とレニが魔法陣の中に入ってから五時間ほどした時。


ナル帝国の植民地とナル帝国が侵攻をしている国々のあちこちで巨大な球状の魔法陣が浮かび上がり、次々に建物や人を食い荒らすという事象が起きていた。


「何が起きているの・・・っ!」


買い物に出かけていたステッラエ親子は呆然とした。


護衛についていた門術の人間は先程の消失に巻き込まれてしまった。


自分はかろうじてよけたのだがそれでも衣服の一部をもっていかれた。


これはあの護衛の人間が言っていた大規模魔術に関連するものなのだろうか。


見鏡達に祈りながら一刻も早くステラの館へと行くべく、フロースの手を引いて走り出した。


「御願いします・・・っ!見鏡さんっ!」


****


「ッ!」


見鏡が突然ガバッと上半身を起こす。


嫌な予感がする。


バタバタと人の走る音が外でするので部屋を出て兵士に問いただすと、魔法陣が街を喰っているという。


その言葉を聞いた見鏡は頭が真っ白になった。



まさか。



その慌てた雰囲気に部屋で寝ていたステラの面々が目を覚ました。


どうしたの?というシンリアの問いに見鏡は険しい声で答えた。


「六時間も寝れば十分だろう。早く出るぞ。世界の命が喰われている。」


そういって各々にローブを配り出る準備を追えいよいよ出発。というところで部屋を出ようとするとそこには見知った顔があった。


「久し振りだな?少年。」


見下ろすように見鏡を見る少女は伊井島の顔をした女神だった。


「何故お前がここにいる・・・ッ!」

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