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#11 再会

 アルトシュタットに到着した我々、124名の103大隊は、奇異な目で見られた。

 戦闘の傷跡の残る戦車10両に、女ばかりの部隊。アルトシュタットの中央通りを行軍する我々を見て、他の兵士らは皆、立ち止まってこちらをうかがう。

 我々が決死の覚悟で戦い敵3個大隊を足止めし、どうにかこのアルトシュタットへの進撃を阻止したという情報は、皆に伝わっているのだろうか? だとすれば、ますます我が大隊は驚愕の目で見られているに違いない。

 部隊が部隊だけに、他の隊からは離れた場所に野営地を設けられた。とはいえ、ここは街中だ。野営と言いつつ、あてがわれたのは郊外近くの屋敷のようなところだ。

 ここにはかつて、大富豪が住んでいた。隣国のエテルニア王国との交易で財を成して立てた屋敷らしいが、後継者が次々と病で亡くなり、数年前にその主人も亡くなった。

 その広い屋敷が、我々の新たな拠点としてあてがわれたというわけである。

 なお、その場所を、元の持ち主の名をとって「オッペンハイム駐屯地」と呼称される。

 ネルベブルグ城ほどではないが、ここは広い。100人超の部隊が暮らすのにさほど困ることはない。俺の寝床兼指揮官室は、その主人の部屋があてがわれた。

 街の住人の協力もあり、部屋自体はきれいにされていた。ベッドも簡素ながら、新品だ。なお、103大隊は街の人々から熱烈に歓迎される。

 彼らからすれば、我々は英雄だ。もしも我々が善戦しヴァルハラ軍を食い止めていなければ、この街がどうなっていたか? 子供でもわかっている。なにせヴァルハラ軍の残忍さは、アウグスタフ線での戦いの報に少しでも接している者であれば、誰でも知っている事である。

 援軍が到着したのは、昨日の夜中のことだ。それまで全くと言っていいほど無防備に近い状態で、この街は放置され続けていた。だから、先に到着した援軍よりも、前線を守り抜き後退してきた我々の方が優遇されるのは当然である。

 ちなみに、最も早くこの街に到着した軍隊は、ベルクマン大佐の102大隊である。が、戦車が1両もなく、けが人だらけの兵士が100人ほど、やってきただけだ。それに比べたら、我が大隊は少ない犠牲で、この街への敵の侵攻を食い止めた。それだけでも大いに評価が上がる。


「まさか、女だらけの戦車隊で、10倍もの敵の3個大隊を食い止めてみせるとはな」


 俺が指揮官室の席に座っていると、随分と失礼な物言いでノックもなしに入ってくる者がいる。その後ろからは、ブラウン大尉もついてきた。

 その人物を見て、俺は起立、敬礼する。その人物も俺に、返礼で応える。


「お久しぶりです、ホーレンツォレルン准将閣下」

「元気そうだな、ノルトハイム大佐」


 そう、このお方はまさに俺の師匠ともいうべきお方だ。103大隊にも行ったあの森の中の走破訓練などは、このお方が考案したものである。

 そんなお方が、この指揮官室へ現れた。ということは、この援軍の指揮官ということか?


「すいません、突然、司令官閣下が現れて、大佐にお会いしたいと言われましたので」

「いや、構わない。ブラウン大尉、貴官ももう疲れただろう。休んでも構わないぞ」

「はっ!」


 そんなやり取りを見たこのかつての上官は、俺にこう言った。


「いい副官が付いたものだな」

「いえ、彼女は大尉ですので、役職は参謀ということになります」

「事実上の副官だろう。いや、お前の女房役、とでもいえばいいか?」

「准将閣下、そこまでの関係ではございません」

「そうか? お似合いだと思ったのだが。まあいい。ちょっと、今後のことについて話がしたい」


 そう言いながら、ホーレンツォレルン准将はソファーに座る。俺もその向かいの席に座った。

 准将閣下が言うには、到着した援軍は全部で4個大隊、戦車120両に歩兵1万2千。砲兵隊200人と、大砲20門がこれに加わる。これらに我々の大隊を加えて「第11連隊」と呼称する隊の司令官がホーレンツォレルン准将だ。

