答えは何処に
ヒュン という音が聞こえたと思うと、次の瞬間にはローブの腹の部分が裂かれていた。
「グルルルルル・・・・」
男はすでに言葉を忘れたのか、獣染みた声を出している。
「チッ・・・」
見鏡が舌打ちをすると、眼下の男がボードに乗って飛び上がり突進してきた。
速度は先程の倍以上はあった。
「くそがっっ」
悪態を吐きながらすれすれでかわしたが、追撃として触手が見鏡の首を撥ねんと襲い掛かってくる。
数はおよそ10。
それを見て見鏡は一目散に街中へと降下した。
シンリア達の誘導のおかげで避難の済んだであろう街へと降下し、障害物を増やしてやり過ごそうという計画だったのだが・・・・・・触手は障害物の建物をいとも簡単に砕きながら追随してくる。
「くそがっっっ!」
真っ直ぐに男から離れながらも、上下左右から触手が見鏡を切り裂くために襲ってくる。
障害物は逆にこちらの不利になると判断すると、垂直に上に跳ね上がるが、それを一糸乱れずに真後ろに追随してくる触手をみて、見鏡は悪態を吐いた。
「それならっ」
ある程度まで真っ直ぐ上に上がると、急に速度を落とし今度は逆に触手へ向かって速度を上げた。
そして迫り来る触手をぎりぎりでかわし、真っ直ぐに触手の主へと飛ぶが、今度は触手ではなく槍が飛んできた。
それもすでに音速に達しているのではないかという速さで。
予想は出来たはず。
しかしできなかった。
そして、槍を視認した見鏡は何かを決意したように目を据わらせた。
「仕方ねぇな。」
そういった直後、槍と見鏡の衝突により、あたり一面は光に包まれた。
**
その爆発を見たシンリアは何処か寂しそうに呟いた。
「クレプスクルムを・・・使うのね・・・」
**
爆発によって生じた煙が消えると、そこには見鏡が立っていた。
それも無傷で。
しかし多少の変化が見られた。
先程までなら右手に半透明な剣を持っていただけなのだが。
今度は左手に同じく半透明ながらも、赤とオレンジが混ざったような、まさしく夕暮れ時のような色をした剣が握られていた。
「相手が悪魔なんて、良いお披露目の機会じゃねぇか。」
もう一度左手の剣を握りなおし、構えなおした。
「さぁ、これからが本番だ。」
****
「あいつ・・・っクレプスクルム出しやがったぞ!」
本条が市民の避難をさせながらシンリアに叫んだ。
「・・・・・・・ルイちゃん人形で皆に伝えてくれる?」
「はい、何をですか?」
「避難を急がないと私達も巻き込まれる可能性が出来たって。」
クレスプクレム・・・
それはレストナムの祭具殿に保存されていたオリジンカラーの剣の三本のうちの一本。
ディールークルムが初心者用だとすると、クレスプクルムは玄人用。
もう一本あるウェスペルは握るだけで狂人化してしまうといわれている。
この三本は朝、夕、夜というふうに色と名前が付いている。
ディールークルムは朝方という意味だったと思う。
そして色は日光をかたどった無色透明。
クレスプクルムは夕を意味し、色も夕暮れ時の色をしている、これも半透明だ。
ウェスペルは夜を意味し色は黒。これも半透明だ。
それぞれに使い方があるらしいのだが詳しく聞いたわけではないので分からない。
しかし威力は壮絶で、朝から夕になるだけで一振りの威力はおよそ10倍。
夜の剣、ウェスペルに至っては想像もつかない程だと言う。
力の均衡を取れてない二つの剣は使いずらそうだが、二刀流にすると力が大きい方に剣の力が合わせられるようだ。
それを知っていたシンリアは不安そうな顔になって呟いた。
「生きて・・・帰ってきてよ・・・」
****
次々と襲い掛かる触手をいとも簡単に切り落としていく。
何処にも死角など無いのではないかと思わせるほどの動きだった。
しばらく触手を切り続けているとどうやら全ての触手が無くなったらしく、槍を構え始めた。
「オォォォォォォォォォォォオオオォォォオォオォォォ!!!」
今までじっと閉じられていた口が開かれた。
これからが本番。といったところか。
男の動きをじっと見ていると足元にあったボードが縦に割れ、尾翼のところが左右に別れそれぞれの足へと装着された。
そして次の瞬間、二人の戦いは始まった。
先に動いたのは鎧を纏った男だった。
槍を心臓に突き立てるべく見鏡に接近する。
しかしもちろん見鏡も大人しくやりの得意な間合いに入るつもりなど無い。
見鏡からも全速力で詰め寄る。
結果。
槍の間合いからは逃げられたが、相手の左手の鉤爪の間合いに入ってしまった。
しかしそんな事は気にせず、見鏡はクレプスを振るった。
キン!という甲高い音と共に、男は鉤爪ごと分断された。延長線上にあった男の背後の山と共に。
シン・・・というしばらくの静寂の後、頭に着いていた兜が溶けるように消滅した。
しかし男にはまだ意識があるのか最後に残った力で懸命に留まり、小声で見鏡に伝えた。
「あぁ・・・全く嫌なやつだぜ・・・まぁ・・・でも良かったのかもな・・・あと一つだけ伝えておいてやる。」
どうやら暴走は収まったのか、今度は人として言葉を喋っていた。
「お前、このあいだソロモンと戦ったろ。そのときに刺されたあれ・・・用心しておいた方が良い・・・あと、これプレゼントだ。俺を殺せた褒美とでも受け取っておけ・・・」
そういって男は、右手に持っていた槍をこぶし大のどす黒い物質に変化させた。
「あん・・・?」
見鏡の顔を一瞥し、男は躊躇いもなくその物質を見鏡の中に突き入れた。
「んなっ・・・」
「なぁに・・・心配すんな・・・悪いようにはならんさ・・・あとな・・・・」
そして男はフッと笑って消滅した。
死んだのではなく、消滅。
「消え・・・た・・・?」
見鏡はうろたえていたが長くは空中に居られるほどの力が残っていないのか、地上へとゆっくりと降りていった。
男の消滅も衝撃的だったが、更に動揺したのが男の去り間際の言葉だった。
『答えは、レストナムにあり、だ。』
レストナム。
見鏡達の生まれた故郷。
「あそこに答え・・・か・・・」
そう呟くと、脱力したように近くの岩へと座った。
するとポケットに違和感を感じ、それを手に取るとそれは手のひらと同じような大きさの水晶にMeririmと刻まれていた。
「あいつ・・・宿していたのメリリム・・・ってことは・・・悪魔・・・か。」