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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
9/107

異邦人四人 3

ガルフォンが夕食会場に来た時、皿やフォークなどの用意こそされていたものの、まだ誰も席についてはいなかった。

「少し早かったかな」

家中の誰よりも早く起きて鍋を磨いて食事の支度をする。その習慣が故郷から遠く離れたここでも生かされてしまっているのかもしれない。彼は思わず声を立てて笑った。

「何がおかしいんです?」

不意に後ろから淡々とした声が聞こえて、ガルフォンは思わず振り返った。そこには藍色の目・黒髪の自分と同い年くらいの少年が立っていた。



「君は、エーディス星から来たエイザク君だね!」

「え、あはい。そうですけど」

大柄な体つきのガルフォンの勢いにびびったのか、わりと細身で身長の低いエイザクは表情の少なかった顔を若干引きつらせた。

「あ、ごめんごめん。驚かそうとかしたわけじゃないんだ。今の今まで誰もいなかっただろ、ここ。だから話し相手が見つかって、ついつい嬉しくてさ」

落ち着かせるようになだめてから、ガルフォンは安心させるように穏やかに笑んだ。相手の気持ちを安定させてから会話をするというのが、ガルフォンにとっての理想のコミュニケーション力である。



「話し相手…ですか」

「そうだよ」

「奇妙なことを言いますね。僕と話がしたいだなんて」

話をしたいというのは奇妙なことだろうか。いやむしろ、今の言動の方が奇妙に思える。

「なんでさ。しゃべるの嫌いなのかい?」

「別にそんなことはないですよ。ただ、さっきの歓迎会とやらを覚えてないんですか? 僕の挨拶と僕を見てたこの星の大臣を。あの人たちも僕が苦手になったみたいでしたよ。あなたは違うんですか?」



つい数時間前に終わった歓迎会。一旦四人が集結した銀河連盟本部においても似たようなもてなしが行われたが、二つとも実に豪華なものだった。小説でしか読めないと思っていた飾り立てた部屋といい、それ一つで一ヶ月暮らせそうな調度品といい、着飾った貴族・整列した軍人の出迎えといい…。庶民のガルフォンにとっては、一生に一度味わえれば幸運と言えただろう。

だが、他の三人の中には明らかにそんな場に慣れている者がいた。

王族のライオネル、貴族のクリスティナローラ。

公式の場で大臣たちを巻き込んで繰り広げられた二人のやりとりは、実にトゲトゲしていた。あれが貴族の世界の一角かと思うと、未知のものを見つけたような気持ちになりワクワクしたが、苦々しい顔のグリーン星の大臣たちを見ているとそれどころではないような気がした。

さらに、閉鎖的なエイザクの挨拶が続き、なんとなくその場がしらけてしまった。これから一緒に協力していく人たちにあんな態度を取って良いのだろうか。全体的に非協力的になっては、自分たちの務めがスムーズに進まないかもしれないというのに。

最後の自分に向けられたすがるような視線に、ガルフォンは気づいていた。そこで友好的に挨拶した結果、その場を上手く収めることができたのである。

自分たちの任務は着実にこなすべきだとガルフォンは思っている。助けを求めてきたグリーン星のためにも、故郷で帰りを待つ家族のためにも。



「話したいって言うんならそれなりの理由はあるんでしょうね?」

「え? 喋るのに理由なんていらないだろ? あえて言うなら君と仲良くなりたいんだけど」

「そうですか。僕の方はあなたと話すことなんて何もありません」

エイザクはクルッと背を向けた。

「1人がいいの?」

「そうです。なんか色々話しかけられると疲れるんで」

エイザクはポケットから本を出して読み始めた。話しかけるな、と彼の背中は語っている。無言の圧を感じた。



大広間に無言が訪れた。気まずい、というよりもガルフォンは焦っていた。

これから一緒に仕事をする仲だから色々知っておきたい。仲良くなりたい。せめてちゃんとした自己紹介くらいはしたい。

エイザクの正面側に回り込む。エイザクは一瞬顔を上げたが、ガルフォンが話しかけてこないので再び本に没頭し続けた。


彼がページをめくる間、ガルフォンはずっと待っていた。エイザクが一章分を読み終えたのを見てやっと声をかける。

「一休みして自己紹介しようよ。僕はガルフォン・ロインド。農家出身の18だよ。君は?」

「16です」

名前はさっき言ったでしょ、と続けてエイザクは本に戻ってしまった。



それからというもの。エイザクが章を読み終えるたびに、ガルフォンは一言自己紹介をし続けた。

毎回20分は待たねばならなかった。だがガルフォンは辛抱強さには自信があり、エイザクが読み終わるまで口を開くのをしっかり我慢し続けた。


そのかわり、喋るターンになると言葉がすらすら出てきた。

料理はそこそこ上手で特にスープは得意料理であること。

早寝早起きが習慣になっていること。

身体は丈夫だから何かあったら頼って欲しいこと。


ちなみに、エイザクの反応は皆無だった。目線すらこちらに向けず、聞いていたのかも分からない。



7章を読み始めたエイザクを待っているその時。


「まったく、伯爵令嬢の分際で私に怪我をさせるとは…」

足音も荒く、夕食会場に踏み込んできた者がいた。

ここでちょっと異邦人たちを整理しておきます


○ライオネル・アレスファリタン…天王星アレスファリタン領の第六王子

○クリスティナローラ・ライヨル…カルメヂ星の伯爵令嬢

○エイザク・ブルネウ …エーディス星の学者の子

○ガルフォン・ロインド …冥王星の農家の子

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