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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
14/107

初めての宇宙

夕莉、初めての真空レールです♪

「助っ人が欲しいんだ!!」

そう言われて本当にこんなところまで来てしまったあたし、空乃そらの夕莉・十六歳。

窓から見える景色は和やかな田園風景…じゃなくてユニバース、宇宙そのものだ。どんどん遠ざかって行く地球。すれ違う色とりどりの星々。このSLは宇宙空間を進んでいる。



「こ、これどうやって運転してんの?」

「そこんとこは専門家に聞いてくれないとわかんないけど、このSLは真空レールって言うんだ」

得意げに言う二人乗りの個室の相方はスピッツ。グリーン星から来たウサギの兵士だ。

「もう、元の姿に戻ってもいい?」

あたしはスピッツのモフモフの手の上で言った。ここは気持ちいいけど、いい加減に元の姿に戻りたい。周りが巨人の国みたいに見えるのにはもう飽きた。

「ハイハイ」

スピッツは肩掛けカバンに手を突っ込み、ラベンダー色の粉を包んだ薬包紙を取り出した。



◻︎◻︎

三十分前。



「助っ人?」

「そう! その射撃力を生かして欲しいの!」

「木星人相手に?」

「そう! あいつらは今グリーン星にテロを仕掛けてきてるんだ!」

う…面倒くさそうな話。

「まだ本格的な戦争は起こってないんだけど、このままだと侵略されちゃうんだ! あいつらからの脅迫も来てるんだよ!」

スピッツは必死の形相。さっきまでの偉そうな態度は完全にどっか行っちゃったみたいだ。

「グリーン星…だっけ? そこの軍隊はないの?」

「勝てないんだよ! あいつらには! んで、銀河連盟から支援が出たんだけど…かくかくしかじか」



銀河連盟…。何回かテレビで聞いたことがあるな。そもそも宇宙に出たことすらないから、どんなのかは知らないけど。

しかし、支援が物資の援助だけとはね…。なにも知らない私にとっても、ちょっと少なく思える。



「でもさ…」

スピッツの気持ちはわかったけれど、あたしには疑問がある。

「グリーン星の軍隊でさえ手こずってるのに、あたしなんかが行ってなんの役に立つの? 確かに射撃は百発百中だけどさ」

「なんでもいいんだ! なんなら四星から来た人たちの護衛でも!」

護衛…。銃を不審者に向けて撃つような感じかな。まあ、それならなんとかなるかもしれない。

「来てくれる?」

手を毛だらけの前足(いや、手なのかな)にがっしりと握られる。正面には縋るような目。なぜか野犬に追い詰められていた時の彼女の怯えた目を思い出した。



兵士が一般人に助けを求めるなんて聞いたことがない。なのに彼女が子供のあたしに助けを求めてる。多分、彼女の外見からしてまともに話を聞いてくれる地球人なんていなかったんだろう。やっと会えた理解者、それがあたしなんだろうな…。

スピッツはコミュニケーション能力が高くない気もするし、ここで断ったら彼女は新たな協力者を探すのにものすごく苦労しそう。


正直、子供が助っ人とか無理っぽいけど彼女の気休めになるなら引き受けてあげてもいい。

それに星外に出てみるというのも、なんだか面白そうだ。嫌なこととか忘れられていいかも。



「…行くよ」

「ホント?!」

「でもまだ問題があると思う。まず、あたしは地球から出られない」

スピッツはキョトンとした。

「そんなの、星外用の空港でチケット買ったらいいだけじゃん」

「あんなとこ、一般人は使用できないよ。あれは宇宙会議とかいうのに出席する重要人物のために作られたんだし」

「え?」



宇宙へ向けた空港がこの地球に開発されたのは三十年前。つまり、あたしが生まれる十四年も前のことだ。だけど、それができたことで人類の宇宙進出が始まったとかそういうわけじゃない。使えるのはほんの一握りの人たちだから。

