「13」 Black・White
にしてもよ、漫画やアニメが現実だったら、って考えるやつは大勢いる。俺だってそうだ。そしたら、ヒーローKがジャディシャルズが目の前に現れたんだ。あのアメコミ、アメリカンコミックが現実になったんだよ。
本物のヒーローが現れたんだ!
だけどよ、本当にマジで、現実になっちまったら、それはもう酷なもんだぜ。誰もが、後悔する。後悔してもしきれねえ。今の俺なら確かにわかる。ヒーローはその力と引き換えに、犠牲がつきものなんだよ。
んで、誰が言ってたか覚えてねえが、人間の想像できることは全て現実となる。
つまり、それを超越した想像は現実とはならないはずだ。だが今俺はどうなってる?時空を超えたのか?誰が、こんなことできんだよ!
一つだけ思い当たる節があるぜ。アイツだ!そうだよな!アイツしかいねえ!ヴァイヴァロス………………
《呼んだか?》
呼んでねえぜ。今は時間を操る必要はねえだろ。
《讃する》
「なあ、ちょっと聞いてもいいか。史也。」
「あ、ああ、涼将か。今は妖じゃねえよな?」
「安心しろ。今は俺だ。」
「ん?誰なんだ?」
「お前のよく知ってる、橘涼将だ。」
「ところで………………」
テストしてたってことはよ。一学期の後半あたりか?
《そうだ》
なるほど。その時間に相応しい対応をしなければならないわけだな。
じゃなければ、最初に会った時の橙星のように、怪しまれるからな。
おまけに時間が歪むんだよなあ。勘弁してくれ。たくよお。
「テスト難しかったな。できたか?」
「ところで」の次が至って普通な他愛もない返事になっちまった。
まあ、それはいいんだよ。
橙星はどうなったんだ?
いつも、どの未来にも橙星はいなかったんだ。
何か理由があるはずだ。
聞かなければならない。
「あ………………」
言葉が詰まる。考えちまう。聞いてもいいのか。ひょっとして、いないことになってるんじゃねえか。とおかしなことを考えちまうんだ。
でも、出てこねえ。言葉が………
想いが………
心ってのはこんなにも窮屈なんだな。
「あ?って、なんだよ。何か思い出したのか。なんかそういうところ皇に似てるよな。」
俺が橙星に似ている?
どこがだよ。
真逆だろ。
「あのよお………」
ちょっと、イライラしてた。
橙星に似てるって言われたら嬉しいさ。
だけど、俺の口はまるで別人が操ってるかのように、言葉を紡いだ。
「俺は、歴史也だ。皇橙星じゃねえんだよ!」
「え?すまねえな。どうしたんだよ。凄い剣幕だぜ。怒らせちまったか?でも、なんでないて…………」
「………喋んなよ。」
「すまん。」
なんでかは、わからなかった。別人のような人生を歩んでいるからなのか。「別人のようだ」と言われてる気がして、ムシャクシャした。イライラした。腹が立った。
それだけじゃねえ。恐怖心みたいなものも芽生えてた。
口にこそ出さなかったが、俺がもし喋ってたら「怖かったんだ。」って言うんだろうな。
その言葉は喉の奥で留まると、俺は言葉を咀嚼した時のように、その言葉にできない言葉をゆっくりと飲み込んでいく。
俺は、やっぱり忘れっぽいのか。
聞かなければ。
「皇橙星は?」
「あれ?橘?」
トイレにでも行ったんだろうか。
橘こと涼将の姿はそこにはなかった。
きっと、足早にその場から離れたんだろう。
俺は、どれぐらい俯いてたんだろうか。
気がつかなかった。
なあ、ヴァイヴァロス。
俺、どうしたらいいよ。
《真実は目の前にある》
目の前だって?何があるんだ?
確か、黒板があるんじゃないか?
俺は、黒板を見た。
教壇に誰かいる。ひょっとして、橙星なのか!?
待てよ、あれ………
ヒーローKか?
嘘だろ?
嘘だろ?嘘だろ?どういうことだよ。
もしかしてだけどよ、ここで初めて知り合うのか?
