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第1話 すべてを捨てた日

私は、一度すべてを捨てた。


でも、それが間違いだったと気づくのに、そう時間はかからなかった。


気づけば、私は「ただの主婦」になっていた。


朝は家族を送り出し、昼は買い物と家事、夜は夕食の準備。


同じことの繰り返し。それが、今の私の日常。


「お前は気楽でいいよな」


夫はソファに座ったまま、スマホから目も上げずに言った。


その言葉に、私は何も言い返さなかった。


——言い返す意味が、もう分からなかったから。


かつての私は、違った。


人の人生を立て直す仕事をしていた。


倒れかけた会社を再生させたり、


自信を失った人に、もう一度立ち上がるきっかけを与えたり。


誰かの“もう一度”をつくるのが、私の仕事だった。


でも、私はそれを手放した。


家族のために。


そう思っていた。


……本当に、それでよかったのかは、もう分からない。


テーブルの上で、スマホが小さく震えた。


知らない番号だった。


少しだけ迷ってから、通話ボタンを押す。


「もしもし……?」


『……やっと、繋がった』


低く、落ち着いた声。


その一言で、胸の奥がざわついた。


『あなたに、もう一度お願いしたい』


私は、思わず息を止めた。


その声は——


忘れられるはずがない人のものだった。


そして私は、その瞬間に理解した。


——もう、元の生活には戻れない。

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