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If I wasn't me 俺が俺じゃなかったら  作者: VIKASH
Judicialz-ジャディシャルズ
14/24

「14」 Vine(蔓)・Shady(狡)




「なんで、泣いているか?わからないのかい史也(ふみや)

「僕に言わせないでくれよ。

「別に好きで泣いている訳じゃないんだ。

「この雫は、僕の眼から止めどなく流れて、僕の視界を塞ぐんだ。

「―――君を失いたくないからさ!

「人は、失って得て、得て失うんだ。

「僕は、何かを得るために君を失いたくないんだ。

「本当は帰りたくない。人が帰るところはいつだってひとつさ。

「僕は、忘れなくても、君は僕の事を忘れるだろう。

「僕のこの脳内に埋め込まれたマイクロチップが、君というデータを消去しない限り、僕はいつでも、記憶を自由自在に取り出せるからね。

「もちろんバックアップ済みさ。

「別れの言葉を言うのがこんなにも辛いなんて考えたことなかった。

「なぜなら、別れの言葉なんて生まれてこのかた、言ったことがないからだよ。僕は、今日初めて言うんだ。

「だから、聞いてくれないか。絶対は、存在しない。

「だけれど、絶対忘れないでほしい。

「僕の分まで頑張ってね。史也(ふみや)。」


 ボロボロと泣きながら、橙星(あかせ)は俺の肩にしがみついた。そうか。これで、さよならなんだな。橙星(あかせ)は入院したんじゃない。

 おそらくだが、表面上は入院でも、未来へと帰ったんだよな。俺は、そのことを橙星を敗北に追いやったとみんなに伝えるんだろう。当たり前だ。今ならその意味不明な気持ちがわかる。手放さなければ、突き放さなければ、俺は、橙星を追ってしまう。例え、何十年。何百年。何千年先だろうと、俺は追うことができる。

 橙星の発言には、含みがあった。「追わないでくれ。」「探さないでくれ。」(など)のような。含蓄(がんちく)だ。

 俺は、肩に流れてくる何か熱いものを感じた。それは液体だったが、ここでは言うのを躊躇(ためら)いたくなった。もちろん。橙星に悪いからだ。自分が泣いてる時に、それを察せられるほど、小っ恥ずかしいことはねえよ。

 これで、ウィリアムの発言。ヒーローKの言い淀みに説明がつくな。ヒーローKはこのことを知っていたに違いない。あの人も、未来に行けるんだろうか。

 きっと、そうなんだろう。俺と同じような感覚を味わい、先に未来を知ることで、最悪の事態を防いでいるんだろう。それ故の、最強。未来を知っている人間に敵うはずがない。

 だが、今の悪党やヴィラン達は、そのことを知らない。その強みがヒーローKと悪党共に絶対的な格差をつける。言うなれば、夏休みの宿題を事前にやっているか、最終日にギリギリまで徹夜して終わらせるか。それ程の違いだ。

 これまた、意味のわかんねえ例えだがよ。

 これはつまり、天と地程の差を表すぜ。

 しかもだ、理路整然と宿題を毎日やってるヒーローKと差はどんどん広がっていく。埋まらないんだよ。


 橙星(あかせ)は、一歩下がると、俺に手を差し伸べてきた。


It() was(会い) nice(できて) meeting(嬉しかった) you(です).」


 俺は、橙星(あかせ)の手を右手で掴むと、その温もりに心奪われ、穏やかな気持ちにさせられる。


 本当は、離したくなかった。


 だって、離しちまったらよ。


 もう、二度と会えないんだぜ?


 なんで、わざわざ、未来から俺に会いに来たんだよ。


 英語は少し勉強したからな、今の俺ならわかる。


 『お会いできて嬉しかったです』


 ちっとも嬉しくねえ。


 また、会えるよな?


The(別れの) pain(辛さは) of parting(再会の喜びに) is nothing(比べれば、) to() the(した) joy(こと) of(ない) meeting again.》


 ヴァイヴァロスの野郎。追い打ちかけるなよ!


 あれ?視界がぼやけてねえか。


 まさか、俺、泣いてるのか?


