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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
15/107

二人で一緒に

ドカーン!

ドカーン!



爆発音が二度。ほぼ同時に車内が揺れた。

(事故か? いや、振動は外部から…攻撃だ!)

とっさに窓に飛びつく。何も見えない。

「な、なに?! なにが起こったの?!」

慌てふためく夕莉を置いて、スピッツは個室の外へ走り出した。

目指すは前方の機長室。まずは状況を把握しなければならない。

(攻撃されてるのは、かなり前の方だな…まさか運転席?!)



通路を走り抜けるスピッツの耳には、乗客の悲鳴が嫌という程聞こえた。その間にも爆発音と揺れは続く。

「今の何!?」

「揺れたよね!」

ドカーン!

ガタガタガタ。

危うくこけそうになった。

「きゃあ!」

「ママー!」

ドカーン!

ガタガタガタ。

「ミチル! おい頭打ったのか、しっかりしろ!」

「どうなってんだこのレールは!!」

「どーせ、運転手のミスだろ。ふざけてんな」

文句を言いながら個室から出ようとする乗客を、走りがてらスピッツは押しとどめた。

「個室から出ないで! 通路は危ないから、中で待機してください!」

「もう、こんなとこなんざ乗ってられっか!」

「そうよ、機長に文句言ってやる!」

ドカーン!

ガタガタガタ。

「状況を確認するので、死にたくなかったら中にいてください!」

ピンポンパンポーン。

突然流れた機内放送もスピッツの味方をした。

『ただ今、本機は外部から攻撃を受けています。状況を確認し、お客様にお伝えいたしますので席からお立ちにならないようご協力ください』

ドカーン!

ガタガタガタ。

「ああ? 攻撃だあ?」

「絶対安全じゃなかったのかよ、おい!」

乗客たちは口々に野次ったが、事態の深刻さを知ると舌打ちしながらも個室に戻って行った。



途中、数名の機内スタッフたちとすれ違った。慌てふためく乗客を鎮め、もしもの場合の脱出方法を指示する役割の人たちだろう。気の毒な役目だ。気が立っている乗客にさぞかし怒鳴られるに違いない。

(忌々しいのは、攻撃を仕掛けてる奴らだ。何者なんだよ)

銀河系に住む人々にとっての公共の乗り物に攻撃を仕掛ける奴ら。心当たりはないでもない。



「失礼します! グリーン星フェアーナ国兵士スピッツ、緊急の要件で入ります!」

ドアの先には、窓の外を見つめる機長と副機長。スピッツの声を聞いて、年かさの機長の方が振り向いた。

「ああ、兵士の方ですか!」

「そこから、攻撃してる奴が見えますか?」

「はい、どうぞこちらへ。あれです」

女性の副機長が指差す先には、やたらと動き回っている直方体形の中型宇宙船があった。先端から銃口が覗き、そこから大型の弾丸がここから見て斜めの方向に何度もぶっ放されている。大型の弾丸が窓の端に消えるたびに、爆発音と衝撃が走った。



「狙われてるのは、運転席ですか?」

「はい、そのようです。…おい再度応答しろ」

機長が無線で尋ねる。

『ガガ…ザピ…はい、こちら運…席。ガガ…攻撃受けて…す。ザザ…今のと…ろ、怪我…ないで…ビビ…』

「機械を壊されてはいないか? 発火は?」

『どちらも…あり…せん。ガガ…ただ、衝撃が激しくて今のま…はまとも…運転…ガガ…でき…ませ…ピピ』

「わかった。一旦運転を停止しろ」

機長は無線を切り、ホッとしたような表情でスピッツに向き直った。

「どうやらあの爆発は、本機の表面でのみ起こっているようです。あんなすごい爆発音がしているのに、運転手は無事ですから」

「恐らく使っているのは、衝撃だけの殻爆弾なんでしょうね」

副機長の言葉を聞いて、スピッツは少し考えて言った。

「じゃあ、攻撃の目的は…」

「本格的なテロというよりは、嫌がらせでしょうね」



(それじゃあ…)

大勢の観客に単なる嫌がらせをするだけの連中。もう、目星がついた。

「とりあえず、機内に命の安全は保証できますと放送を流しますか」

「その前に、怪我人の確認だ」

「ですね。救急班を客室に行かせましょう」

「それと一旦グリーン星に連絡して、指示があるまで運転は見合わせよう」

「まったく厄介ですね」

「木星人でないだけマシだよ」

機長も副機長もグリーン星人である。木星人の怖さは身にしみているのだろう。



(なんかあれ…変だな)

攻撃いや、嫌がらせはまだ続いている。機長らの会話をよそに、スピッツの目は直方体形の宇宙船に吸い寄せられていた。

確かに攻撃してきているが、どうも動きが不自然なのだ。

一発打ったかと思うと上下が反転したり、やたら右に左に移動したり。まるで酔っ払い運転でもしているようだ。運転手が安定した状態にいないのだろうか。

(それなら!)

「機長!」

スピッツは暴れ宇宙船を指差した。

「あれ、調子悪いみたいです! うまく近づいて攻撃をやめさせて、中の連中を拘束できるかもしれません! 救命用のボートでいいんで私に貸してください!」

機長は困ったように首を振った。

「いえ、たった今グリーン星と銀河連盟に報告したところです。グリーン星から戦闘部隊が来てくれるので、お手を煩わせるわけには…」

「目立つ戦闘部隊が来てすぐに逃げられたら、捕まえられませんよ!」

「機長。私も賛成です。それに、戦闘部隊が来てくれるまで時間がかかります。それまでずっと、攻撃を受け続けるんですか?」

副機長もスピッツの肩を持ってくれた。

同時に爆発音。

ドカーン!

