悪魔と天使
*←これは回想を意味しています
そう。
自分は立場が立場だけに、いつももてはやされていた。
そしてまだ幼かったがために、人の裏切りというものをしらなかった。
目に入る人間すべてが自分の事を愛し、そして敬ってくれると信じていたあの時。
そう、そんなときだからこそ、あれを目にしたときには・・・・頭の中で、何かが切れる音がしたんだ。
いや、切れたというよりも、途絶えたという方が正しいのだろうか。
自分の人生は、物語は。
あの時に終わりを告げていたのだ。
****
ガチャ、とリビングと受付を区切るドアを開け、更にその先の玄関を開けるとそこには派手な服に身を包んだ太った男性が一人。
そしてその脇に目の鋭い狡猾なネズミのような目をした男。その二人の後ろには先程会った例の王の兄妹がいた。
「さて、依頼の報酬をもらおうか。」
バタン。と見鏡が後ろ足で玄関を閉めるとツカツカと王に歩み寄り言った。
しかし王まであと五歩程といったところで隣に控えていた兵の槍が見鏡の喉元へと突きつけられた。
「貴様。この国の王に対して余りにも無礼じゃないか?貴様のような下賤な犬はさっさとそのローブを脱ぎ捨て無様にひれ伏せばいい。」
その台詞に、ステラの強さを知る王の息子は慌てていたが、王は大して気にする様子もない。
(こいつ・・・そういうタイプの人間か・・・)
今度は、兵ではなく王が口を開いた。
「お主の様な下賤な犬に渡すものなど、犬の餌で十分だ。」
そういって兵に合図をすると、兵が腰のバックから犬の餌を出し見鏡の前に放り投げた。
「ハッハッハ」
その様子をみて、王が軽快に笑うと、兵が右手をあげ振り下ろした。
「進め!」
突然の兵の行動に何をしているのかが分からずに動かずにいると、突如剣や斧を持った兵士達がステラの館へと突撃をした。
「成る程な、王の権力を振りかざしての都合の悪い人間の排除・・・いや、八つ当たりと言ったところか。」
見鏡が冷静に状況分析するのが気に喰わなかったのか、兵が口調を荒げて言った。
「フン!貴様達のような異能者かぶれは全員死ねばいいのだ!」
その兵の言葉に、見鏡は馬鹿にした風に鼻で笑った。
それに兵がまた突っかかろうとした瞬間。
既に兵の意識は無かった。
ドサ という音を立てて倒れる兵士を横目に、何が起こったのか分からないという表情の王。
「まぁお前みたいなお偉いさんになんざ元々期待してねぇが、俺たちに喧嘩売った事後悔させてやるよ。」
そういってじりじりと近づいてくる見鏡の肩越しに館を見ると、その周りには気絶した兵士達が輪になって倒れていた。
「ヒ・・・・・ヒィッ」
****
薄暗い建物の中、口にくわえたペンライトで掲示板を照らし賞金首をあさっていた女性がビリ、と掲示板に張ってあったいちまいの紙を破った。
「へぇ・・・・ギルドステラ・・・ねぇ・・・面白い。ヤッてやろうじゃない。」
その台詞を聞いた掲示板の隣の床に座っている男が聞いた。
「オイオイ、ステラっていったら庶民派の何でも屋だろ?なんでまたこんなところに首懸かってるんだ?」
「さぁ、知ったことじゃないわよ。農民成りの手伝いでもしてたんじゃないノ?」
「あぁ・・・王様のご機嫌を損ねたって訳だ。」
「ま、大方そこらへんでしょう。一国の王が出してると分かればこの金額も納得がいくわネン」
そういって女性が男に紙を差し出すと、そこに書かれた金額は・・・
「まじで・・・・?」
捕縛で一人につき50億という数字だった。
****
「やっぱり王やら貴族にはろくな人間がいないな。」
そう言うのは、兵士を一まとめにして縛るという一仕事を終えグッタリと椅子に座る本条だった。
「もう随分と思い知らせられたろうに、今更だな。」
