エアコン全滅
いよいよ夏本番。
氷菓子はあっという間に溶けてしまう、猛暑日の今日。
「ありゃりゃ。ひょっとして、エアコン壊れたかー?」
その日の朝、遠山家ではリビングのエアコンが壊れる、という悲惨な事件が起こってしまった。
最初にエアコンが壊れているのを発見した勇蔵は「まっ、壊れたエアコンがリビングだけで良かったんじゃないのかね。これが“全部屋のエアコン”だったら、目も当てられない事態になるけどなー」と快活に笑ってみせた。
それから数十分も経たないうちに、遠山家のエアコンが次々に壊れ始めた。
「こちら、新時代の書店員こと、ユーゾウ……たった今、おれと亜季の部屋のエアコンがお釈迦になったぞー」
「こちら、凧とは程遠い凪だけど、ぼくんとこのエアコンもつかなくなった」
「こちら、我が家のマドンナ、亜季……ねえ、これは一体どういう状況なの?」
「こちら、我が家のアイドル、悠奈じゃ。――って、それは余が知りたい!
余のエアコンも……『くるりん号』も突然起動しなくなった。これいかに!」
「うーん……これはもうあれだ、我が遠山家も終焉の時が近いのかもなー」
そんなこんなグループ通話をして話す凪たちは、リビングに全員集合した。
亜季がエアコン修理業者に連絡すると、修理業者の到着は昼過ぎになるそうだ。
そうと分かれば、あとは何も恐れるものはない。
「じゃあぼく、図書館に行ってくるね」
「おっ、凪は図書館かぁ。父さんはだな、リニューアルオープンしたばかりの書店に行ってくるぞー」
「ふっふっふっ……気分良く、余はヒトカラにでも興じようではないか」
「というわけで……」
「母さん、お留守番頼んだぞー」
「母上の分まで、悔いなく歌ってくる所存」
さあ、散会――かと思いきや。
「うふふ……あんたたちったら、この家の留守番をあたしにさせようとしたわね。まあ、いいわ……なら、こうしましょう。
――最初にこの家から外に出た者が、今回のエアコン修理費を出す。それでいいわね」
亜季の提案に、凪と悠奈はそれぞれ顔を見合わせた。
「でも母さん、ぼくと悠奈はそんなお金、手元にないよ」
「手元には、でしょう……?」
嫌な予感、と凪は頬を引きつらせた。
「まさか……後ほど、預金口座から引き落とすつもりでございまして?」
「大正解よ」
もはや凪は苦笑するほかない。
悠奈は「なんてことじゃ」と頭を抱え、亜季のことを「鬼女」呼ばわりしていたが、鬼女と化した亜季には、まるでダメージが通らなかった。
「……さすがは母さんだな。父さんでも、その妙案は正直思いつかなかったぞー。やるじゃないか」
おまけに頼みの綱である勇蔵は、鬼女の亜季に怯えていたため、彼女の従順な犬と成り下がっていた。
どうもこれ以上の抵抗は、ムダのようだった。
凪は恐る恐る亜季に訊いてみた。
「……もしも、誰も外に出なかったら?」
「そのときは割り勘よね」
「それは……うん、常識の範囲内で安心したよ」
こうして凪たちは暑くてたまらない家に留まり、今か今かとエアコンの修理業者を待っていた。