ガタガタガタ。

遠くで赤ん坊の泣き声が聞こえた。

アーンアーンアーン!

続いて女性の泣き叫ぶ声も。

テイル、しっかりして、テイル…。



「…分かりました。よろしくお願いします」

機長は閉じていた目を開け、決心したかのように頷いた。

「いえ、当然のことです」

「早速救命ボートを外に用意します。しかし、ここには武器も戦闘員もおりませんが…」

「武器は持ってます。あと、私一人でも大丈夫ですよ」

だが本音を言えばかなり不安だった。

ここにはラーシルもメイサもイチアールもいない。スピッツ一人だけの戦いは初めてなのだ。しかも敵の人数も分からない。あとは強さも。新人兵士のスピッツ一人で勝てるだろうか。

だいぶ前のことだ。一人無謀な戦闘に乗り出して、惨めな死骸と成り果てた仲間がいた。その仲間というのは、自他共に認める成績優秀なウサギ兵士だった。

彼に比べれば、スピッツは兵士としてはいたって中級だ。もう一度自問自答する。果たして自分一人勝てるかどうか。

(…仕方ないでしょ、兵士なんだから!)

木星人対策のためグリーン星の防備に兵が回され、ここには他に戦闘員がいない。戦えるのは自分だけだ。酷くなる悲鳴と爆発音を聞きつつ、スピッツは恐怖を無理に追い出した。



プラスチック製の宇宙マスク(これをつけないと窒息する)を口につけたスピッツは機長室の床の上げ蓋を開けた。だがその時、

「待った、あたしも行く!」

夕莉が機長室に飛び込んで来た。手にはピンク色の拳銃が握られている。



「冗談じゃない! 部屋に戻っといて!」

一般人を戦闘に参加させるわけにはいかない。

「お客様、危ないですので席にお戻りを」

機長の言葉も無視し、夕莉はスピッツの腕を掴んだ。

「そっちこそ、一人で行くなんて冗談じゃない! 危ないじゃんか!」

危ない? そんなことは言われるまでもない。スピッツは負けじと言い返した。

「私は兵士だよ! 夕莉ちゃんは戦闘とかしたことないでしょ!」

「ないけど、不審者とか野犬相手に戦ったことはあるよ!」

「そんなレベルの話じゃない!」

「でも、あたしはグリーン星の助っ人なんでしょ! ここぞという時に戦わなくてどうするの!」

グッと言葉が詰まった。確かにそれは自分の言葉だ。

(やれやれ、なんであんな言い訳にしたんだか…)

今撤回しても大丈夫だろうか。



「いや夕莉ちゃん…」

別の嘘をつこうとしたとき、いきなり小さな温かい手に前足を包まれた。

「なに…」

「あたしじゃ戦力不足? でも人のこと言えないよね? スピッツだって、野犬相手に戦えなかったんだし」

「いやそれは…」

こんな時に暴露大会はやめてほしい。

「撃ち合いになったらどうするの? 言ってる意味分かるよね?」

「…そこは夕莉ちゃんには負けるよ。けど…」

「じゃあ連れてって損はないんじゃない? あたし16よ? これでも高校生なんだよ?」

意地の悪い、けれども優しい顔の夕莉。



彼女は、スピッツの苦手が自分の特技であることを強調したいのだろう。だが戦闘能力というものはそれだけでは決まらない。

(だいたいこの人、戦闘以前に訓練とか受けたことないでしょ絶対)

おまけに持っている銃に入っているのは、実弾ではなく麻酔弾。

(向こうは本物の銃持ってることぐらい想像してみなよ…)

中級とはいえプロのスピッツも、もとより素人の彼女の能力を当てにしてはいない。

(ただ…)



「一人より二人の方が安心でしょ」

「…」

そうなのだ。まったく彼女は、無邪気な裏で人の弱みをどこまでもついてくる。

(…ま、一緒にいてくれたら安心…ではないけど、心細くはないかも)

少なくとも彼女はスピッツを救ってくれ、あったかいお好み焼きを食べさせてくれた人だ。

兵士仲間ほどではないが、不思議と信頼したくなる。



(それに、OK出すまで行かせてもらえなさそう…)

小さな手の握力はまあまあ強い。

スピッツは決心した。

「分かった。ついて来て」

「スピッツさん、しかし…」

「機長、この人はちょっと訳ありなんです。私が責任を持ちますから」

夕莉に宇宙マスクを渡しながら言う。そしてスピッツは上げ蓋を一気に引き上げた。細長くてくらい通路が見える。

(ここを通っても一つの蓋を開けたら、そこは宇宙だ)

「行くよ。マスクは…その付け方で問題ない。絶対外さないでね」

「うん」

スピッツは先に通路に入った。取り付けられた梯子を慎重に降りていく。



上を見上げると、夕莉がビクビクしながらついてくる。

「向こうの宇宙船に潜入したら、まずは自分の身を守ることを考えて。無理しないでね」

「わ、分かった。で、何をしたらいい?」

(そこかい!)

「…私が突っ込む。夕莉ちゃんは補佐って感じでどう?」

「りょ、了解…」

自分からついてきたくせに、オドオドした態度の夕莉。

(何のかんのと言って怖いんだな)

地球にたどり着いたばかりの頃のスピッツなら、ここで夕莉を帰すか露骨に面倒くさげな表情をしてみせただろう。



(しょうがないなあ。ま、こっちは三流兵士、向こうは素人。持ちつ持たれつってことでいっか)

今の彼女は夕莉と一緒に戦闘に行くことに妙な安心感を覚えていたのだった。

早く新しいメインキャラを投入したいんですが、いかんせんライオネルたちのことも描きたいし…。

迷いどころです。

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