書斎から本を片手に現れた見鏡は呆れたように言った。
「そろそろこの街も引き時・・・かな。」
シンリアがパンを齧りながらリビングの面子に言った。
「確かに引き時かもしれないが俺は動くのには反対だ。」
見鏡が椅子に座り本を開きながら言った。
「そりゃまたなんで。」
「正確には今の状況じゃ。だな。あの貴族潰してからだろうな。手順としては」
「ええ、私もそれがいいと思います。」
珍しくマレが会話に参加してきた。
「階級制度などがこのまま続くと・・・おそらくこの国は国としての機能・・・いえ、今農民成りと呼ばれている人間が謀反を起こす可能性がかなり大きいですね。実際は一ヶ月前に計画されていたのですが、分け隔てなく接してくれるこのギルドのおかげでそれが延期になっているようです。」
その情報は知らなかったのか、シンリアが驚いて言った。
「そうねぇ・・・私達もこの国に深く関わってしまった以上、無責任に放り出すわけにも行かない・・・か。」
「しかし、例の女神の話はどうする?」
「色々とややこしい事になってしまったわね・・・」
面倒な事になったと、シンリアや見鏡や秋乃達ギルドステラの面子が顔をしかめた。
****
「おいラファエル、あの連中は今何してるんだ?」
いわゆるパンクと呼ばれる黒い服に身を包んだ180あるかどうかという身長の男が博士風の青年に言った。
声をかけられた青年も身長は180程で、長めの刈り上げのような髪型にめがねを付けていた。
「僕を神の名前で呼ぶなといつも言っているだろう。」
めがねを指で上げ、眼鏡の位置を直し言った。
「まぁ、質問に答えるとだね、どうやら拠点を置いている所の国の王に喧嘩を売られたらしい。」
「ほぅ、で?」
「もちろん、返り討ちにした上に兵士を全員捕縛。王とその息子と娘を城に蹴り返したみたいだよ。」
「だろうなぁ。そろそろ俺たちも動かないと不味いんじゃないか?」
男が手に持っていたグラスをテーブルに置くと、椅子に座りラファエルと呼ばれた男に言った。
その言葉にラファエルはトントン、と指でテーブルをリズミカルに叩きながら答えた。
「あの女神と名乗る少女の動きが読めない以上、僕達から動くのはちょっと賢明じゃあ・・・ないかもね。」
「そうだな・・・あの小娘・・・どうしたもんか・・・」
*
この場合の小娘とはもちろん、伊井島の事である。
女神に体を乗っ取られた伊井島は真っ先にナル帝国へ飛び、ナル帝国の神柱の元へと行った。
そしてこう告げた。
「私はマリア。いわゆる女神というやつだ。」
胸を張り腰に手を当て堂々と立つその姿からは、とてもではないが嘘という単語を見出す事ができなかった。
暫定的にということで神柱に迎え入れられた伊井島は、主に魔法の研究をメインとする部屋へと閉じこもり始めた。
そして三日後、素材の分からない刃渡り20cmほどの真っ黒な短剣を手に持ち部屋から出て言った。
「悪魔を作るぞ。」
*
「あれから一ヵ月半か。」
伊井島は力が強すぎるから、という理由を元に四大天使の面子は呼ばれなかった。
「何をしているのやら・・・」
未だに呼ばれた天使達は誰一人として戻ってこない。
それはつまり、成功した・・・という事なのだろうか。
****
「さぁ行くぞ・・・珍しく上から命令が来てる・・・」
「なんだ?」
「派手にやれ、だとよ。」
「俺の得意分野じゃねぇか。楽しみだなぁおい。」
鎧に身を包んだ男二人が崖から街を見下ろしながら言った。
「性能実験とやら・・・さぁやろうか。」
そう言って片方の男が右手で眼前に魔方陣を描き街へと放った。
「この街の物語は・・・今、終わった。」
最後まで読んでくださってありがとうございます!
感想・評価よろしくおねがいします!