なぜわかるのかと問われれば、俺は始業式から、一学期分の新しい記憶があったからだ。上乗せ。上書きとでもいうんだろうか。
どこか、不思議な気分でもあった。上書きとは言ったが、前の記憶も思いだせるし、俺の頭にはっきりと浮かぶんだ。
クラスのみんなとの会話。家での会話。俺が見た、様々な場所での景色。今でも鮮明に残ってるんだ。
でも、なぜだか橙星の部分だけ、子供の悪戯のように切り取られていて、真っ黒に塗りつぶされてるんだよ。
覚悟を決めると、俺は足を一歩踏み出し、近づいていく。もちろん、あの男に。
「ヒーローK。話があるんだ。」
みんなは俺には目もくれなかった。教室内には、何人か残ってるやつがいた。
ヒーローKは、そのスーツ越しの青い眼光を俺に向けると、「なんだい?」と一言。
《彼に伝えろ》
何をだ………
《今までの出来事だ》
信じるのか?ヒーローKは。
《言う必要がある》
待てよ。そういうことか!
「聞きたいね。君は確か………」
「歴史也だ。」
「あんたの能力を知ってる!時間遡れんだろ?」
「え………ど、どうして君がそのことを………」
酷く動揺してるな。ヒーローKは人差し指を、おそらく口元であろうかっこいい頭部を覆うマスクの辺りに当てて、「大きな声で言わないで」もしくは「静かにして」と言わんばかりの動きをした。
さては、誰も知らない秘密なのか?
『言う必要がある』
そうだよな。ヒーローKは、俺を助けたんだ。それをこの人に………
「未来のあんたが過去の俺を助けたんだよ。自分でも何言ってるかわかんねえけどよ。」
「え?待っててくれ!すぐ戻るよ!ちなみにいつだい?」
「あれは、4月の始業式だ。で、次の日に返してくれた。実は………」
「なんだい?」
「―――俺も時間を操れる。」
「なんだって?ちょっと待ってて、君にとっては1秒にも満たないだろうけど。確認してくる!」
その白いスーツにコバルトブルーの眼光が、印象的だった。スーツかぁ、俺も着たいな。確か、英雄に所属した時の記憶じゃ、スーツは支給されなかったな。
あ、そういえばヒーローKのスーツって2種類あるんだよな?通称ホワイトスーツともう一つは、ブラックスーツ。白と黒なのは、ヒーローKが、白黒思考ではっきりとした性格だからだったような………?
ブラックスーツの方が、目立たなそうだけどな。
「ただいま!時間差なーし!よーし!で、何の話だっけ?」
胸の中心が光っているようにも見えた。とにかくかっこよかった。白ベースに金色の装飾のスーツ。関節は、黒いパーツで覆われてた。これが、ホワイトスーツなのか。まさか生で拝める日が来るとはな。
「おいおいおい、見てきたんじゃねえのかよ。」
なのに俺は、尊敬していたヒーローKに深く考えずに否定的な発言をした。ヒーローKは怒らないだろうが、やはり否定されると精神的にくるものがある。
人が怒るときは、いつだって的を得た発言をされた時だ。
「ああ、そうだったね。確認してきたよ。君の言っていたことは、本当だったね。ついでと言っちゃなんだけど、他の悪党も倒してきた。」
至って、冷静だな。これが本物。少し、黙ると思ったんだが、気休めもしなかった。間髪入れずに、俺に返事をするヒーローK。
にしても、どうやったんだ?仕事早すぎるだろ。1秒も経ってねえ。本当に一秒も満たないとはな、ひょっとしてだが、これはあくまで仮説だが、ヒーローKの能力は公になっていない。と、すると。黙っていたほうが、賢明だったかすまねえ。にしても、どんな能力なんだろうな。時間を遡れるなんてよ。
おっと、いけねえ。ウィリアムの話をしておかなくちゃな。俺は、時空を飛び越えて、ここにいるんだ。
こことは、今の時間軸であり、おそらくだが、ヴァイヴァロスによる時間の操作で、時が進められている。あたかも、俺は、その時間を過ごしたという現状になるわけだ。実際は、過ごしていないのにな。
それは、どこか虚実にも似ている気がした。冤罪とも取れなくなかった。
やっていないのに。やった。その真実を誰も知る由はなかったが。俺と、ヴァイヴァロスの秘密を………俺は、このヒーローKという正体不明の男に晒したんだ。
それほどまで、俺は焦っていたし、緊急だった。橙星の存在を今すぐにでも、確認したい。そればかりが、俺の脳裏にこびりついては、離れなかった。
