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徹夜で準備

 翌朝、ギルドは慌ただしくなっていた。


 壁一面には新しい張り紙がぎっしりと貼られており、「スタッフ募集」「冒険者有期雇用」「お手伝いクエスト」など、目新しい告知が次々と目に飛び込んでくる。


 ギルド内の冒険者たちは、派遣要請の話を聞き、ざわめいていた。


「これって、今までのクエストと何か違うのか?」


「有期雇用って……一体何をさせられるんだ?」


「サンセットへの派遣か……。あそこは今、魔物が多いって聞くしな。」


 冒険者たちはそれぞれの疑念や不安を口にしながらも、張り紙をじっくりと見つめていた。中には友人同士で相談する者もいた。


「なあ、どうする?サンセットの派遣って結構危険じゃないか?」


「でも、報酬は悪くなさそうだし、何より新しい経験ができるかもしれない。」


 一方で、ギルドのスタッフたちは忙しく動き回り、新しい施策を冒険者たちに説明していた。あるスタッフは、受付で並んでいる冒険者に向かって声をかけた。


「皆さん、こちらの新しいクエストや有期雇用についての詳細は、カウンターでお尋ねください。安全確保のための対策も整えていますので、ぜひご検討ください。」


 別のスタッフは、壁に貼られたポスターの前で立ち止まり、冒険者たちに説明をしていた。


「今回の派遣要請では、現地でのフォロー体制も強化しています。治療スタッフや資材管理スタッフも一緒に行きますので、安心してクエストに参加してください。」


 冒険者たちにとって、ダンジョン攻略は非常に魅力的だった。サンセット行きのクエストよりも、ダンジョンでの冒険に心惹かれる者が多かった。


「サンセット行きって言われても、ダンジョンの方がずっと楽しいよな。」


「そうだよ。ダンジョンには未知の宝物やエンチャント武器があるし、一攫千金のチャンスが転がってる。」


「サンセットでのクエストなんて、ただの雑用に思えるし……。」


 冒険者たちは張り紙を見つめながら、そんなことを話し合っていた。


 しかし、一部の冒険者はその言葉に反論した。


「いや、サンセット行きも悪くないと思うぞ。確かにダンジョンは魅力的だけど、サンセットのクエストは安定した報酬が約束されてる。しかも、ギルドからのフォローもあるし、安全面ではこっちの方が安心だ。」


「でも、それじゃあ冒険者のロマンがないだろ?」


「それはそうだけど……。」


 ギルドスタッフは、そんな冒険者たちの意見を聞きながら、なんとかサンセット行きのクエストを魅力的に伝えようと努力していた。


「確かにダンジョン攻略は魅力的ですが、サンセット行きのクエストには違った魅力があります。安定した報酬だけでなく、新たな仲間との出会いや、未知の土地での冒険が待っています。しかも、今回の派遣要請は特別なキャンペーンが付いており、紹介制度や特典も豊富です。」


 スタッフの説明を聞きながらも、冒険者たちはなおも悩んでいた。


「どうする?ダンジョンに戻るか、それともサンセットに行くか……。」


「うーん、俺はダンジョンがいいけど、サンセットも試してみる価値はあるかもな。」


 冒険者たちはそれぞれの選択を迫られながら、ギルドの掲示板の前で足を止めていた。エリシアとガレンの戦略が功を奏するかどうかは、冒険者たちの決断次第だった。


 ギルドの事務室では、職員たちが一心不乱に業務マニュアルや引き継ぎ資料の作成に取り組んでいた。部屋中に散らばる書類や資料、そして職員たちの真剣な表情がその緊張感を物語っていた。