「宇宙人が向こうから入ってくるのはいいんだろうけど、まあそれも制限は厳しいらしいよ。実際、あたしだってスピッツを見たのが最初だし」

「ふうん、そうなんだ」

じっと考え込むスピッツ。その口からはかすかに「そういうことだったのか」と漏れた。

「なにが?」

「ああいや、何でもない。でも、それは困ったね…」

「でしょ?」

「や…でも何とかなるかも」

正直に言う。こう聞いたとき、あたしの心は親切心半分と好奇心半分弱、そしてほんの少しの疑念で占められていたんだ。



「他に質問ある?」

そんなことを言われても、すぐには出てこない。

「旅路で色々聞かせてもらうってことで…」

「分かった。じゃすぐに準備して」

「あ、そうだ」

忘れかけていたことを口にする。

「病院はグリーン星のに行くの?」



ーー

結局スピッツのとった行動は、あたしを小さくしてカバンに隠して地球から連れ出すことだった。

「どのくらい舐めればいいの?」

ラベンダー色の粉の山を前に、若干不安な気持ちでスピッツに尋ねた。

「一舐めでいいよ。その薬は、変身解く用だから」

ふうん。ペロリ。ん? なんか身体中が揺れてる…。

「う、うわうわうわうわー」

あっという間にあたしの体は元どおりになった。



「気分悪くない?」

「全然大丈夫。でもすごいね、スピッツの薬。小さくなるときに飲んだ黄色の粉もこっちも無茶苦茶効くじゃん」

小さくなった時の興奮がいまだに冷めない。

「あの三つ編みの女の子もこういう薬を使って化けたの?」

「そうだよ。まあ飲んだのは一種類じゃないけどね。体の細胞の大きさを変える薬とか、髪の毛生やす薬とか、髪の色、肌の色を調整する薬とか。いろんな薬を少しずつ飲んで化けたわけ。この薬は兵士ウサギにだけ支給されたものなんだよ」

一気に饒舌になった。そのことを言うと、スピッツは照れながら答えた。

「変身だけが、私の兵士としての取り柄だからね」

そういえば、射撃の腕前は酷かったなあ…。兵士なのに。



そう言えばここの座席に着いてすぐ、スピッツを車内の医務室に行かせた。

「こんなのくらい大したことないって!」

「噛まれてたでしょ、念のため! あたしを元の大きさにするのは後でいいから!」

どうにか押し切り、野犬に噛まれた傷を診てもらった。結果は、「大事なし」だ。

「言ったでしょ」

膨れた顔のスピッツをなだめつつ、あたしはホッと息をついた。



ーー

そんなこんなでスピッツは徐々にいろんな顔を見せてくれるようになった。だから、あたしも自然と言いたい放題言ってしまう。

「手並み鮮やか。これだったら、誘拐とかも簡単にできちゃうね。小さくして隠すだけでいいんだから」

冗談で言ったつもりだったのに、スピッツの顔色が曇った。

「まあ…ね」

もしかすると、自慢の薬を侮辱されたと思ったのかな。悪いことした。

「いやあの、たとえばの話だから! それに、スピッツがそんなことするわけないじゃん」

「はあ?」

「だって、嘘つくのも下手だしさ。性格も良さそうだし」

「…」

彼女の態度はいまいち煮え切らない。スピッツは悪意とか嘘とかは下手だと見ているけど…うーん。疑念がむくむくと膨らんでいく。



「あっそうだ、お好み焼き食べようよ!」

ひとまず話題を変えることにした。さっき大急ぎで準備したリュックサックから、お好み焼きを入れたタッパーを取り出す。まだ温かい。

「オコノミヤキ?」

「食べる暇なかったからね」

あたしはタッパーの蓋の方をあたし用の皿にして、タッパー本体と割り箸をスピッツに差し出す。彼女は首を傾げた。

「夕莉ちゃん、この木はなに?」

「あ、そっかごめん。これお箸なんだ。使ったことないんだね」

「…あ、大丈夫。使い方わかった!」



割らずにそのままお好み焼きに突き刺した!

「うわーすごい…」

「フォークの尖ってないバージョンなんでしょ。…うわぁこれ美味しい!」

スピッツの顔に笑顔が戻った。なんか、ますますぬいぐるみっぽい。ま、それはともかく。

「ホント? 良かったー!」

いろんな意味でね。

あと、お箸については勘違いしてるみたいだけど、あたしの手料理を褒めてくれたのが嬉しかった。



ーー

「あーお腹いっぱい。ごちそうさまでした!」

スピッツは満面の笑みを浮かべていた。たまにあたしが料理したときに家族が見せる表情に似ている。なんども言うけど、自分が作ったものを喜んでもらえるってものすごく嬉しい。最近は自分とか家族のためにしか作ってなかったけど。…なんか色々思い出すなあ。

あたしは照れ隠しのつもりでやたらと手もみをしてみせた。

「いえいえ。ホントはここでお口直し欲しいんだけどなぁ」

「車内販売が来るからそのときにでも…いや!」

スピッツはカバンからピンク色の包みを取りだした。

「もらったチョコがある。これを分けっこしない?」

星外のチョコ?!

「これ、グリーン星産?」

「…多分ね」

「うわあ楽しみ!」

どんな味なんだろ。早速手を伸ばしたその時。



ドカーン!

真空レールの前方で、爆発音がした。

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