 ただ、120両の内、最新の4式は50両。残り70両は旧式の3式戦車だ。持っている砲は60ツェント口径と、とても34式と張り合える戦車ではない。


「偵察機からの報告によれば、敵は貴官の103大隊の攻撃と、ネルベブルグ要塞の爆破によって、戦車を少なくとも80両失った模様だ」

「つまり、残りは20両ほどですか」

「いや、後方からさらなる援軍が来ている。その数、100両。3個大隊だ。エテルニア王国も交戦しているが、航空機による攻撃でかなり苦戦しているようだ」

「あそこはほぼ砂漠ですからね。隠れるところがない」

「その通りだ。そこでこちらは地の利を活かし、反攻作戦に出るしかない。そこで、だ」

「はい」

「貴官の103大隊に、先制攻撃をお願いしたい」

「お言葉ですが、見ての通り、女ばかりの部隊ですよ?」

「だが、敵の34式を80両以上もやっつけたじゃないか」

「偶然ですよ」

「果たしてそうか? まあいい、その偶然を、もう一度頼む。これが、俺からの命令だ」


 酷い上官だ。男だらけの戦車隊が100両以上も到着したというのに、女だらけの、しかも16人を失った戦車10両の我が大隊に、先陣を切れというのだ。

 元上官、いや、再び上官となったホーレンツォレルン准将のこの無茶な命令に、おれは逆らうわけにはいかない。


「はっ、承知いたしました」

「承知していないだろう」


 ところが、である。命令を聞いたら聞いたで、この上官はこんなことを言い出す。


「お見通しで」

「当然、無茶な命令だということは承知の上だ。が、ちゃんと理由がある」

「では、その理由とやらをさっさとお聞かせください」

「相変わらず、不愛想だなぁ。まあいい、聞かせてやる」


 俺がこのホーレンツォレルン准将というお方を見限れない理由は、ここにある。単に命じるだけのことはしない。必ず、部下を腹落ちさせる努力を惜しまない。


「単純な理由だ。我々はここに来たばかりで、土地勘がない。貴官の大隊は、ネルベブルグ要塞の周辺に土地勘のある者ばかりだ。なればこそ、貴官の所属する103大隊に先陣を任せるしかない」

「そんなことだろうと思っていました。つまり、先導役をしろと」

「なんだ、分かってたのか」

「閣下が考える程度のことは、お見通しですよ」


 上官と部下とは思えない会話が続くが、両者はずっとこれでやってきた。そして、必ず作戦を成功に導いてきた。

 だからこそ、今度の戦いも成功に導いてみせる。


「では、これより『ネルベブルグ要塞奪還作戦』の概要を説明する」

「はっ!」

「敵の増援が集結する前に、一気にこれを叩く。ただ、一つだけ問題があるな」

「なんでしょうか?」

「簡単だよ。ネルベブルグ要塞を徹底的に破壊したやつがいるから、そこを占拠しても、拠点にならないということだ」

「たいした問題ではありません、閣下。400年前の城ですよ? そんなものが拠点と呼べるかどうか」

「とはいえ、まさか建物も整備場もないところに駐留することはできないだろう」

「大丈夫ですよ。102大隊がいた駐屯地が、まだ無事なはずです」

「ああ、そうだったな。って、お前、まさか102大隊を見殺しにしたのではあるまいな?」

「いえ、勝手に突入し、勝手に全滅いたしました」

「それを利用して、ちゃっかり敵に打撃を与えたのではあるまいな」

「我々は救援に向かったのですが、間に合いませんでした。ただ、それだけです」

「ふうん、果たしてそうだったのかね……」


 この司令官のいわれることは、紛れもない事実だ。だが、俺の心の内をよく知っている。


「別に、味方を見捨てたことを咎めはしない。が、理由は聞かせてもらいたいものだなぁ」

「やはり、お見通しですね。実は102大隊の隊長であるベルクマン大佐は、小官が赴任する直前、指揮官も参謀も不在の最中に我が103大隊を相手に勝手に訓練と称して、事実上の憂さ晴らしをしておりました」

「うむ、あきれた軍務違反だな」

「さらに、我が隊との共同戦線を張ることを拒否してまいりました。このため、彼らは独断で敵に突撃し、果てたのです。我が軍と連携していれば、少なくとも全滅はしなかったはずです」


「まあいい、分かった。貴官らが救援に向かったときには、すでに102大隊は全滅した後だった。そういうことだな」

「はっ、そういうことです」

「そうか。せめて、貴官らの大隊が救援に駆け付けるまでは持ってくれればよかったのにな。情けない指揮官だ」


 間に合わなかった、ということでこの司令官は理解してくれた。まあ、嘘ではない。我々の攻撃が、102大隊の救援に間に合わなかったのは事実だ。故意か否かの差はあるが。

 ともかく、これ以上、上官であるホーレンツォレルン准将は俺にその件を尋ねなかった。というのも、結果的にその時の攻撃が功を奏し、敵に損害を与えたことは事実だ。そしてなによりも、その後も敵に大損害を与えたという功績を我が大隊はあげている。

