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六人の異邦人  作者: 椎名れう
異邦人集結
13/107

言い訳

それから、茶色の制服を身につけた地球人がわらわらやって来て、スピッツたちに質問やお礼を言った後に眠ったままの野犬を檻に入れて運んで行った。

ぼーっとしていたので、何を聞かれたのかは全く分からなかった。それでも、

(助かった…)

確かに分かったのは野犬に食べられずに済んだということ。

そして自分を助けたのが目の前に立っている少女だということ。



「いや、危なかった〜」

へたり込んで手を握れないスピッツのそばにしゃがんだ見た目十二、三歳の少女は明るい声で言った。

「あたしも、初めて野犬に遭遇した時は怖かったんだよ。銃持ってたけど、全然撃てなかった」

「そ、そう…」

「で、大丈夫? 怪我してない? 噛まれたとかは?」

「ん…」

スピッツは礼を言うのも忘れ、生返事を返した。もう野犬の話などしたくない。

少女の方でもそれを感じ取ったのか、二、三回小さくうなずいてから立ち上がった。

「なんともないなら良いんだよ」

「…」

「あ、そうだ。今からお昼の具材買いに行くんだったっけ! じゃあね〜」

「あ、待って!」

スピッツはとっさに少女の脚を掴んだ。ここで任務のことを思い出したのである。


「ちょっと、話があるんだけど…」



◇◇

「なんか壁にいっぱい賞が飾ってあるんだけど」

「あ、それ全部あたしが取ったんだよ。射撃の全国大会でね」

七歳の時から、一年ごとに開かれる大会に地方大会に勝ち上がって全国に出場してきた。初出場の時は7位。今年の春は3位だった。10位以内なら賞状が、3位以内ならメダルがもらえるから、今私の手元には賞状が10枚とメダルが5枚ある。

「すごいね…」

「それほどでもないよ。一回も優勝したことないんだし」

悔しいがこれは事実だ。来年こそは絶対に優勝したい。



「一旦そっち行くねー」

お好み焼きの生地をホットプレートに流したところで、あたしは謎の女の子がソファーに座って待っているリビングに戻った。

さっきになって彼女は足を噛まれたと言った。それって全然大丈夫じゃない。ひとまず病院に連れて行こうとしたら止められた。

「先に話したいことがあるの」と言う。

狂犬病云々より大事なことがある? そんなわけがない。だけど心配するあたしの話も聞かずに、「病院には行かなくても大丈夫」なんて彼女は言い張る。ついには「連れて行かないで」と泣きつかれた。

どうもよく分からない。そこでひとまず食事をしながら話を聞こうってことになった。

あと、謎の女の子と言ったのは、彼女が何故かずっと名乗ってくれないからだ。こっちはちゃんと名乗ったのにね。



「それでお話ってな…」

体が硬直した。

リビングから女の子の姿が消えていた。代わりに、なんかシャツ着てスカート履いた全身ピンク色のウサギがソファーに座ってこっちを見てる!

ウサギといっても、飼育係が飼ってるアレとは違う。それよりずっと大きくて、耳と腕と脚が同じ大きさで、どっちかっていうとぬいぐるみっぽい。鼻とかは違うけど、目がかなり人間に近い形をしている。

というか、なんでこんなことになった?!



「え、え?! さっきの子は?」

「えーっとなんていうか、こっちが本当の姿なんだ」

ウサギが喋った?!

「は、何? え、何?」

相手が何言ってるのか全く理解できないあたしを見て、ウサギは小さく舌打ちして何かを呟いた。

なになに?

「これだから地球人は…」?

どういう意味?

このウサギ、宇宙人なの?

