寒村の決戦
西方共和国の兵力を寒村に引き付けておく事は、エルザス帝国にも有益であったので、リサもシエルも太っ腹に邪神教徒の移動呪文で寒村に移動した。
兵士達も、ついでに移動させられるが、ゴーレムは移動出来ない・・・。
「我々だけで、西方共和国の精鋭部隊と、どう戦えば良いのですか?」
キートンの部下もこのリサの作戦に不安げだったがリサは自信たっぷりだ。
リサが派遣してきたエルザス最強の猛将の一人アミアスが3千の兵を指揮して、西方共和国の軍団と戦う準備をするがこの勝負は魔法にかかっている。
泥濘の魔法でアポロン1の進撃を阻み、ファリの魔法で片付けるだけだ。
ファリでも倒せなかったら、大人しく降伏するしかないだろう。
「ディールギス0を20機寒村に動員している。戦力的には互角の筈だ」
南部西の街に駐屯している西方の軍勢も、明日には滅ぼす予定である。
「ファーリ殿。泥濘の魔法は使えるのだな?使えないなら教えるが」
大丈夫だと思うが、この魔法があれば蓮根作りが可能になる。
不毛の地を開墾するのに、考えた魔法らしいがな。
戦争の役に立つとは思わなかったし、出来れば使いたくないが。
「ご主人様。リサ姫とは仲良くしてくれない?」
戦争が終わるまでは仲良くするしかないだろうが、その間に誤解を解いて、仲良く出来る様に、キートンとリサを説得するべきだろう。
全てはこの2人の仲の悪さが原因で起こった反乱事件だ。
「その前に目の前のアポロン1を全滅させないとな」
9月1日に寒村にアポロン5機と兵3万がやって来ていた。
「これだけ準備が出来ていれば、アポロン1など怖くない。ファーリは出来るだけアポロン1に近付き、泥濘の魔法をかけろ」
それですべては終わる。
陸戦用ゴーレムなど泥濘に引きずり込めば少しも怖くないぞ。
「では言って来るわ。ご主人様。ご褒美のハグは忘れないで」
このドラゴン本当にキートンが好きだよな。
「では馬は借りるわ。ドラゴンの姿で近付いたら撃ち落されるよ」
この馬は競馬場のオーナーのご好意で献上された2万ディルスの馬らしい。
「魔法を警戒して近付いて来ないようだけど、そっちが来ないならこちらが攻撃を仕掛けさせてもらう。ご主人様とエルザス帝国に栄光あれ」
ファーリが馬を走らせて、敵の陣地に近付くと、陣地の門は開いた。
どうやら和平の使者と勘違いしたようだ。
それならそれで透明化させた部下20名で暴れまわるだけである。
万一に備えて、敵陣に部下を潜り込ませておいて良かった。
「大変です。原因不明の家事で糧食が焼かれました」
「魔法燃料の倉庫で大爆発が起こっています・・・」
犯行後は、再び透明化すれば絶対にばれない完全犯罪だが、犯人の予想はつくので一応警戒はさせておくが、もはや手遅れである。
「陣地が火の海です。兵の士気もさっぱりです。撤退しましょう」
「あの使者の小娘は、我々を油断させる為の囮だったのか・・・」
どうやら泥濘の魔法使う必要も無かったか?
パイロットらしき男達もゴーレム捨てて逃げ出したし。
「今だ。ゴーレム隊を突撃させろ。ファーリは魔法を使え」
ファーリは、敵ゴーレムの倉庫に、魔法をかけて泥に沈めてしまった。
かろうじてゴーレムで応戦しようとした敵兵もこれで降伏を余儀なくされる。
「お願いです。降伏を認めてください・・・」
「貴女も人の親でしょう?」
私には娘はいないが、言っている事は分かるので、降伏を認めてやった。
「認めよう。降伏すれば本領は保証する」
負けた国の将兵の土地を没収する事は、たまに行われる。
「やったぞ~。エルザス帝国を甘く見るなよ」
「こんな奴身包みはいで追放してしまおうぜ~」
キートン派主力軍2万人は、逃げる兵を追撃して3つの村を併呑した。
「おのれ~。この前見逃してやった恩を忘れて反抗するとは・・・」
仕方ないじゃないじゃないか。
俺らリサ姫の部下なんだから・・・。
「キートン様。上手くいきましたね。私の作戦の方が上手くいった」
放火作戦はエルシリアの配下が行ったようだ。
「貴重な物資を焼かないでくれると嬉しかったのですがね」
補給担当のルーンがエルシリアに愚痴る。
民の血と汗の結晶たる補給物資を、焼くなど民が聞いたら暴動が起こる。
「仕方ないでしょう。まともに戦ったら、我が軍にも多大な犠牲が出ましたし、アポロン1に勝てるかどうかも分かりませんでした」
大勝利になったのだから、よいではないか。
細かい事にこだわると、長生きは出来ない事は明白である。
イナゴ村の税収15万ディルスと、寄付金40万ディルスで、気を良くしていたキートンは、降伏兵に豚肉を振舞った。
一流の料理人たるキートンには、料理で敵を買収する作戦が使えるのだ。
「噂通りの名人芸ですねぇ」
本当に最初の頃は、料理下手だったのですか?
