9. ワガママ?
9. ワガママ?
「……よし、今日のオンライン授業おしまい!レポートも出した!」
夜の20時。
日中の通信制高校のオンライン授業と課題をきっちり終わらせた柚葉が、大きく伸びをしてゲーミングチェアに深く座り直した。
「よくやった。飯も食ったし、風呂も入ったな」
「うん、準備万端。いつでもいけるよ」
オレは柚葉の後ろに立ち、腕を組んでモニターを見下ろした。同居のコーチングが始まって2週間。地味で過酷な定点練習とマップ研究を叩き込み、今日、ついに彼女に対人戦を解禁する。
「ビビるなよ。今までやってきた定点をそのまま出せばいい。全部オレが後ろで見ててやる」
「……うん。いくよ」
柚葉が深呼吸をして、「マッチング開始」のボタンをクリックした。画面の中央でタイマーが回り始める。数秒後、『シュォォン!』という派手な効果音と共に、試合が決定した合図が鳴った。
画面が切り替わり、味方チームのプレイヤーネームが表示される。今回は3人1チーム。柚葉以外の二人の名前がモニターに映し出された瞬間だった。
「……は?」
柚葉が、モニターを食い入るように見つめたまま完全にフリーズした。
「どうした?」
「ウソ……なんで……。なんで、『GALE』と『Snow』がいんの……?」
「ゲイル?スノー?誰だそれ、お前の知り合いか」
オレが首を傾げると、柚葉はバッと振り返り、信じられないものを見るような目でオレを睨んだ。
「知り合いなわけないじゃん!二人ともそこそこ有名な配信者だよ!コンビとかじゃなくて、別々の有名人をたまたま同時に味方で引いちゃったの!それぞれ固定ファンが多くて、今絶対、合わせて数千人は配信見てるし!」
「……へえ、とんでもない確率だな」
「『へえ』じゃないよ!なんで私の復帰戦で、よりによって有名配信者二人に挟まれるの!?私の下手くそなプレイが数千人に見られるんだよ!絶対切り抜き動画で『戦犯野良Owl』って晒されるぅぅ……っ!」
柚葉は頭を抱え、ぶんぶんと首を横に振ってパニックを起こし始めた。負けるのが怖いのではない。単純に「数千人の視聴者の前で恥をかきたくない」という、年相応の女子高生らしい羞恥心からの大パニック。
「落ち着け。たかがゲームの野良マッチだろ。適当にセンサー投げて、後ろついてきゃいいんだよ!」
「無理無理無理無理!頭真っ白で定点なんか全部飛んだ! ああっ、もうキャラ選択のカウントダウン始まってる……!」
柚葉はバッと椅子から立ち上がると、オレのパーカーの袖をギュッと掴んだ。
「センセ、代わって!お願い、代わりにやって!」
「バカ言え。スマーフ(代打ち行為)なんか規約違反だろ。お前のアカウントだ、お前がやれ」
「いいじゃんケチ!恥かいて私がゲーム引退してもいいの!?」
必死にオレをPCの前に引き摺り込もうとする柚葉を、オレは呆れ顔でいなす。すると、柚葉はふと動きを止め、ジト目でオレを見上げてきた。
「……というかさ、センセって強いの? プレイ見たことないんだけど」
「は?」
「口だけは偉そうにいろいろ教えてくるけどさぁ、実はセンセも、この人たちと一緒にプレイしたらボコボコにされるレベルなんでしょ?だからビビって代われないんだ」
「お前なぁ……安い挑発に乗るほどガキじゃないって言っただろ。いいから座れ」
オレが容赦なく柚葉の肩を掴んで椅子に押し戻そうとすると、彼女は最後の手段とばかりに、あの「小悪魔モード」を全開にしてオレの胸元にすがりついてきた。
「センセ!私ともヤらないし、ゲームも代わらない、ワガママすぎんだけど!?」
「待て待て! ワガママの意味が辞書ごと崩壊してるぞ!」
理不尽すぎる怒りにツッコミを入れるが、柚葉はあろうことか、自分の柔らかい太ももをオレの足にピタリと密着させ、パーカーの胸ぐらをきつく握りしめたまま言い放つ。
「だって、特訓明けの『初めての対人戦』だよ!?なんでいきなり数千人に見られながら、こんなハードなプレイさせられなきゃなんないの!センセのせいでしょ!?」
「お前の言い回しのせいで、なんか犯罪の匂いがしてきたからやめろ!」
「もう、どっちか決めて。今すぐPCの前に座ってゲームの相手をするか……」
柚葉は潤んだ上目遣いで、さらに胸の柔らかな膨らみをオレの腕に押し付けてくる。そして、オレの耳元で甘く囁いた。
「それとも、ベッドに行って私の相手をするか! ……ねえ、どっち?アタシ、今ならゲームより簡単に『攻略』できちゃうけど?」
「…………っ!」
密着した体温と、風呂上がりの甘い香りがオレの理性をガンガンとノックしてくる。
(……チッ、完全に手玉に取られてるな)
彼女は、オレが「絶対に手を出さない」大人だと完全に信頼しきっている。だからこそ、こんなふざけた脅し文句を盾にして、代打ちを押し付けてきている。
「……お前、オレがどっち選ぶかわかってて言ってんだろそれ。それはな、強制って言うんだよ。選択じゃない」
「えへへ。だから、どーすんの?」
オレが深い溜め息と共に低く唸ると、柚葉は悪びれもせずに悪戯っぽく笑った。
「……一回だけだからな」
「やったぁ!センセ大好きっ!愛してる!」
「はいはい、わかったから離れろ!」
オレは小悪魔をベリッと引き剥がしてヘッドセットを奪い取り、ゲーミングチェアにどっかりと腰を下ろした。
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