台所の尋問と勘違い
おーけー、落ち着こう。
今私の目の前には恐ろしい顔つきのザナントと眉間の皺が凄いアグリスト、やっちまった感を漂わせるライドールに巻き込まれた雰囲気のリスリー、そしてばつの悪そうなクトセィム。
……老けたなー、クトセィム。
朝食の時にも見たけど、近くで見ると兄貴からおじさんへと変貌を遂げてしまっている。
髭とか生やしてまぁなんと36歳のはずなのにもっと老けて見えるわ。
4歳差が17歳差か…。
歳はともかく並んだら兄妹どころか父娘に見えても不思議じゃないぞこりゃ…。
……いかんいかん、落ち着いたつもりが現実逃避になっていた。
しかしマジで意味が分からん。
盗み聞きされてたとしても何がどうなれば私が王子の愛人になるのかさっぱりだわ。
「で、お前は精霊様の愛人になって報酬を貰ってきたのか? 黙ってねぇで、さっさと答えろよ」
あまりの衝撃に言葉が出ないんだよバカ!
「いや俺は憶測を呟いただけでそんなつもりは…」
大体クトセィムのせいってはっきり分かるもんだわねー。
「俺はフィルズの事信じてるからねっ!」
やけに必死じゃないかライドール。
「…………有り得ませんよ」
こっち見んかいアグリストぉ!
っていうか考えたら年上の男に囲まれてて威圧感半端ない。
私が座らせられて他がクトセィム以外立ってるから余計になんか怖いわ。
しかもザナントはもはや私が報酬の為に愛人になったと決め付けてるだろ。
「えーっとさ、取り敢えず誤解の始まりを聞いても良い? それを聞いてから私が訂正していくから」
「訂正って事は精霊様の愛人じゃなかったって事だよね」
「むしろ何で私が愛人なんて話が出てくるのか驚いてるぐらいだわ」
「取り敢えず答えを早く合わせたいので私が話します」
……こうして、アグリストに誤解の全貌を聞いた私はクトセィムとリスリーの聞いた話と解釈を聞いて唸った。
「確かにそっち系に思える!」
「だよな!」
やけに嬉しそうな返事をしてきたクトセィムだが、お前の魂胆は分かっているぞ!
「だからと言ってそれを口にして4人を惑わした事実は忘れんからな!!」
「マジかよぉー…」
確かに話だけ聞いたらそれっぽい。
だけどそれが有り得ないと私と院長先生は知っている。
何故ならば、
「さっきまでの話に答えを導くヒントを1つ」
「んな事しねぇでさっさと説明しやがれ」
「ヒント、王子は生まれたて」
ザナントを無視した私の言葉に4人とおまけのおっさんが微妙な表情になる。
そう、私と院長先生が分かっていたから言葉にしなかったのだが王子は子どもなのだ。
つまりこいつらの分かっている事に付け足すなら、
(子どもの)相手ができるなら誰でも良い。
小うるさい私より優しい女の子を選んだ(のは子ども)。
(他の子どもの世話をしに行ったなんて置いて行かれた)子どもに言い辛い。
(成長した4人に私が気まずいから)話辛い。
というだけ。
最後以外はヒントで分かるだろう。
「はい、答えが分かった人ー」
全員が無言で片手を挙げた。
ザナントとライドールは顔を背け、アグリストは右手で眉間をマッサージし、リスリーは真顔でこっちを見ている。
え? おまけ扱いに成り下がったおっさん?
余った手で顔を隠して俯いてるよこのバカ野郎め!!
この反応を見るに、リスリー以外は多少なりとも私が愛人をしてきたと思ってた訳だ。
……なんて奴らだろう!!
私の繊細な心はズタズタだ!
これは相応の報いを受けさせねば!!
取り敢えず私はクトセィムの頭に拳骨を落とし残り3人の向こう臑を蹴った。
特にザナントは教育的指導も含めて強めに蹴る。
信じてるとか嘘を吐いたライドールも強めに蹴る。
……アグリストは井戸での私の態度が勘違いを助長させた気がしないでもないから普通に蹴る。
ふう…安心しろ、峰打ちだ。