豚肉を頬張りながら、降伏兵がキートン軍の将兵に聞いてきた。
「ああ。俺は昔のキートン様の料理を食べた事があるが、壮絶に不味かったな。その時けなした怨みから、滅多に部下には料理を作ってくれない」
だから今日は楽しみだったんだよな。
久しぶりにキートン様の料理が食べられるんだからな。
「それでここまでになれるなら、俺も料理人目指してみようかな」
降伏兵が、今後の夢を語るが、キートン兵は黙って聞いてやる。
「努力で出来ない事なんて、寿命を延ばす事位なものだ」
キートンは幽閉されていた時に、暇潰しに料理を習ったらしいぞ。
特に鶏料理が美味いんだよな。
今回は作ってくれないが、キートン様の鶏料理をもう一度食べたい。
「今回は特別だぞ。部下を差別する訳にも以下ないからな」
今回ファーリは作る方には参加せずに、キートンの料理を食べている。
余り食べ過ぎると、小食に戻した時にキツイので、今回は控えめだ。
「あんた本当に、邪悪な黒龍なんですか?」
ファーリの人畜無害ぶりが信じられない降伏兵が本人に尋ねた。
「ぼわ」
ブレスを吐いて返事の代わりとする。
降伏兵は納得して、大人しく引き下がった。
エルザス兵の任務は、魔法が解けて硬い土の塊になった大地から、アポロン1を掘り出す事である。
豚祭には参加させてもらえなかった。
「俺達なんで、こんな重労働に明け暮れてるんでしょうね?」
愚痴ると作業が辛くなる一方だ。
「愚痴るな。西方に勝利するまでは、報酬は欲しがらない」
キートン派には楽しく豚祭をやらせておけばいいさ。
我々は計画通りに、キートン様の後ろから行軍して、手柄をいただく。
キートン様の武勲がこれでいっそう高まるな。
空気を読まない兵達の戯言がリサの猜疑心を微妙に刺激した。
だが、キートンを飼いならすと決めたのだ。
キートンを怒らせない様にしなくてはいけない。
「そなたには後で褒美を与えよう。領地の他なら何を望んでも良いぞ」
既に西方をやると約束している。
それ以上の加増などありえない話だ。
「なら金貨を100万枚ください」
ぞくっぽいキートンの要求にリサは少し安心したようだ。
この男は、金にしか興味のない下らぬ男だと思ったのだ。
「そんなものでよければ喜んでやろう。明日中にイナゴ村に送らせる」
9月3日に、この約束は守られて、キートンの資産は230万ディルスを超える事になったが、キートンは30万ディルスで屋敷を造らせる事にした。
リサはこのキートンの態度に、多少油断したようだ。
リサは屋敷に自分の部屋を造る様にキートンに命令しておく。
「分かりました。リサ姫の屋敷を造らせて頂きます」
ファーリは約束通りキートンにハグすると、豚祭の最中にもかかわらず、したたかに酔い、眠ってしまっていた。
「ほう。ドラゴンでも酔うのだな」
リサは一瞬、眠るファーリを討ち取る衝動に駆られたが、そんな事をすればキートン軍に我が軍は殲滅させられる事は間違えない。
かろうじて衝動を押さえ込んだ。
「リサ姫。ファーリはああ見えて警戒は怠らないぞ。下手にちょっかいを出して、何度ファーリに蹴られた事やら・・・」
キートンが己の武勇伝を語りだし、リサをドン引きさせた。
高貴そうなこの男でも、普通の男と同じようなセクハラ行為を行うのか?
「そう言うがな。あれだけ迫られたら、そっち関係もOKなのかと普通思うぜ。それにファーリは120歳越えだから、ロリじゃない」
「・・・」
リサは安心して、酒を一杯口に含んだ。
これだけでしたたかに酔う。
「では私は別室で休ませてもらう」
キートンは、部下にリサを寝室に案内させて、自分は料理を続けた。
リサは泥酔し、完全に熟睡している。
「キートン様。3つの村でも税金は無税にしますか?」
「勿論だ」
キートンが3つの村の処遇について、唐突にエルシリアに指示を出した。
エルシリアは数名の部下を引き連れて、命令遂行に村へ向かう。
村人はこの命令を聞くと大喜びしたらしいが、豚祭に熱中していたキートンには、やや関係のない話であった。
キートンは一生懸命豚肉を部下に振舞っている。
「キートン様。命令を伝えてきました」
エルシリアは大喜びする村民からの賄賂を20ディルス渡した。
この役得があるから、領主は辞められない。
黄金色の菓子なども、良く貰っている。
やがて宴会は兵士すべてが、酒に酔いぶっ倒れた所で終了した。
キートンの料理は折り紙つきで美味い。
「さて。俺も食おうか・・・」
数時間も汗水たらしながら、豚肉を焼き続ければ腹も減る。
エルシリア。
風呂を沸かしといてくれ。
久しぶりに風呂に入りたいな。
「分かりました」
エルシリアが風呂を沸かしにいくと、キートンはファーリを起こした。
「エルシリアと風呂を沸かして来い」
「え~?」
ファーリは不満そうだが、ファーリの機嫌まで気にしてられなかった。
早速風呂を沸かして、自分達が最初に入ってから、キートンに報告する。
「風呂が沸きました。いいお湯でした」
キートンはさっさと着替えを持つと、風呂に入り汗を流した。
9月はもう涼しく感じる位である。
キートンの入浴中に、ファーリが焼いた豚肉をキートンは頬張った。
最近料理は自分で作ることが多うが、上げ膳据え膳が一番いいな。
9月3日の勝利の宴は、取り合えず終了した。
泥濘作戦(仮名)があれば陸戦用ゴーレムは絶対陣地に近寄れません。




