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変人少女は青春の嵐を引き起こす  作者: 最上優矢
第三章 お見合い大作戦

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ネバギブ

 凪の目が覚めたとき、そこに裕貴はいなかった。


「あれ……裕貴、さんは?」


 放心状態のまま、隣の椅子に座る美麗に尋ねる凪。

 けれど、美麗は何も答えない。

 まるで燃え尽きたかのようだった。


 それで凪は察した。


「どんまいですよ、竹原先生」

「……いけるかと思った。今度こそ、いけるかと思ったんだ、遠山」

「ええ、分かりますとも」

「けどな、お見合い、断られたさ。無念だ、残念だ……!」

「いかにも。無念でしょうとも、残念でしょうとも。

 ですが先生、ここはですね、ネバギブという言葉、今一度思い出してもらいたい」


「それは『ネバネバ納豆ギブアップ』のことだろうな、遠山」

「違います」

「さては『ねえばあさんや、このギブスはいつ取れるのかえ』のことか」

「『これじいさんや、ギブスを勝手に外すでない』のことですよ、先生」


「そうなのか」

「ははっ、まさか。ぼくが言いたいのはね、ネバーギブアップのことです」

「ネバー……ギブアップ」

「そう。略して、ネバギブ」

「ネバギブ……!」


 美麗の目から涙がこぼれ落ちる。


「遠山、よぉく聞け。あたしはお見合いが成功するまで、絶対に諦めないぞ。絶対にだ」


 うんうんとうなずく凪。


「その調子で。竹原先生なら、大丈夫。次こそはいけますよ」

「ああ」


 美麗が元気いっぱいにうなずくのを見るなり、凪はそそくさと帰りの支度を始めた。


「それでは竹原先生、失礼します」


 凪はペコリと頭を下げ、その場をあとにしようとする――のだが。

 美麗の手、それが凪の腕をつかんだ。


「待て」

「なんでしょう……?」


 凪は美麗の険しい顔を、上目遣いで見る。


 険しさに満ちた顔から一転、美麗はニヤリと笑った。


「ここまで付き合ってくれたお礼に、だ。お前に渡したい物がある」

「へえ、渡したい物ですか」

「これなんだが……どうだろう」


 そう言いながら、美麗がトートバッグから取り出したのは、一冊の本だった。


「こ、これは」

「見ての通り、ダジャレが上手くなる本だ。あたしの愛用書だが、読み尽くしたんで、お前にくれてやる」

「……ありがとうございます」

「こちらこそ感謝だ。今日はご苦労だったな」

「いえいえ。先生こそ、お疲れ様です」

「ああ」


 会計後、凪と美麗は冷房の効いた店内から太陽ぎらつく外に出るなり、二人揃って「暑い」とうんざりつぶやいた。


「分かっていると思うが、水分補給は怠らずにしておけよ。じゃなきゃ、もしかしなくても脱水症状になるからな」

「おっしゃるとおりで」


 凪は空に手をかざしながら、夏の太陽を恨めしく薄目でにらんでいたが、それは次第にニコニコの笑みに変わった。


「なんだ、遠山。何をそんなに喜んで笑っている」


 不思議そうに美麗が凪に聞いてくる。

 だって、と凪は言いながら、美麗のほうを振り返った。


「いよいよ夏休みが始まるんだ、って思ったら……喜ばずにはいられないですって」

「そうか。それはもっともだな」

「もちろん、夏の同好会合宿も楽しみですよ。

 ……まあ、合宿先が謎のペンションなのは、少々不安ですけどね」

「大いに楽しめ。存分に楽しめ。それがお前たちの……子どもたちに与えられた使命だ」

「はいっ」


 確かにお見合い大作戦は失敗に終わったが、夏はまだまだ終わらなく、そして失敗もしないのだと、凪は心の底から強く強く思うのだった。

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