迷わず、望みの場所へ
私たちは王城の高台から、復興途中の街を見下ろしていた。
ヴァルグレンの王都。
初めて来た日、ここには戦争の傷ばかりが目についた。
けれど今は、新しい屋根が増えている。
修復途中だった建物には壁ができた。
通りを走る荷車も増えた。
市場から人々の声が聞こえる。
夕暮れが深まるにつれて。
街に。
一つ。
また一つ。
灯りがともる。
「随分、変わりましたね」
私が言った。
レオン王子も街を見る。
「ええ」
少し沈黙した。
心地のよい。
静けさだった。
やがて王子が言う。
「エレナ」
「はい」
「これから」
一度、私を見る。
「どこかへ行きたいと思いますか」
その問いに。
すぐには答えなかった。
昔、私は願った。
私を必要としてくれる場所へ。
そう願った。
必要とされれば。
そこにいていいのだと思っていた。
誰かの役に立てば。
自分にも価値があると思えた。
だからずっと。
誰かを支えた。
誰かのために。
頑張った。
でも今は違う。
私はこの国で。
必要とされているから残りたいのではない。
この街を、もっと良くしたい。
あの農民たちと。
職人たちと。
この国を。
もう一度立て直したい。
そして隣にいるこの人と。
これからも一緒に歩きたい。
だから。
「ここです」
私は答えた。
レオン王子を見る。
今度は誰かに与えられた答えではない。
自分の望みとして。
「私は、ここにいたいです」
王子の目が優しく細められた。
「では」
手が差し出される。
「一緒に頑張りましょうか」
私は、その手を見た。
そして握った。
「はい」
自然に笑っていた。
◇
今まで。
私はずっと。
誰かに言ってきた。
頑張って。
大丈夫。
あなたならできる。
その言葉は。
ちゃんと。
届いていた。
誰かを信じたこと。
誰かの未来を願ったこと。
それは。
何の役にも立たないものではなかった。
なら。
今度は。
私自身にも。
言ってあげよう。
――頑張れ、私。
隣には。
同じ未来を見てくれる人がいる。
自分で選んだ。
居場所がある。
だから。
もう。
迷うことはない。
《星導》。
――迷わず、望みの場所へ。




