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第1話 ちいさな出会い

春の森を歩いていたユイは、

草むらから聞こえた小さな音で足を止めた。かさっ。

「……だれか、いるの?」

返事はない。

恐る恐る覗き込むと

——そこにいたのは、

長いたれ耳をした小さな女の子だった。

薄ピンク色の柔らかな髪。

大きな琥珀色の瞳。

身体に似合わないほど長い、うさぎの耳。

そして、ふわふわの丸い尻尾。

地面にちょこんと座り、

じっとこちらを見上げている。

「……かわいい」気づいたら、口に出していた。

女の子は瞬きをして、少しだけ身体を後ろに引いた。

「あ……ごめんね」

ユイはすぐにその場にしゃがみ、これ以上近づかないようにした。

「怖がらせちゃったね。もう近づかないかないから」

できるだけ優しく笑って見せる。

「ここにいるから、大丈夫だよ」

女の子は答えなかった。

でも、ユイから目を離さない。

怖いのに、少しだけ興味があるような目をしていた。

二人のあいだを、春の風だけが通り過ぎる。やがて、女の子が自分から一歩、前に出た。ぺた。

そこで止まり、またユイを見る。

ユイは動かない。

ぺた。

ぺた。

少しずつ、本当に少しずつ、距離を縮めてくる。

とうとう手を伸ばせば届くところまで来たとき、ユイは地面に手を置いた。

「おいで」

女の子はユイの顔を見て、差し出した手を見て——

きゅっ。

小さな手が、ユイの人差し指を握った。

その瞬間、胸元の青いペンダントが淡く光る。

「ペンダントが……?」

優しい光が二人を包んだかと思うと、次の瞬間——くぅ~~~~。

盛大なお腹の音が森に響いた。

女の子は固まり、両手がお腹を押さえる。

長い耳がしゅんと下がり、頬がほんのり赤くなった。

恥ずかしそうに、チラリとユイを見る。

「……ぅ」

「お腹、すいてたんだね」

ユイは両腕を広げた。

「うちに、くる?」

女の子は少し迷ったあと、小さな身体でユイの胸へ飛び込んできた。

むぎゅっ。

温かくて、ふわふわで、驚くほど軽い。

それなのに、服をつかむ小さな手だけは強かった。

「……そっか」ユイは長い耳をそっと撫でる。

「じゃあ、一緒に帰ろっか」

「……ぅ」

小さな返事が聞こえた。

夕暮れの道を、ユイは女の子を抱いて歩いた。

腕の中では、長い耳がふわりと垂れ、小さな寝息が規則正しく聞こえている。

指を握った手は、最後まで離さなかった。

胸元の青いペンダントは、ほんの少しだけ光っていた。

このときのユイは、まだ知らない。

今日出会ったこの子のことも、ペンダントが光った意味も。

そして、このちいさな出会いが、大きな物語の始まりになることも。



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