 そうだ。時を戻せば………これもなかったことに。


《時間は複雑だ。いじれば、いじるほど、その(ツル)は、複雑に絡み合っていく》


 畜生(ちくしょう)


「ワームホールをヒラきます。」


 何を言ってんだかさっぱりだが、未来に帰るんだろう。


 さよなら。


 橙星(あかせ)







 気がつくと、橙星はそこにはいなかった。


 そうか。帰ったか。期待しちまうな。また、会えるんじゃねえかってな。


 再会の喜びかぁ。味わいてえな。ふふ。


 俺は、なぜだかわからなかったが、笑っていた。泣くのを堪えるように、表情筋が(こわ)ばるんだ。


 絶対に忘れないぜ。橙星。お前は、俺に土産(みやげ)をくれたんだ。


 実は、橙星がいなくなる時、ゴトッと音がしたんだ。音がしたのは橙星のいた方向だった。何事かと思い、振り向くと()()が落ちてたんだよ。


 俺は、ソイツを拾うと、家に持ち帰り引き出しの一番奥にしまっておこうと思ったんだが、とあることを父さんに聞いてみることにした。


 (すめらぎ)螺旋(らせん)さんに渡すのが正解なんだろうが、次の日。


 皇螺旋先生は、あとかたもなく、きれいさっぱりといなくなっていた。


 職員室にもいない。


 聞くまでもなかった。


 親子で揃って帰っちまったんだろう。


 橙星、幸せになってくれよ。俺が言えるのはそれくらいだ。まあ、聞こえちゃいないがな。





 俺は家に帰ると、靴を乱雑に脱ぎ、急いで父さんの元へ駆け寄っていく。早く、早く聞きたいんだよ。俺は。


「父さん。聞いてもいいか。」


「どうした?」


「その………」


「なんだ?」


 俺が、黙りこくると父さんは、俺に視線を向ける。


「えっと、ネックレス買ってもいいか。」


「懐かしいな。」


「え?何がだよ。」


「何って、そりゃあ決まってる。母さんに最初にあげたプレゼントはネックレスだったんだ。恥ずかしいな。」


 父さんは、恥じらいながら、ボサボサの頭を搔いている。


「そうなのかよ。」


「そうだ。懐かしくもなるだろう?」


「母さんどうしてんだろうな。」


 俺が、何気なく言うと父さんは頬杖をついて、宙を見据えていた。


「んー………」


 俺は、螺旋さんを母さんに重ねていた。


 どちらも、2人とも、帰ってこないんだ。


 全くの他人なのに、比べていた。


 父さんは、しばらく黙って考えていたんだろうな。


 その時、俺たちの会話を遮るようにピンポーンとチャイムの音が鳴った。


 こんな時に、誰だ。


「すまない。史也(ふみや)。出てくれないか。」


「わかった。」


 俺は、足早に玄関へと向かうと、扉を開けた。


「歴史也さんでしょうか?」


 俺は、咄嗟(とっさ)に危機感を覚えた。


 顔が割れている。


 この人物は俺を知っている………


 でも、俺はこの人を知らない。童顔な顔立ち、金髪に金色の眉毛。どっからどうみても、外国人だ。だけど、あのクラスメイトの留学生達のように、流暢に日本語を喋っている。どういうことなんだ?

 というか、男だよなあ?かわいく見えるのはなんでだ?あのなんだっけ?内空閑(うちくが)ってやつに雰囲気似てる。瞳孔の色は黒だ。紫じゃねえ。それに・・・なんだ?胸部に、金色の星が、七つ綺麗に貼られている。勲章か?いや、それとは、また違うな。この人物は一体………


「人違いですか?あれ、間違えたかな。表札に『(れき)』と書いてあるんだけどなぁ。」


 俺は、一つ咳ばらいをした。なんて言うかは決めてあった。


「確かに………珍しい苗字ですが、俺はその人ではありません。」


 嘘をついちまった。


 嘘をついた方がいいと判断してしまった。


()()()()()()()()?え?嘘なんですか?」


 はああああ?ばつ悪すぎだろ!テレパシーかよ。筒抜けじゃねえか。


「あ、すいません。伝わってくるんですよねえ。あはは。」


 こいつ、何者だ?


「何者だよ。」


「おっと、すいません。名乗り遅れましたね。初めてお目にかかります。あと、二回も言わなくていいんですよー!あ、思ってるんでしたっけ?」


 誰なんだ?


