表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

聖剣が運ぶもの4

「異議あり? 何のことだ」

「計算のやり直しを要求します」

「なんの計算だ」

「勇者に支払われるべきお金です」

「1億あったら十分だろう。結婚後は婚家で大切にされるだろうし」


むしろ聖女扱いか! もう無視だ。こんな王様。


「では始めます」

「おい」

「黙れ」


私は周囲を睨みつけた。不敬とか、関係ない。大地がおとなしいからっていい気になって。


「まず、あなたたちは勇者ダイチを召喚した。それは認めますね」

「もちろんだ」


部屋の面々がうなずいた。得意げな者さえいる。


「では、大地が400年ほど前から続く古い家柄の跡取り息子だと言うことは知っていましたね」

「それは……」


ざわざわとお互いを眺めている。知ってたか? いや。そういうざわざわだ。まあ、日本人の多くはけっこう戸籍をしっかりたどれるはず。私は嘘は言っていない。


「大地がその地区でも優秀な学校に通い、その先の大学まで目指していたことはご存知ですよね」

「……」


知っているわけがない。大地は何も聞かれず、勇者としてとにかく実戦に投げ出されたのだから。


「それをあなたたちは、勝手に誘拐したのです」

「何を言う。ダイチは魔王を倒すために遣わされたのだ!」


宰相が大きな声を上げる。私は静かに言い返した。こんなやつら、パワハラおっさんで慣れてるわ! もっとも日本では「すみませんでした」で済ませてたけどね。


「それなのに平民だからと勝手に判断し、付き人より低い待遇を与える?」

「っそれは……」


宰相が言い淀んだ。


「残された家族は、突然かわいがっていた跡取りをなくし、どれだけ涙にくれたことでしょう。あなたたちは、他の国が魔王を倒すために必要と言うのであれば自分の息子を差し出せますか」


今度こそ本当に沈黙が支配した。しかし、ここがポイントではない。さて。


「誘拐して親元に帰さない、となると、我が国では無期懲役、つまり一生牢に入るか、下手をすると死刑です。さて、誰がその罰を受けてくれますか」


何も言わない。言えないよな。もっとも、誘拐に対する刑罰がどうかは実際には知らないけど。


「その上で、その人の一生働く分だった金額を親に補償しなければなりません。大地の年齢だと3億はいきます」

「3億で気が済むのならば出してやるがよい」


王がうんざりしたように言った。誘拐犯め!


