(9)ボールペン
雪が今年初めて、忘れていたかのように降り出していた。禿宮はようやく出づらいベッドを抜け出すと、サッシ窓に映る雪景色を見ながら『チェッ! 今朝は降るなよっ!』と、思わなくてもいいのに思った。^^ というのも、この日はテニス同好会の幹事としての書類づくりがあり、郵送する必要があるからだった。PC[パソコン]で入力・印刷する前に、まずは手書きの書類の間違いをチェックしておく必要があった。
朝食を軽く済ませる前に…と、禿宮は書類に目を通し、ボールペンをカチッ! と押した。いつもなら、そのままスッと芯が出てスラスラと書けるのである。ところが、その日に限って芯の出が悪く、なかなか出ない。ようやく出たが、戻そうとカチッ! と押しても、今度は戻らない。禿宮は少し意固地になりだした。何が何でもいつものようにっ! という気分が漲らなくてもいいのに禿宮の心に漲り、顔を火照らせ始めた。
『よしっ! いいだろう…』
何がいいのか分からないが、禿宮は小声でそう嘯いた。とはいえ、内心では少し疲れる自分を感じ始める禿宮だった。
以前、能面を習ったときに使った彫刻刀があった。禿宮はその中の一本を取り出すと、ボールペンの芯が出る先孔を削り始めた。ところが、孔がいびつになり、格好よくない。もう少しっ! と、ふたたび、ケースから芯を取り出したまではよかった。出したまではよかったが、芯についているバネがどこかへ飛んでしまった。たかだかバネとはいえ、そのバネがないと、芯はカチッ! と元の位置へ戻らない。禿宮は焦りに焦り、疲れることになった。軽い軽食も、このままでは夢のまた夢・・となってしまう。まあいい、食べてからにするか…と、少しもよくないのに作業を中断し、軽い朝食が待つキッチンへと向かった。ボールペンが、『チェッ! 放ったままかよっ!』と切れぎみに怒っていた。^^
疲れるまでやるか、疲れてもやってしまうか・・の二択だが、疲れてもボールペンには怒られず、早めに笑って欲しいものだ。^^
完