「話すぞ。聞いてくれ。次から次に問題がある。ヒーローK。俺たちのクラスメイトであるウィリアムは………」
「敵だ。」
奇襲を仕掛けてきたのは、紛れもない事実だ。橘。
いや、宿禰にあれだけの攻撃をしていた。
「ん?ウィリアムだって?彼らは、味方さ!人呼んで、ジャディシャルズ。アメリカのヒーロー集団さ!敵なわけないよ。おかしなこと言うね。」
はにかみながら、俺の肩を叩くヒーローK。
もはや、おかしいのがどっちかわからなくなりそうだった。
「俺もジャディシャルズは知ってるんだぜ。でもよ。俺達に攻撃をしてきたのは………確かなんだよ。信じてくれるよな?さっきみたいに確認しなくても、わかるだろ?俺の目が事実だと訴えているんだからよ。」
不思議な事が1つある。自己紹介の時、えっと確か………源先生からも本人からもそんな紹介はなかった。おかしいだろうよ。
なぜ、隠すんだよ。ジャディシャルズは日本じゃ有名じゃねえ。だとしても、隠す理由が今の俺にはわからなかった。
あんなに、派手に暴れてたのによ。特に、皇橙星との交戦は、想像を絶するものだ。
あの後、ちょっとした事件。いや、大事になってもおかしくないぜ。
誰か、こっちに来る。誰だ?横目でソイツを捉える。
あの、黒いスーツは間違いねえよな。それに、黒縁の眼鏡。如何にもって感じだな。堂々としてやがる。どうする………!?
「なぜ、あなたは私達の話をしているんですか?ジャディシャルズに入りたいのですか?」
声を掛けてきた。敵意は感じられない。まさか、事は済んでるのか。橘も歳月の経過からか、包帯や傷の処方をしていないように見受けられた。
ヴァイヴァロスがここに、この時間軸に俺を送った意味を考えねえと。
「ウィリアムか?」
縦に首を振り、頷くウィリアム。頭をポリポリと掻いてやがる。俺の目つきがそんなにおかしいかよ。
伝えねえと。今すぐに伝えねえと!ヴァイヴァロスは確かに言ったんだよ。「言う必要がある」と。
「ヒーローKこいつは敵だ!」
2人とも怪訝そうな顔をする。やっぱりそうなのか。俺の予想は当たってんのか?
「No,違いますよ。私は、味方です。ある時は高校生として、またある時は、ヒーローとして、あなた達をお守りしているのですよ。」
は?何言ってんだ?
「その通りさ。気がおかしくなったのかい?えっと名前は………ふみや君だよね?」
「なんすか。」
「質問ならなんでもしてください。お答えしましょう。」
両側の指先を天井に向けて、腕を真っ直ぐ伸ばし、隠し事は何もないと言わんばかりのジェスチャーをするウィリアム。
「てめえ!煽ってんのかよ!」
俺は、ウィリアムの胸ぐらを掴んだ。
「落ち着いてください。」
俺の手をウィリアムが払いのける。普通、払いのけられるか?なんて力してやがる。
「そんなことより、ヒーローK。なんで橙星がいねえんだ!」
「・・・それは。」
「それじゃねえ!皇橙星だ!俺の友人だ知らねえのか!それとも、何か隠してんのか?」
「覚えてるさ。実は………」
「彼なら、入院しましたよ。あなたが、敗北に追いやったんですよ。」
は!?なんだと!?
「何の話だ!俺はなんもしてねえ!」
「まさか、あれを覚えていないのですか?フミヤさん。」
どういうことだ!ヴァイヴァロス!返事しやがれ!
《時を戻すか?どうする?君次第だ》
俺の、目の前にある信号機は、青信号だぜ。時間という道路を全力で直進する。
『時よ戻れ』
◁TURN BACK▷
ここは、教室か?いつなんだ?夕暮れ時の校舎、補強された教室。間違いない。あの事件の後だ。橙星は入院するのか。
この日の日直は、『皇橙星』なのか。なんの偶然だよ。気味が悪いな。
教室内を見渡すと、いつもの席に橙星が座っている。
やっぱり、指輪をつけていた。橙星の手を覆っている白い手袋が印象的だった。
「………………僕は、未来に帰るよ。」
話の途中だったんだろうか。でもおかしかった。未来に帰る?時間を遡れるのは、俺とヒーローKぐらいだ。未来に行けるのも、俺とヒーローKぐらいじゃ………いや、まだわからねえな。
相対性理論じゃ、重力は時間と空間を歪める。そのことからも、宇宙では、年を取らないことが説明できるが、宇宙に行くって意味なのか?