 その実績を前に、位の高い貴族出身というだけで大佐に上り詰めた無能な指揮官など、死んでくれてせいせいした、と言わんばかりの態度だ。

 さて、その後はネルベブルグ要塞奪還の作戦を告げられる。やれやれ、またうちの大隊が苦労をしょい込むことになるな。だが、時間が経てば敵の増援が来てしまう。その前に、動かなくてはならない。


◇◇◇


 ヴァルハラ共和国軍は、援軍を待ちわびていた。

 もはやがれきの山と化したこのネルベブルグ要塞を守備することに、意味を見出す者がいない。雨風すらしのげず、テントを張って野営する6千人の歩兵と、ようやく使えるようになった20両だけで、ここを守備する羽目になる。

 すでに1万を超えるアーカディア帝国軍が、この近くの街に集結しつつある。こちらの1万の援軍が到着するまでは、この地を死守せねばなるまい。ヴァルハラ共和国軍の指揮官とその参謀らは、破壊された城のそばで軍議を開く。

 本来の司令官は、この城のがれきの中に埋もれてしまった。今、残されている指揮官の中での最高位は大佐であり、あの捕虜交換に出向いた男だ。彼が今、司令官代理を務める。


「やつら、またあの鉄薔薇戦車隊を出してくるかもしれませぬ」


 そう発言する男は、一時的に帝国に捕らえられ捕虜となっていた、クラスヌィフ大尉だ。


「貴官の報告による、女ばかりの戦車隊だという、あの隊か」

「はっ。噂通り、見張り兵から参謀役に至るまで、指揮官を除いてはすべて女ばかりでした」

「にわかには信じがたいが、貴官が言うのだから間違いないのだろう」


 そもそも、女ばかりの部隊があること自体、珍しいことだ。戦場で夫を失った未亡人らで組織された女性部隊というのは、ヴァルハラ共和国軍にもいる。が、どちらかというと宣伝用の部隊であり、前線に出ることはなく、あくまでも後方任務だ。前線で、しかも女だらけの戦車隊というのは聞いたことがない。


「それも、最新の4式ばかりだというではないか。帝国軍が最新式を、女ばかりの部隊に回すほどの余裕があるとは思えないが」

「私が見たことは、事実であります。ヴァルハラ語を話せる指揮官以外に、男の姿はありませんでした」


 そんな相手に、80両以上もやられてしまったことに腹立たしさを覚える司令官代理。しかし、あの時に見たやつの姿からは、女だらけの部隊を指揮している者とは思えない気迫を感じていた。そんなハーレム状態の部隊にいる指揮官が、あれほど精悍な顔つきであろうはずがない。

 ところでこの司令官代理は、捕虜だったあの女兵士に性的乱暴を働いたとして、9人を罰したところだ。一つ間違えば我が軍は、そして我が国は、ゼーリエ条約すらも守れない野蛮な国と言われかねない。だからこそ、徹底的に処罰した。が、幸いなことに、そういう喧伝は帝国側からはされていない。


「ともかく、今夜あたりに敵が攻めてくるかもしれないな」

「今夜、でありますか?」

「我が軍の増援が、こちらに向かっていることくらい、敵だって把握しているだろう。せっかく無防備なエテルニア王国国境から回り込み、アウグスタス線の後方から帝国軍に襲いかかり瓦解させるという作戦が失敗に終わってしまった。なれば、この地を失うことはすなわち、我が軍の敗北を意味する」


 時刻は、15時を回ったあたりだ。夜襲に備えて、残っている20両足らずの戦車隊の整備に余念がない。夜までには全車両を配置し、6千の兵士らとともに守備に徹する。

 そのつもりだった。

 が、想定外の事態が起きる。


「て、敵襲ーっ!」


 見張りの兵士が叫ぶ。司令官代理は、耳を疑った。まだ真昼間だぞ、上空には攻撃機が飛び回り、戦車隊の接近に備えている。にもかかわらず、どこから現れたというのだ?

