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怪談集「暗中」  作者: にとろ


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失礼な手紙と、真っ黒な写真

 アレは一通の封筒から始まった。住所は公開していないはずだが、名前と『お願いします』とだけ書かれていて、差出人の名前はない。これを届けなければならないユニバーサルサービスと言う物を苦々しく思いながら封筒を持ち部屋に帰った。


 まずこれを開けていいものかと悩んだ。いや、呪物の可能性があるからではなく、シンプルにカミソリなどがは言っている可能性を考慮してのことだ。


 しばし考えてからカッターマットを下に敷いて、その上に封筒を置いてから出来るだけ触れないように封筒の下部をカッターで切って開けた。ソレをピンセットで持ち上げると、中に入っていたのはおそらく写真だっただろう一枚の紙と、文字の書かれた便箋だった。


 その内容は、『この写真が撮れてから不運なことばかり続いてしまい、これが原因としか思えないので安全に処分して欲しい』と書かれていた。私はそんなことをしていないただのオカルト好きだというのに勝手なことだと思いつつも、返送しようにも宛先が書かれていない。


 消印はあるが、この内容だと遠くの郵便局まで持っていって出した可能性もあるので消印の辺りを探すわけにもいかない。


 とりあえず、ニトリルの手袋を出してソレを着け、写真に触ってみたが、これといって以上は無い、ただの真っ黒な写真だ。いや、写真用紙に印刷されているが、黒一色なので写真と断言は出来なかった。


 写真をいくら見ても、真っ暗な状態で撮ったのか、ペイントソフトか何かで作った黒一色の画像を印刷しただけなのか区別が付かないような状態だ。


 即座にお焚き上げに持っていくことも考えたが、手袋を見ても以上は無い。一旦ソレを外して写真に触ったが特に手に異常は無いので検証のため少しの間持っておくことにした。


 だが、翌日になっても翌々日になっても写真は変わらず、変なことも起きない。翌日には躊躇なく素手で触っていたが、これといって手に異常はでない。


 ただの失敗した写真を心霊写真か何かと間違えたのではないかと思う。そういうことは案外多いもので、写真が思ったように撮れなかっただけなのに、ソレを心霊写真だと言っているだけなのではないかと思われた。


 お焚き上げの必要も無いだろうと、メッセージの書かれていた便箋込みで燃えるゴミに出したその晩のことだ。夜にさしかかった頃、眠気が来たのでアイマスクをして椅子にもたれて目を閉じた。そうして少しの仮眠を取ろうとしたのだが……


「お前じゃない」


 そう耳元でささやいた声がした。慌ててアイマスクを引き剥がして周囲を見るが、当然誰も部屋にはいない。だが先ほどの声は近いところどころか、耳元で聞こえたように思えた。


 しかし誰もいないので何か呪物でも混じっていたのだろうかと思いながら、今度は横になって寝た。


 翌日のことだ、ゴミ出しをしようとゴミ箱の中身をゴミ袋に移している時、真っ白な紙があった。こんなものを捨てただろうかと疑問に思ってそれを拾い上げてみると、ただの紙ではなく封筒だった。


 迂闊だったとは思うが、あの時ゴミに出したのは便箋と真っ黒な写真のみで、封筒の方はそのままゴミ箱にに入れたままにしていた。


 間違いなくあの封筒なのだが、自分宛になっていた宛先は全く無く、綺麗な無地に封筒で、驚いた事に消印に押されたであろうインクまで消えていた。


 これは絶対にまともではないと思い、その封筒をシュレッダーにかけてからゴミ袋に入れしっかり縛ってゴミに出した。


 以降何か不吉だったり変わった出来事だったりは起きなかったので、あの対処で正解だったとは思うのだが、自分には何も起きていなくても、あの声を思い出すと何処に住んでいるかも分からない差出人のところに帰っていったのではないかと不安である。もしかすればあの写真は送った時は何かが写っていたのかもしれない、届く前に何かが写真から抜け出た可能性もある。


 ただ、いきなり自分の情報を一切出さず、送りつければなんとかなるだろうという考えの人を助けるほどやさしくはないので、することと言えば送り主が平穏であることを祈るくらいだ。

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