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いきなりの奇襲



「くぅッッッ」

ガボゼの柱に縋りながら背後の子供が崩れ落ちる。

よく見ると肩から左腕に大きく切り裂かれ芝生を朱に染めている。


―――――その他にも気配が3つ


ぁあ、これは多分、いや確実に面倒な事に巻き込まれてる。この子供は恐らく後ろから迫る3つの気配の主に襲われ逃げて、此処に来た。3つの気配の主はあと10秒程あればここにたどり着く、その時一緒にいるあたしを見たら・・・確実に殺りにくるよね。


そこまでものの3秒ほどで思考すると、一度刀を鞘に納める。

立ち上がり、両足、両腕に魔力を集め下級の身体強化をかけ振り返る。

無属性魔法を習い始めたばかりで全身の強化はまだできない・・・というか13歳の体ではまだ対応しきれないといったほうがいいかな。

体がこれでどこまで剣術スキルについていけるのか不安だが、そんな事言ってる場合でもない。

あたしの人生がここで終わるか終わらないかの瀬戸際なのだ。

ジョージは来客の方に行ってて、ここには暫く来れない。


殺られる前に殺るしかない

奪われたくなければ・・・奪うしかない


子供の後ろまで足を進めると立ち止まり構える。


チャッ

左手の親指で鞘から少し剣を外し右手で柄を握る。飾り紐と一緒に着けた黒曜石のクロスが揺れる。殺気が近づいてくる。到達まであと3秒――――


――――3


―――2


―1


左足に力を込めて地面を蹴る。目の前には黒の外套を被った刺客が3人、暗器持ちが2人、剣士が1人―――初手は居合、3人は荷が重いので確実に初手で1人潰したい。瞬間的に刀を思いっきり振り抜く。


「・・チッ」


―――浅い

スピードが足りず間一髪で後ろに退かれ致命傷を避けられた。あたしの体がスキルについていけて無いこともあるだろうが、確実に虚をついたのにギリギリで避けられた。

人の動きにしては反応が早すぎる。・・・まさか獣人?


血に染まる頬に顔を歪め、右から迫る暗器を刀で上にはじき飛ばす。致命傷は避けられたが暫くは動けないはず。一度後ろに飛び上がり残り2人から距離をとる。


「貴様何者だ!」

剣士が怒鳴り声をあげる。


「貴様とは失礼な・・・私はただのか弱き令嬢です。貴方たちの方が無礼でしょう?いきなり現れ女性に刃をむけているのですから。」

刀を構えたまま殺気を込めて、淑女として優雅に微笑んであげた。



「くそッッ」

こちらに向かってくる剣士。


本当はこれ使いたくないのだけど・・・。中級の身体強化を両手、両足にかける。筋肉が悲鳴を上げ軋む音が聞こえる。


ヒュッ


一瞬で剣士の懐まで距離を詰め、刀の柄で顎を力の限り打ち抜いた。柄の飾り紐が切れクロスが宙を舞う。剣士はその場に崩れ落ち、残りはあと1人・・・


体を捻りながら残る1人に目を向けたその時、背筋に冷たい物が流れるのを感じた。迫りくる手があたしの顔に影を作り首へ、首へと迫るその光景が・・・

あたしのずっと奥にしまった・・・恐怖を引きずり出す。


心拍数が上がり、呼吸の回数が増える・・・芯まで響く鼓動音・・・増えすぎた呼吸で息が苦しい。


――――どんどん恐怖に埋め尽くされていく脳内。

体はガタガタと震え、目の瞳孔は開き、頬を暖かいものが伝う。

ただ迫る手を眺め、意識が引っ張られていくのをただ感じる事しかできない。




――――――――――――――――――――――


生暖かい風


『俺の物にならないなら、いっそ・・・・・』


優しく這う手は首元へ


『傷つけてあげる』


組み敷かれ痛む腕

背中に感じる土の感触、血の匂い、頬を伝う水滴


穢しながら、ゆっくりと酸素を奪う

口元を緩めた、獣のような冷たい目

とても綺麗な満月を背負って


『そうしたら・・・俺の事一生忘れられないでしょ?』


低く楽しそうな声で

悪魔のように笑ってる




ぁァぁあ"あああ"あああああああぁ



何かが壊れた音がした



誰か



助けて



―――――――――――――――――――――――


バキバキバキバキ


冷たい風と、大きな音に意識が現実に戻された。

冷たい・・・氷?