 まさか、あのアルトシュタットという街からここまで、森の中を抜けてきたというのか。そうとしか、考えられない。


「総員、反撃せよ! 戦車全車両で応戦、対戦車砲兵隊、出撃!」


 司令官代理である大佐が叫ぶと、対戦車砲を抱えた兵士らが一斉に飛び出していく。6千もの兵士はいるが、戦車に対抗できるのは、300人程度の戦車砲隊のみだ。

 現れたのは、10両の4式だ。急ごしらえの物見やぐらから、双眼鏡片手に敵の動きをその司令官代理はうかがう。

 戦車砲の攻撃を巧みにかわしつつ、森の中に入っていく。が、別の場所から飛び出す敵戦車が、次弾装填中の戦車砲を抱えた兵士らを踏み潰していく。

 そして一撃、砲を放つ。

 34式が1両、直撃を受けて停車する。どうやら車軸をやられたようだ。すぐにその敵戦車は後退し森に入る。

 今の戦車から、身を乗り出してるやつが見えた。その姿に、見覚えがある。

 捕虜交換の時に、向こう側にいた唯一の男、指揮官と思しき人物だ。間違いない。司令官代理は、森の中に潜り込むその車両を双眼鏡で追う。

 そうか、やつらは元々、この要塞を根城にしていた連中だ。だから、この周辺の森の中を熟知している。正規の道を使わずに、行軍できるわけだ。

 が、つまりそれは、以前から森の中を走り回る訓練をしていた、ということになる。この友好な中立国との国境沿いの基地で、そんな実戦的な訓練を、だ。

 まるで我々が、エテルニア王国から攻めてくると知っていたかのような用意周到ぶりだ。

 それをやったのが、あの男というわけか?

