乗っ取られた宇宙船
*残酷描写が入ります
勢いで書きました。後日訂正入れるかもしれません。
「ロボット犬五頭がパー。面白えことしてくれるじゃねえか、ガキが」
その男ー迷彩服姿の若者ーは足元に散らばったロボット犬の残骸を蹴飛ばしながら忌々しげに唾を吐いた。
「おい吐け、テメエの仲間は何処にいやがる。俺っちのお手製のワンコロを粉々にしてくれた下手人はよお」
若者はそう言って右手に掴んでここまで引きずってきた少年の頰を打った。
少年は答えない。それは強がっているというよりも、恐怖で声が出ないと言った有様だった。
打たれた頰はすでに血が滲んでおり、顔は痣だらけだった。ここに来るまでに何発打たれたか想像するのも恐ろしいほどに。
「けっ」
迷彩服の若者がまたしても宇宙船の床に唾を吐いた時、運転室から別の男が顔を覗かせた。
「おう、エンデム。済んだか?」
「こっちに隠れてたガキどもは全部ブチ殺したぜ。で、そいつは吐いたのか?」
「いいや、まだだ」
「どうしても吐かねえなら、いい加減殺っちまいな。こちとら時間がねえんだ」
「ああそろそろか、グリーン星製の真空レールがこの辺通りやがるのは」
「ありがたいことに、ここの設備は俺たちが乗って来た宇宙船よりずっと良いや。しかもここにゃあ殻爆弾がわんさか積んであんだぜ。あと大型の大砲も」
「殻爆弾なら、真空レールにそこそこな衝撃与えることができらあな」
「火器とかもあるぜ」
「それはやめとけ。流石に銀河連盟内の死人が出たらめんどくせえ」
「了解。俺が運転しとくから、お前がガキどもを一人残らず片付けとけよ」
「おう」
エンデムと呼ばれた方が運転室に引っ込むと、迷彩服男は再び少年を頰を打った。
「部屋がありすぎて探すのが面倒なんだよ。答えろやおい。最後の一人は何処だ」
「あううう…」
髪を掴んで頭を後ろにそらして顎を殴る。
「俺のロボット犬をみんな壊したやつは何処に隠れてんだ」
地べたに押さえつけ頭を蹴る。そのあとはゴム靴で胸を踏みつけた。
「テメエら四人の中にいねえことはわかってる。そいつは一人だけロボット犬に追っかけられて、別の方向に逃げたんだからな。寝室にいたテメエを見つけてここに来たらこのザマだ。八頭いたうち、半分以上壊されちまった。ガキのくせに忌々しい野郎だ。さあ吐け、吐いたらテメエだけは許してやる」
殴られ、蹴られ続けた少年は息も絶え絶えの状態になっていた。口からはヒューヒューとかすかな音の息しか出せない。何度も打たれた頰は腫れ、口からは血が吹き出ていた。喉には痣ができている。そのハシバミ色の目はずっと恐怖のあまり大きく見開かれ、怯えの色が浮かんでいた。
だが、迷彩服男の最後のひと言を聞いた途端、怯えがわずかばかり消えて目に僅かな希望の光が差した。
「助けてくれ…る?」
消え入りそうな声でボソボソと呟く。迷彩服男はせせら笑った。
「おうよ。他の三人はもう遅えが、テメエだけは勘弁してやらあ」
「…」
「だが、このままだんまりを続けるんなら言いたくなるような目に合わせてやる。嘘を言いやがったら、他の三人みてえにぶっ殺す。テメエらを殺したって、銀河連盟から睨まれねえからな」
やがて追い詰められた小さな獣は、縋るように肉食獣に向かって口を開けた。
◇◇
暗闇の中、ハールドはじりじりととっさに逃げ込んだ物置の隅に移動した。なるべく音を立てないようにソロソロと脚を動かす。だがどんなに静かに動いても、機械的な犬の唸り声はしつこく彼を追ってくる。カツンカツンカツン。
(くそっ、こいつら耳がいい!)
隅で気配を殺して攻撃の機会を作ることもできない。
不意に、迫り来る三頭のロボット犬うちの一頭の唸り声が低くなる。
(来る!)