まあ確かに、言葉をしゃべるウサギなんて地球にはいないんだろうけど。



「これ見て! さっき野犬と戦った時に撃った銃!」

肩掛けカバンを開けた中には、水色の拳銃が入っていた。これはさっき、三つ編みの子が野犬にぶっ放してたアレ。「あんな至近距離で外すなんて」って思ったのを覚えてる。もちろん口には出さなかったけど。

「これで分かったよね! さっきの三つ編みの女の子は私の変身姿なの!」

いらだった声で言い、ウサギはソファーの上に仁王立ちした。



なんかよく分からないけど、多分その通りなんだろう。よく見れば、目元も声もおんなじだ。

「分かった?!」

「う、うん。どうにか」

向こうは不満そうな顔になるけど、すぐに完全に解るのは無理だ。混乱してるってことぐらい察してほしい。

「ま、分かってきたけどさ…」

「よろしい」

ウサギはやっと満足げにうなずいた。ていうか、なんで向こうの方が偉そうなんだろう。あたし、命の恩人じゃなかったけ?

まあいいけどね、別に大したことしてないし。



「で、話ってなに?」

とりあえず会話を元に戻そう。向こうのお望み通り。

そしたら何故か、変な顔された。「予想外」とでも言いたげな感じ。

「どしたの?」

「いや、まずはアレコレ質問してくるかなって思ったから…」

なんだそれ。

「話がしたいって言ったのはそっちじゃん」

「まあそうだけど、今までの地球人は…」

「聞きたいことならいっぱいあるんだよ。聞いてもいいの?」

一番に聞きたいのは、「本当に病院行かなくていいの?」だ。彼女の足に残る噛まれた跡に自然と目が行ってしまう。このウサギさん、狂犬病の怖さが分かってるの? ウサギだから狂犬病にかからないんならそれでいいけど。

「聞いても?」

「いや、よくない」

ウサギはコホンと咳払いして話し始めた。それこそ突拍子も無い話を。



彼女は、スピッツというらしい。グリーン星フェアーナ国の予備隊兵士。地球に来た目的は、地球人誰か一名にフェアーナ国内の快適な旅行を提供するため。

「で、偶然夕莉ちゃんに出会えたわけ。どう、一緒に来てくれないかなあ?」

ぎこちない笑顔ととってつけたようなセリフ。こんなんじゃ小学生でも騙せない。だいたい、さっきまであんなに偉そうだったのに、急に友好的な態度になるなんておかしい。

「本当の目的は?」

映画で見たカッコいいスパイのセリフを出来るだけ真似て問いかける。スピッツの体がビクッと震えた。なんというか…分かりやすいなあ。



「い、いや私は本当に…」

「兵士が旅行の勧誘に来るっておかしくない?」

「ウサギは可愛いからマスコットなんだ」

「普通はそういう仕事に長けた旅行会社の人だと思うよ」

スピッツの顔ががっくりと下がる。粘るのをやめたらしい。本当に分かりやすいな。

同時に、あたしの頭には急に好奇心が湧き上がった。

「ねえ、教えてよ。どこまでが本当なのか」



◇◇

(バレたか。やっぱり私は嘘が下手だなあ。)

しかし、なんと言おう。

グリーン星には来て欲しい。だけど目的はわからない。

(本当のこと言ったって来てくれるもんか。胡散臭すぎるし)

だからといって、「あなたを誘拐しにきました」なんていうのはもってのほか。

顔を上げて夕莉を見た。「聞き出すまでは離れない」という固い決心が伝わってくる。

(ここは適当に誤魔化して別の地球人にするか)

スピッツは即座に首を振ってその考えを打ち消した。正体を明かした時の彼らの反応は目に見えている。そうなれば、また追いかけっこの始まりだ。

(というか、そもそも話を聞いてくれるかも分からないよなぁ。だから別の連中とこれ以上つるむのはごめんだ。それに、グリーン星に帰るのが遅くなったら嫌だし)

ここはもう、目の前の少女ー夕莉ーに賭けるしかない。ある意味縋るような気持ちでスピッツは彼女への返事を考えた。



(縋る? 私はなにを…)

自問自答しながら、スピッツはついに言い切った。



「ど、どうか助けてください!」

ガバとひれ伏す。

「え…」

「今グリーン星は木星に侵攻されてるの! だから、だから…助っ人が欲しいんだ!!」

次回、また真空レールです。

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