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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
10/107

異邦人四人 4

同時に、第八部分「異邦人四人 2」の一部を修正しました

「ほう、先客がいたのか」

灰色の目。灰色の長髪。緩やかに伸びた緊張感のない低い声。

エイザクは声の主を見るや否や、急に表情を引き締めてガルフォンに背を向け、さっさとテーブルについてしまった。

「ライオネル殿下」

「ん、ああ君はガルフォンだな。で、そこの君はなんという名だったかな?」

ライオネルが声をかけても、エイザクの反応はない。そっぽを向いている。完全に無視を決め込んでいるらしい。

「なんだ、聞こえてないのか」

「エイザク君です」

代わりに不機嫌なライオネルに告げてから、ガルフォンはふと彼の右手を見た。白い包帯が巻かれている。怪我でもしたのだろうか。

「ああこれか」

ライオネルはあっさりエイザクのことを忘れ、忌々しげに右手を上げた。

「ライヨルとかいう伯爵令嬢にやられた」

「え?」

「詳しいことは聞かないでくれ。しかし、腹立たしいことだ! まったく!」



ガルフォンは華奢な身体のクリスティナローラを思い出した。確かに近寄りがたい雰囲気を醸していたが、本当にあの令嬢がそんなことをしたのだろうか。なぜ?

じゃあこの二人の仲は今、最悪なのか?



「私はただ、ライヨル嬢をエスコートしに来ただけだというのに! なぜつれない上にこんな仕打ちまでするのか! まったく理解不能だ! …ライヨル嬢め覚えているがいい、今に後悔させてやるぞ」

「…」

「ただし私は針を使うというあんな頭の悪い真似はせん。舌で勝負してやるぞ、待っておけよクリスティナローラ。歓迎会で私をやり込めておいて今さら嫌だとは言わさんぞ。ん…?」

どうやら、最悪の関係ではないようだ。いやむしろ、このライオネルは彼女に「後悔」させてやりたくて仕方がないらしい。



「歓迎会…ああそうだ、まずは礼を言わねばな」

ライオネルは体をそっくりガルフォンの方に向けた。引き締まった体で大柄なガルフォンと同じくらい背が高い。

「歓迎会の時、よくあの場を収めてくれた。今考えると我々三人のせいで雰囲気が一瞬悪くなったのだと思う」

まさか、ここでそんな話が出てくるとは。

「そんな、大したことは…」

「君のおかげだ。三人を代表して礼を言わせてもらう」

ライオネルの顔は真剣だった。高貴さと気高さを漂わせた凛とした態度。さっきまでのふてぶてしさはわずかもなかった。

「あれが普段の私の態度でな。改めれば良かったものを」

雰囲気を壊すことにためらいがないように見えて、彼はどうやら彼なりに歓迎会のことを後悔していたらしい。



「お言葉を頂き、光栄です」

王族から謝られてどう反応していいのかわからず、とりあえずライオネルも頭を下げた。と、いきなり肩をポンと叩かれた。

「と言うわけでだ、これから君にも色々と意見を聞くかもしれん」

にやりと笑って言う。また、さっきのふてぶてしさが戻ってきた。

「い、意見?」

「どうやってあの令嬢をくど…いや、やり込めるかをだ」

意味深な顔で言われ、ガルフォンは頷いた。

「頼りにしてるぞ。あと、私のことはライオネルと呼んでくれていい。クリ…あの令嬢曰く、ここでは身分は関係ないらしいからな」

「はあ」

「言葉遣いも砕けてくれていいぞ。これから一緒に仕事をするのだからな」

ライオネルはにっこりと微笑んだ。若干上から目線だが、歓迎会の時からは想像もできないほど気さくな笑顔。これも王族の一面だろうか。

遠慮するのもなんだし、この王子にはなんだか好感が持てる。お言葉に甘えさせてもらうことにした。

「じゃ、よろしく」

「よし。じゃあ今日はたっぷり食べるのだぞ。明日から大変だからな」

「ああ」

「体調管理は大事だぞ。そこのお前は聞いてるのか?」

「…」

エイザクからの反応はない。なかなか心を許す気になれないのだろうか。

「ふん、まあいい」



周りを見渡すと、大臣たちはもうあらかた席に着いていた。

席が空いているのは、ライオネルの右の席だけ。

「クリ…ライヨル嬢がまだのようだな」

夕食会場の入り口をチラチラ見ながらライオネルが呟いた。



◇◇

クリスティナローラが個室のドアを開けた時、びっくりした顔の少女がちょうど目の前にあった。着ている服から判断するに、小間使いのようなものだろうか。

「何か?」

なるべく抑揚のない声で聞く。自分より身分の低いものに対して威厳を損なわないようにと幼い頃から散々受けた訓練の賜物だ。

「あの…食事の準備ができたのでお呼びしに来たところです」

「そうですか。ご苦労でした。下がっていただいてよろしいですよ」

「しかし、お連れしろと」

「結構です。一人で行けますわ」

そう言い、困った顔の小間使いの少女を前に扇子を口元に当てた。

「貴女とは話したくありません」という意味を込めている。

「…かしこまりました」



少女が立ち去ったあと、クリスティナローラはふうとため息をついて扇子を離した。

これでいい。これで正解なのだ。自分は誰とも必要以上に話す必要なんてない。馴れ合いなどもってのほか。

だというのに…。

クリスティナローラの頭の中に、歓迎会でのライオネルとのやりとりが蘇った。

(なんであんなに話してしまったんだろう)

トゲトゲした皮肉交じりの会話。実はそれを少し楽しんでいた自分がいた。

(さっきのも…)

無断で部屋に入ってライオネルのことを図々しいと感じたものの、彼との攻防戦をやめたくはなかった。

『お一人で行くこともできませんの?』

挑発の言葉。思わず素が出てしまった。

これではいけないと思い、とっさに隠し針で刺して部屋から追い出したのだ。

「こんなことでいいはずがないわ。任務に支障が出てしまう」

そう、これは自分だけの孤独な戦いだ。他人に心を許してはいけない。けれど…。



「何を考えてるの、私は」

クリスティナローラは顔を振ってライオネルの凛々しい顔を頭から追い出した。

「またしゃべりたいとか、考えてはいけないのに」

これから立ち向かう、他の三人にはない自分だけに課されたカルメヂ星の極秘任務。それをこなすのに余計な情が生じては…。

次回、6人目の主人公が登場します。


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