「ガウアッ!」
「ーっ!」
吠え声のした方に朱色の眼を向け、念力をぶつける。
ガシャン! ロボット犬は地べたに叩きつけられた。
「はっ、はっ」
「ハウフッ!」
「ヴガアッ!」
休む間もなく他の二頭が同時に飛びかかって来る。
「ーっ!」
ガシャン! 念力で二頭のうち一頭をもう片方にぶつけた。
(…いけたか?)
一瞬静かになったが、またすぐに機会音が復活する。カツンカツンカツン。
「ヴヴー」「フッフッ」「ガガー」
(くそっ、何回ぶつけたら死ぬんだこいつら!)
もう何回も地べたに叩きつけ、互いにぶつからせたのに、まだ壊れる様子を見せない。さっきの五頭は一度床に叩きつけたらすぐに壊れたというのに。
「ヴガアッ!」
「くそっ、いい加減にしろ!」
ガシャン!
「ハウフッ!」
「ーっ!」
ビタン!
「ガウアッ!」
「ああもう!」
ガシャン!
…カツンカツンカツン。
念力を使うのには体力がいる。ハールドはそろそろ疲れてきた。
(これ以上、敵が増えたら…やばい)
二人組のうち特に恐ろしいのが、迷彩服を着た男の方。真っ先にこの宇宙船に乗り込んできて、ハールドたちに銃を向けてこの船をよこせと脅しをかけてきた奴だ。
(断ったらすぐに、こいつらをけしかけてきやがったんだ…)
「ガウアッ!」
瑠璃色に戻りかけた眼を朱色にし、ロボット犬に念力をぶつける。ただひたすらに撃退し続ける。今はそれしかない。
…カツンカツンカツン。また暗闇の中でロボット犬が歩く音。そして…。
「はっ。確かにここで間違いねえな!」
大声がしたかと思うと物置のドアが開いて、LEDの光が差し込んできた。
「?!」
ドアのそばには迷彩服を着た若者が仁王立ちをしてハールドを睨んでいる。そして、その手にぶら下げられているのは…。
「ラクープ!」
息も絶え絶えの少年、ラクープがいた。殴られたのか、顔中痣だらけだ。
「大丈夫か!」
ラクープは応えない。ハールドを見てすらいない。不意に口から大量の血を吐き始めた。彼の鎖骨には短剣が突き刺さっている。
「おいてめえ、ラクープに何しやがった!」
死にかけの親友を見て、ハールドは激高した。念力をぶつけるのも忘れ、怒鳴りつける。迷彩服男はせせら笑った。
「約束どおり、勘弁してやっただけだ。他の奴らのように、首を絞めて殺すのをな」
「他の奴ら…約束?」
「ああああ…」
真っ青な顔のラクープの口が開いた。死に際の一言を言うかのように。
「ラクープ!」
親友に向かって呼びかける。だが反応はない。虚ろなラクープの目は迷彩服男を見ていた。
「な…んで…」
「ああ?」
「…言ったら、許してくれるって…」
そして…動かなくなった。
(…今、なんつった?)
ハールドは親友の死体を前に、呆然とした。
「約束」、「言ったら許す」。
(まさか、まさか)
最悪の答えが浮かび、真っ青な顔でその考えを頭から追い出す。
(そんなわけない、そんなわけない!)
ラクープは自分の一番の親友だ。
と、その時!
「ヴガアッ!」
「しまった!」
念力を使う間もないまま、着ているケープごと噛みつかれる。肩に鋭い痛みが走った。
「うっ」
耐えきれず、片膝をつく。迷彩服男はニヤリと笑った。
「よくやった、二号。さあ、今からお前の兄弟を壊した野郎の仇を討ってやるから退きな」
二号、と呼ばれたロボット犬はハールドの肩から金属製の牙を引き抜き、あっさり部屋の外に出て行った。残りの二頭もそれに続く。カツンカツンカツン。
無機質な金属音が、遠ざかっていった。
それとほぼ同時に、運転室の方でダーンと砲声が響いた。
いきなり戦闘モード…。
怖い怖い。
でもまあ、も少ししたら恋愛も盛り込みます。