「な、何言ってんだ?」
「どうしたんだい?史也。様子がおかしいね。
「僕でも、ジャディシャルズには勝てないんだ。
「なぜかは、わかるだろう?
「僕が、弱いからさ。
「超人集団の彼らには勝てないんだ。
「僕じゃ勝つことができない。
「1人でさえ、強いのにどうやって全員倒すんだ!それに、あのセブン―――」
珍しく、この時間軸の橙星は、弱気だった。
「君の活躍は、素晴らしかったよ。史也。
「それなのに、僕ときたらニトロゼウスがあっても、無力だった。
「あのマイクロンにも、Mr.Gにも、トランセンドにも、アズにも、アプフェルにも勝てなかった。
「なにせ、あのセブンスターがいる。
「君には、わからないだろうけどね。
「そういうことだから、僕は潔く未来に帰る。
「君を守るために。」
どういうことだ?というかよ、セブンスター?って誰だ?タバコの話でもしてんのかよ。
待て、待て。どこかに行くつもりだな。引き止めねえと………
「待てよ!」
「逃げたほうがいいって言ったのは他の誰でもない。君じゃないか。君は、よく気が変わる。まるで、別人みたいだ。君が君じゃないみたいに。」
「え?なにを………」
「ニトロゼウス。行こう。」
指輪を触ると、橙星の身体が、オレンジ色のパーツで覆われていく。
「また………
「会えるといいね。」
「なあ、待てよ。」
「なんだい?」
「なんで、泣いてんだ?」
番外編
「1918」
Strange Tales―Inside the refrigerator
ある日のこと、僕は目を覚ますと真っ黒い空間にいた。
ここは、どこなんだろうか?
考えても見当がつかない。
それに、体感温度がとても低かった。
何かを冷やしているみたいに。
冷房を極限まで下げた部屋の中で目を瞑っているんじゃないかと錯覚してしまうほどに。
この部屋の天井は、もの凄く高い訳ではなかったが、透明な板でできており、何かが敷き詰められている。
下から、その様子を伺うことができた。
いけない。このままでは、凍死してしまう。
「あの、すいません!」
僕は、声を出したが、目の前に立ちはだかる大きな無機質な壁が僕を遮り、この空間に反響した。
「何だ?新入り。」
太くて、低い声が聞こえた。
「だ、誰なんですか?それにここはどこですか?」
「俺か、うーん。そうだな。」
「俺は、ジョンだ。ジョン・ペンバートンだ。」
誰なんだろうか。聞いたことのない名前だ。
名前から察するに外国人なんだろうか。
でも、日本語で喋っている。
不思議だ。
「ジョンさんですか?」
なんて呼べばいいんだろう。
「そうだ。俺はな、ダンスをすると頭が泡沫でいっぱいになるんだ。」
ポエミーだ!
意味不明だけど。
あれ?足音が聞こえる。
ドン。ドン。ドン。
どこからだ?
まさか、外から?
とても大きな音だ。響いている。伝わってくる。
「ママー!コーラ飲んでいい?」
思わず、耳を塞ぎたくなった。
子供なのか?なんて、大きな声なんだ。
「いいわよ〜」
遠くから、母親と思わしき人の声が聞こえる。
「またか。さらばだ。新人。」
ガチャ。
そこには、大きな女の子の顔があった。
これは、一体。
「コーラ飲もー」
鼓膜に響くほど大きな声だ。
コーラって、何の話なんだ?
ジョンは?ジョンはどうなったんだ?
ガチャ
大きな手が伸びてきたかと思うと、扉を閉めて辺りは再び暗闇に包まれる。
さっきは、喋れなかった。
届きそうで、届かないもどかしい感覚にそれは似ていた。
「ジョン!」
返事がない。さっきまでいたのに。まさか、ジョンは。
「お母さんのお茶も取ってきて。」
「わかったー!」
巨人の声だ。逃げなくちゃ。
あれ?僕の足固まってる?
動けないぞ!どうしたらいい。
次の瞬間、扉は開け放たれ、僕は、大きな大きな女の子に鷲掴みにされた。
さよなら、ジョン。
次回までどうぞよしなに!