「ナナセと申します。」


 聞いたことねえな。


「そりゃ、そうさ。初めましてだからね。」


「ああ、ちなみに初めましては……君だけね?」


「僕は……おっと、いけない。そりゃ、ディープウェブ潜ったらさ、いくらでも君の情報なんて出てくるよ?」


 な、なんてやつだ。しかもよ。俺の心は読まれてるのに。向こうの心は読めないのか…。


「もちろん♪」


 声、弾んでるぜ。こう、なんか。イライラするぜ。生命の核心部分に思いっきり、土足で踏み込んできたみたいだぜ。まったくよお。


「お、健在だねえ?」


「ここじゃ、お父さんにも悪いし、近所迷惑になるから。他へ行こう。」


 だからよ、なんで知ってんだよ。会ったことあるのか?ねえよな。


「…わかったぜ。名前なんだっけ?俺、用事あるんだよ。ついてきてくれねえか?」


「ナナセだよ。構わないさ。歩きながら、話そう。ああ、ネックレスだね。違うかい?」


 えっと、意味わかんなくね?聞こえてんの。これ。マジで、どうしたらいいのよ。

 とりあえず、ナナセの事は伏せておく。出かける用事だけを父さんに伝えるか。

 いいよな。これで。


「父さん。知り合いだ。ネックレス買ってくる。」


 リビングの方向から、「おう」と聞こえる。


「行こうか。史也(ふみや)君。」


 俺と、謎のナナセという金髪童顔イケメンは、初対面にも関わらず男同士でネックレスを買いにいくという、奇行か、愚行かもわからん。行動を行おうとしている。


「安心してほしい。僕は、男に興味ないよ。」


「盗み聞きするのやめてくれ。恥ずいだろ。」


「ごめんね♪聞こえてないふりするからさ。」


 意味ねえよ!


「ふふ♪」


 なんで、俺は男とネックレスを買いにいくんだよ!


「聞いてもいいかい?」


 ん?なんだ?


「なんだよ。」


「2回言うんだね。いやあ、面白いなあ。

「ところで、ネックレスは誰にあげるのかな?」


 言えねえだろ。それに聞いてたんじゃねえのか?答える必要あるのかよ。


「そっか………じゃあ、聞かないでおくよ。考えないでね。これ、自動だからさ。ふふ♪」


 俺達は、DIESELに着いた。俺だけが、高額の品々に目を輝かせながら、凝視していた。


「どれにすっかな。」


 店員が、ナナセを見ている。なんだろうか。

 やはり、誰の目にも格好よく映るんだろうか。そりゃそうだ。イケメンなんだからよ。


 店員さんが、ナナセと楽しそうに話している。


 俺は、『ダブルリング ネックレス』と書かれている物を購入した。決して、安くはない価格だが、どうしてもこれをつけたかった。


 俺の手には、橙星の()()があった。


「これで3つだな。」


 眩しく、(だいだい)色に輝くそのリングは、どこか橙星(あかせ)彷彿(ほうふつ)とさせた。


 あかせのヤツ、本当に(ズル)いぜ。


 俺は、そのネックレスを肌身離さず身につけることを、買う前から決断していた。


 ところで、話してる時は聞こえるのか?


 俺の心の声はよ。


 ナナセをふと見てみると、俺に向けて、ウインクする。


 なにやってんだかな。


 俺は、ウインクしたナナセに歩み寄る。


「話ってなんだよ。聞かせてくれ。」


「え!お知り合いなんですか!?」


「え………」


「友人なんですよ♪」


「え!もしかして、それ、うちのネックレスですよね!ありがとうございます!」


史也(ふみや)。」


「なんだ。」


「良い店を選んだね。君らしい。そもそもブランド名の由来は、当時新たなエネルギーとして注目されていたディーゼル燃料のように世間を活気づけたいという思いから、世界中で同じように発音されて覚えやすい『DIESEL』という名前がつけられたんだよ。

エンジン開発者の名前であるドイツ人のルドルフ・ディーゼルが由来となっているディーゼルエンジンは、どんな燃料にも対応できるマルチ性がある。そして、君もだよ。史也(ふみや)君。どんな状況、困難にも対応できるようになるんだ。」