「さて、出だしはこれで結構です。では、次、魔王討伐について。大地が平民だからとおっしゃいましたが、大地は国元では武士、つまり騎士階級の出ですが」


私は文官を見た。


「で、ではディーンさまと同じ特別手当で……」


王がうなずいた。よし。では次。


「勇者特別手当などはつかないのですか?」

「は?」

「勇者しか聖剣を扱えないのですよね。では、勇者特別手当は」

「私の一存では」

「王」


王はため息をついた。


「それは今すぐには決められぬ」

「では次」

「まだあるのか」


うんざりしたように言う。


「魔王討伐の一時金は」

「出たであろう」

「先ほどの会計ではありませんでした」


宰相が何か囁く。


「ではディーンと同額で」

「はあ? じゃあディーンが魔王を打てばよかったじゃないですか」

「それは」

「大地しかできないことをしたのに、おかしくないですか」

「……」


宰相も王も黙りこんだ。


「次に」

「まだあるのか」

「なぜ勇者には家がないのですか」

「知らぬわ!」

「召喚しておいて、住む家も用意していないなんて。しかも普通の客室だし」

「わかった。用意させる」

「次に」


まだあるのかという王を無視し、こう言った。


「大地が救ったのはこの国だけなのですか」


ここで大地の味方が声を上げてくれた。


「いや、この世界全体を。あちこちの国を駆け回ったものだ」


懐かしそうに言う。


「では、他の国は勇者に対してどのような礼を?」

「それぞれ、拠出金と、褒賞を出していたはずだが」

「それはなぜ勇者のもとに来ていないのですか?」


私は宰相に聞いた。


「それは、勇者の派遣には費用がかかるから」

「どのくらいですか」

「今はっきりとは」

「まさか、祝賀パーティーの費用などに使っていませんよね」


あ、目をそらした。ギルティ。


「では最後に」

「やっと最後か!」

「王のだそうとしていた褒美は何ですか」


王はニッコリした。


「騎士に叙する」

「まだしてなかったの! 最初からしておけばよかったじゃない! 平民のまま送りだして、無駄に苦労させて、その間城でのんびりしてたってわけですか」

「だって聖剣は勇者しか使えないし」

「勇者しか使えないなら、大事にして待遇をよくしろってことです。基本でしょ!」


だってじゃないよ! 私は悲しすぎて目に涙を浮かべていたと思う。その時大地が私の腕をそっと引いた。


「あかり。もういい」

「だって」

「俺のために戦ってくれてうれしかった。でももうあかりが傷つかないで」

「大地……」


その広げた手は何? ハグなんかしないよ!


「文官さん、今の内容記憶してますよね」

「は、はい」

「それをまとめてきちんとした額を出し直してください。王、宰相は、勇者手当と、勇者の住むところと、各国からの褒賞の分配と、ちゃんとした褒美を考えてください」

「「はい」」

「私からは、以上です」


その後王と宰相と文官はなぜか怯えたように早々に立ち去り、軍人たちは聖剣の役割が確かに終えたことを確認して去っていった。


「最後に嫁を連れてくるとは、聖剣も粋なことを」

「しかし、あの気の強さではな」

「なに、気の弱いところのある勇者にはぴったりだろうて」

「剣はオーガのように強いのになあ、ははは」


余計なひと言を残して。


ここまで怒りのままやりとりして、私の気力は尽きてしまった。


「娘さん、ありがとう。大地のために」

「給料なんて、お互いに話すこともないから、大地がその程度だったなんて驚いたよ」


旅の仲間だったと言う剣士や魔導師が声をかけてくる。


「そう言えば、旅の間も、魔物を狩って出た魔石を売ってしのいだりしたよな」

「そうそう、結構いい値段で売れて」


魔石を売ってしのいだ? 待て待て、


「ちょっと、旅の会計は誰なの?」

「ディーン?」

「ダイチだろ?」

「アレクサ?」


お互いに名指しし合っている。


「もしかして、経費をもらってなかったんじゃないの?」


彼らは気まずげに天を仰いだ。これも計上だ。めんどくさっ。


結局経費は受け取らないままきちんと積み上げられていたので、王にどなりこむ羽目にはならなかったが、私は本気で違う国に行くことを考えた。


それから褒美にとんちんかんな領地を与えようとする王に、領地を突然とられようとした真っ青な領主をなだめ、子孫が途絶えて領主不在の土地をピックアップさせ。


王都からもっとも遠い辺境の地を褒美として二人で選んだ。


そこの領民は生きていくだけで精いっぱいだと言う。


「シノハラならばもっとがめつく利益のある土地を所望すると思ったが」

「王といえど失礼ですよ。それより、支援の約束忘れないでくださいね!」

「わかっておるわ。最後まで気の強い」


余計なことを。しかし、辺境とはいえ、海洋国家へと続く道がある、街道の要所なのだ。王は気づいていないけど。


ディーンが言う。


「あかりが気の強いのは大地がらみのことだけだよな」


そこ、勇者、照れなくていい。だって、17歳の時にやってきて、「人々が困っているから」という理由で断ることもできず、訓練も入れたらもくもくと11年、戦ってきたのだ。


確かに、世界には、「はっきり言う」ことが大事な国もある。しかし、遠慮がちな国だってあるのだ。自分のために戦うことはしようとは思わないけど、友のために戦うことはできる。


そうでしょ? 大地。


「恋人のため、もね?」


そこ、自分で言って赤くならない。


オーガより強い、気弱な勇者様だけど、なんやかんやで王からむしり取った総額30億を元手に、これから二人で辺境で生きていく。


「俺たちもな?」


仲間もつれて。


おれもだよ、って、もじゃもじゃなゲイザー君もささやいたような気がした。ねえ、私を運んできたのは、本当は誰だったのかな。


よく考えたら、金をむしり取るだけじゃなく、王様がぎゃふんと言わないとざまぁじゃないのか……。難しい。


日本人だったら請求しそうなお金を詰め込んでみました。おつき合いいただいてありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 凄く面白かったです。 作者様はいろいろされていてお忙しく無理でしょうがこれを領地発展物として連載をお願いしたい位面白く笑わせてもらいました。 ありがとうございました m(_ _)m
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