 司令官代理が、無線機を片手に叫ぶ。


「上空にいる第8航空隊のオーディンに連絡だ! 森の中に潜む、『2』の戦車を狙えと! 位置はこの物見やぐらの北西、約300ラーベ!」


 森の木々の間から、その指揮官らしき人物の乗った戦車が停車している。無線で何か指示を出しており、敵の様子をうかがうためか、一時、停車したようだ。

 これを攻撃のチャンス、とヴァルハラ共和国軍の司令官代理は考えた。

 ところがだ、無線で命令を発した直後、その司令官代理は、地上の兵士の叫び声に気付く。

 双眼鏡から、目を外す。すると距離200ラーベ先にいる4式戦車が、正にこちらに砲先を向けている。

 その砲身が火を噴いた。森の木を切って組まれただけの物見やぐらは、一撃のもとに吹き飛ばされた。司令官代理の姿は、そこにはない。

 が、一方で、上空にいた攻撃機の一機が、まさに森に向かって急降下を始めていた。

 もう一方の指揮官にも、命の危機が迫っていた。


◇◇◇


 サイレンのような音を響かせて、こちらに向かって急降下するオーディンが見えた。


「敵、オーディン1機、こちらに向かってきます! 後退を!」


 ブラウン大尉が叫ぶが、俺は返答する。


「いや、待機せよ。俺が合図をしたら、全速で左方向へ後退だ」


 そう言いながら俺は、向かってくる敵の攻撃機に機銃を向ける。

 7.7ツェントの機銃を、うなり音を上げて近づく敵機に向ける。

 そう、俺はホーレンツォレルン准将がまだ中佐だった時に、俺に教えてくれた言葉を思い出す。

 航空機が真っ直ぐ向かってくるときは、構えて撃て、と。

 まもなく、抱えた爆弾を切り離そうというその時、俺は7.7ツェント機銃を撃ちまくった。それは敵の機首に当たり、やがて火を噴く。


「後退!」


 俺の合図を聞いたウェーバー兵長がギアをバックに入れて、全速で左方面に後退する。でこぼこ道を巧みに避けつつ、その場から離れるだけ離れた。

 やがて、目の前にあの機体が爆弾もろとも落ちてくる。

 ドーンという音とともに、顔一面にその機体の爆弾と燃料が燃えて放った熱気を感じる。間一髪、こちらは無傷で済んだ。


「森の中も、安全とは言えなくなってきたな」

「地上から、指示を出したやつがいるんでしょうか?」

「だろうな。あまり停車していると、また狙われそうだ」


 そう言いながらも、我が大隊は森の中から飛び出しては一撃、引っ込んでは別の目標を目指す、を繰り返す。

 が、我々の時間稼ぎが功を奏し、ようやく後続隊がお出ましだ。


 我々が先導した森の中の道を、50両の味方戦車が進む。4式20両、3式が30両だ。

 3式は敵の34式を相手にするには不足だが、敵の歩兵相手なら十分すぎるほどの威力をもつ。

 その50両の戦車が、我々の横を通り過ぎていく。あちらの指揮官が、後は任せろとばかりにこちらに手を振ってきた。俺も、それに応えるように手を振る。

 やがて、50両もの戦車隊が敵に突撃していく。


「これで、先陣としての役目は終わりですかね?」

「そうだな。我々も弾を撃ち尽くした。後は任せて、所定の場所まで後退する」


 味方の50両は、敵戦車と兵士らに襲い掛かる。随伴歩兵も2000名以上、急に現れた大軍に、敵軍は混乱に陥る。

 とはいえ、まだ敵の動ける34式は12両ほど残っている。にもかかわらず、どことなく動きが鈍い。統制が取れていないと言った方が正しいか。

 上空に待機する20機のオーディン攻撃機も我が軍に向けて攻撃を加えてくる。が、森の茂みを巧みに使い、うまく逃げ回る味方戦車。考えてみれば、彼らもホーレンツォレルン准将の部下たちだ。同じ訓練を受けているから、戦術もよく似ているのは当然だ。

 中には俺と同様に、オーディンを撃墜するやつもいた。こちらも何両かやられたが、大半は健在で、敵への攻撃を続ける。

 爆弾を投下し終えたオーディン隊は帰っていく。全部で18機。2機を失った。が、今度はそれを味方の戦闘機であるシュテルンファルケ12機の編隊が現れて、それを追う。

 その直後、攻撃機のブリッツクレーヘが、敵戦車に攻撃を仕掛ける。敵の34式が、次々に撃破されていく。

 それを見て、俺は思った。

 俺の大隊が、先陣を切る必要性はあったのか? 最初に味方の攻撃機が仕掛け、その後を戦車隊が襲った方が、リスクはずっと低かったはずだが。

 いや、味方の攻撃機は遅い。敵のオーディンは攻撃機と言いつつも、戦闘機能力も高い。真向で勝負すれば、撃ち落されるのがオチだ。

 敵に劣る戦車と航空機で対抗しなきゃならない。そのためにはどうしても奇襲が必要だ。だからこそ、土地勘があり奇襲に向いた我が大隊が先陣を切る必要があったのだろう。

 攻撃はしばらく続いたが、やがて森の道から本隊が現れる。戦車70両、8千の歩兵、そしてそれを率いるホーレンツォレルン准将が後方の軍用車に乗って現れた。

 こうなると、敵はもう後退するしかない。バラバラと、50人単位の小隊ごとに後退を開始する。しかし、その動きに統制感はない。もしかすると、敵の司令官を倒したのか?


『敵は撤退した。103大隊、森から出ても大丈夫だぞ』


 と、俺の乗る2番車の無線に、ホーレンツォレルン准将直々に無線が入る。


「はっ! では、前進します」


 俺は短く答え、103大隊の10両に前進を命じる。


「全車、前進!」


 血生臭さと硝煙の香りが蔓延するそこには、がれきと化した400年前の城と、膨大な物言わぬ兵士たちの屍が転がっている。敵はすでに多くが国境を越え。エテルニア王国に入っていった。中立条約を盾にされて、それ以上は追撃できない。ここを越えるには、エテルニア王国の許可が必要だ。


「敵を全滅したかったのだがなぁ。まあいい、国土は取り戻した」


 ホーレンツォレルン准将が、この惨状の地に降り立ち、俺にそう告げる。


「あとはこの地に、強固な要塞を築き敵の攻撃に備えることでしょうかね?」

「それはそうだが、近いうちにここを越えて、攻勢に出ることになる」

「ここを越えてって……この先は、不可侵のエテルニア王国ですよ?」

「非公式だが、実はエテルニア王国から援軍要請があった。もっとも、正式な書面とやらが交わせていないから、まだ国境は越えられんがな。政治屋どもがぐずぐずしていなければ、今ごろは敗走する敵を追いかけていたところだろうに」


 煙草をくわえて憤慨するホーレンツォレルン准将の言葉に、俺はやや戸惑う。

 あとは防衛線に徹し、ニューアルビオン連邦国に仲介に入ってもらうまで踏ん張ればおしまいだと思っていた。

 が、歴史は思いのほか、別の方向へと動き出した。こちら側から、エテルニア王国を経由して攻めるというのだ。

 そこには当然、103大隊も含まれるだろう。

 その先の歴史を、俺は習っていない。すでに未知の歴史を歩み始めた俺と103大隊は、この先も生き残れるのだろうか?

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