「お詳しいんですね。」


 店員さんは、はにかんでいる。ちょっと引いてるが、なんでそこまで詳しい。俺なんて、ディーゼルエンジンも知らなかったぜ。


俺とナナセは場所を移すと、とある場所に来ていた。


「なあ、おい。ここって。」


「わかったかい?」


「ねえ、史也君。1年後ここで会おう。僕、待ってるからさ。」


「わかった。でもよ、俺ら初対面なんだぜ?約束が守られるとは、思えねえんだが。」


「如何にも。じゃあさ、そのネックレス僕が預かるよ。」


「ちょっと待ってくれ。それは、大切なものなんだよ。そう簡単には渡せねえよ。」


「1年後、君は驚く。プレゼントも用意しておく。」


 チラッと、ナナセのズボンの腰あたりを見てみると、サイコロが引っ掛けられている。チェーンか何かで、意図的に引っ掛けてあるんだろうか。


「おっと、これがいいのかい?」


 そのサイコロの正体がわからなかったが、黒くて無機質なサイコロだった。ああ、応えないとな。


「好きにしろよ。ネックレスが返ってくるなら、それでいい。ところで、明日じゃダメなのかよ。」


「いやあ、すまないねえ。僕は忙しくてさ。」


「君なら、待てるんじゃないかと。」


「待ってやるよ。」


「またね。史也君。」


「おう。」


俺は、その場を後にして、やるべきことを決めていた。あの方法を使う。

番外編

「14.5」Ⅶ・Ⅸ


 僕の家にきたけい。今日はなにしてあそぼうかな。そんな僕を前に、難しそうな本ばかり読んでいるけい。漢字がいっぱいだ。いみふめい。

 そんなけいにしつもんする。


「ねえ、けい。しょうらいはなになるの?」


「僕はね、数学者になるんだ!いいかい、世の中の事象やことわりは全て、数字で表すことができるんだよ!」


「いいなあ、けいは夢があって。僕なんて、ないからなぁ。」


「ない?ないんだね。9だけに。」


「けいってやっぱり似てる!」


「似てないさ。君はかっこいいけど、僕はかっこよくない。それに、友達だっていないし。」


「え?きにしてるの?」


「そりゃ気にするさ。いつかは、数学者になりたいって言ったけど、その前に大学に行きたいな。あ、その前に友達も作らないと………」


「けい。」


「なんだい?ナナセ。」


「僕がここにいるじゃないか。」


「君は親類だ。家族みたいなものじゃないか。」


 この時からかな。僕は、秘密を抱えていた。1人で抱え込むにはとてつもなく大きい。


 京にはとてもじゃないが、言えなかった。


 秘密の共有はお勧めしない。


 一方が、その事実を蝕んでいく。挙句の果てには、漏らしてしまう。


 ある方がそうおっしゃていた。


 だから、京と僕は従弟だけど、互いを知らない。


 とはいえ、報道やテレビに出演するヒーローKという謎の人物は僕がアメリカから帰ってきた時に、初めて耳にした。


 今や、日本にもヒーローがいる。


 それも無敗の。


 最強のヒーロー。


 僕が、アメリカで大学生になってからだったかな。


 京に何度も電話をしたんだ。


 でも、一度も出なかったんだ。


 最初は、忙しいのかな。と、思った。


 でも、それは違う意味での忙しさだったんだ。


「そうだよね。京。」


「・・・」


「僕、覚えてるよ。」


「何をだい?」


「友達はできた?」


「できたよ。」


「大学には行けた?」


「行ったよ。」


「じゃあ、京は数学者に………」


「もう、昔とは違うんだ。」


「え?」


「僕は、もうあの時の僕じゃない。」


「僕は、僕はね………やっぱりやめるよ。」


やめるって、なにを………


「え?」


「僕は、数学者を諦めるわけじゃない。」


「でも、今やめるって………」


「言わなかった?」


「言ったよ。そうだよ。やめるんだ。」


さっぱりだったさ。京はいつも頭の中で考えては、その氷山の一角しか言葉にしないんだ。なぜなんだい。京。その心の声聞かせてくれよ。聞けるのなら聞きたいさ。

もしも、僕が心の声を聞けたら………












次回までどうぞよしなに!

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