残り1人があたしに触れる寸前、腕ごと半身が足元から現れた氷に包まれていた。


その場に崩れ落ちるあたしは地面にたたきつけられる痛みを覚悟し、朦朧とした意識の中目の前の氷を眺めていた。



ぇ?あれ?痛みが・・・来ない?


冷たい冷気とともに背中に暖かい感触、ふんわりと懐かしい花の香りと血の匂いがした。



「いっっぅぅ・・・ちょっ!!ちゃんと、ゆっくり息してッ!」

上からする幼い苦痛の声。

薄れゆく意識の中・・・とても深く蒼い綺麗な2つ瞳が見えた気がした。


「大丈夫、大丈夫だから」と暖かいものに包まれ


そして意識を手放した・・・。





◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


瞼を開けると見慣れた天井。柔らかな布の感触。

「旦那様!アンリ様が目覚められました!」

「アンリ!!」

「アンリぃぃ~!!」

「お嬢様!!!」


覗き込む心配そうな4つの顔。キャシーは瞳を潤ませ、お父様は眉間に力をいれて口をきつく結び、お母様は涙を浮かべ、ジョージはいつもの無表情から想像できない程安堵の表情を浮かべている。

体を起こそうとすると両手、両足に痛みがはしりふらつく。


「お嬢様動かないでください!中級の身体強化の影響で筋肉がかなり痛んでいますので、しばらく体は動かさないでください!」

ジョージが慌てたように背中を支えて起こしてくれた。


「ぇっと・・・あたし、3人と戦って・・・怪我してた・・一緒にいた子は?」


確か最後の1人に目を向けて、首に手が迫って、過去がフラッシュバックして・・・。

優し気な深い蒼と金木犀の香りと血の匂い・・・。


「大丈夫。刺客は拘束し、軍に引渡した。あの子は・・・来客の連れでね。諸々の事情があって素性は明かせないが無事に保護して今はもう帰ったよ。」


そっか・・・

あの子は無事。よかった。ホッと息をつくとお父様があたしの頭を撫でながら続ける。


「ジョージが駆け付け、刺客を拘束した時にはアンリの意識はない状態でね。本当に心配した・・・。頼むから無茶はしないでおくれ・・・。」

お父様の声はかすれ、喉から絞り出すように吐き出された言葉に胸の奥がチクりと痛む。


「旦那様、今回の事は来客に気を取られお嬢様の御傍を離れた私の責任です。お嬢様を責めないであげてください。」


「ジョージ。アンリを責めてなんていないし、君に責を問うなんて事もないよ。アンリは身を挺してあの子を守ったんだ、誇りに思うことはあっても責めるなんてことはないよ。ただね、自分の娘の心配くらいはさせておくれ。」

お父様はそう寂しそうに告げた。


「アンリぃ~ッ本当に心配じだんだがら“ぁぁ~」

お母様が泣き崩れ、キャシーは支えながら涙を流す。



4人の顔を見て、心配をかけて申し訳ない気持ちと、心配された事に嬉しく思う気持ち。

寄り添いたいのに、寄り添うのが怖い。

相反する気持ちがせめぎ合う中・・・


この人達の傍にいれた事の幸福を感じ口元が緩むのが止められない・・・。

あたしは此処に・・・いて・・・生きていていいんだ、そう思ってもいいのだろうか。


「・・・ごめんなさい。」


そう伝えるのが精一杯だった。


あの子は・・・なんなんだろう

深く蒼い瞳が瞼の裏に焼き付いたまま離れない。小さな体に白い髪、少し高い声が、酷く胸をざわつかせる。


刺客に狙われるなんていったいどんな人物なのだろうか。左腕の怪我はかなりひどいものだったが、大丈夫だろうか?あの氷はあの子が出したものなのだろうか?



名も知らない人物にまた会いたいような、

よく分からない感情に戸惑いながら窓の外を眺めると、フッとある事に気がついた。


「あっ、瞳の色変えるの忘れてた・・・」


小さく呟いたアンリの声は4人に届くことはなく消えていった。

ここまでお読み頂きありがとうございます(^・ェ・^)

拙い文書ですが今後もお読み頂けたら嬉しです!


次話は外套の子供目線となる予定です!

更新遅めですが今後ともよろしくお願いします(´(ェ)`)

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