「これ、次のセクションのマニュアルです。確認してください。」


「了解。次は新しいスタッフの研修資料をまとめます。」


 ガレンも上着を脱ぎ、袖をまくり上げて陣頭指揮を執っていた。


「皆、集中してくれ。市議会からもらった猶予期間はわずか数日だ。ここで失敗は許されないぞ。」


「ガレンさん、こちらの引き継ぎ資料、確認お願いします。」


「うむ、分かった。すぐに見る。」


 ガレンは書類を受け取り、目を通す。内容に目を走らせながら、細かい修正点を指示していく。


「ここはもう少し具体的な指示を入れてくれ。新人が混乱しないように。」


「了解しました!」


 職員たちはガレンの指示に従い、迅速に作業を進めていた。夜が更けても、誰一人として手を休めることなく、徹夜も辞さない覚悟で取り組んでいた。


「コーヒーを持ってきました。皆さん、少し休んでください。」


「ありがとう。でも、まだまだやることが山積みだ。」


 ガレンも疲労が見えるが、その眼差しには強い決意が宿っていた。


 ギルドの事務室で作業が進む中、ふと一人の職員がガレンに質問を投げかけた。


「ガレンさん、一つ気になることがあります。市議会からの要求は一ヶ月以上の任務とされていますが、ギルドの告知では二ヶ月と記載されています。これはどういうことなのでしょうか?」


 ガレンは一瞬手を止め、職員の方を見て微笑んだ。


「それが今回の取引の秘策だ。」


 職員たちは顔を見合わせたが、ガレンはそれ以上何も言わず、再び作業に戻った。


 職員はそれ以上追及せず、作業に集中することにした。ガレンの言葉には何か深い意味があるように感じられたが、今はただ彼の指示に従うしかなかった。


 ガレンの目には鋭い光が宿っていた。彼の頭の中には、今回の取引がもたらす大きな利益が見えていたのかもしれない。


 ——一方その頃。


 ギルドが目まぐるしく忙しい中、エリシアは自分のオフィスで次なる計画を練っていた。


 彼女のデスクには業務マニュアルや引き継ぎ資料の山が積まれていたが、その背後にはもっと大きな問題が控えていた。サンセットからどれだけの冒険者を引き抜けるかは未知数だった。


「いずれにせよ、宿泊所や簡易住居を急ピッチで用意する必要がありますわね…」


 エリシアは自分に言い聞かせるように呟き、地図や計画書を広げた。


 ギルド周辺の土地利用や資材の手配、さらには建築業者との交渉も必要だ。エリシアは素早くペンを走らせ、必要な手配をリストにまとめた。


「現状で用意できる宿泊所はどれだけあるのかしら…」


 彼女は頭を掻きながら考え込んだ。ギルド内のスペースを最大限に活用するためのアイデアも必要だ。各部屋の配置や改修案を検討しつつ、エリシアは次々と指示を出すためのメモを作成していった。


 宿場町のプロジェクトを進める上で、人員不足が浮き彫りになっていた。彼女の眉間には深い皺が刻まれていた。


「これ以上の遅れは許されませんわ…」


 エリシアは決断を下し、デスクから立ち上がった。ギルドのプロジェクトを成功させるためには、何としても人員を確保しなければならない。そのためには、秘密部隊の力が必要だ。


 エリシアはオフィスの鍵を取り、地下倉庫へと向かった。地下倉庫の奥には、普段はほとんど使われることのない部屋がある。そこが秘密部隊の集合場所だった。彼女は重い扉を開け、中に入った。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます」


 エリシアが低い声で言うと、部屋の中にいた数人が静かに集まった。


「今回は特別な任務をお願いします」


 エリシアは彼らの前に立ち、続けた。


「サンセットに潜り込み、ギルドの職員を勧誘して回ってください。私たちのプロジェクトには彼らの協力が不可欠です。どんな手段を使っても構いません、必ず成功させてください」


 部隊のリーダーが深く頷いた。


「了解しました。必ず任務を遂行します」


 エリシアは一瞬微笑み、その後真剣な表情に戻った。


「皆さんの力に期待しています。無事に戻ってきてください」


 部隊の一人がエリシアの指示に対して不安を抱いていた。部屋の中で一同が黙り込む中、その人物が口を開いた。


「我々がサンセットに行けば、誰がダンジョンの秘密を守るのですか?」


 その質問にエリシアは一瞬考え込み、やがてニヤリと笑って答えた。


「とっておきがいるのです。」


 部隊のリーダーが再び深く頷いた。


 部隊のメンバーは再び部屋を出て行き、エリシアは彼らの背中を見送りながら、彼女の計画が順調に進むことを願った。ギルドのプロジェクトが成功すれば、ダンジョンの秘密も守られ、彼女の地位もさらに確固たるものとなるだろう。


 エリシアは地下倉庫の奥の部屋で秘密部隊を送り出した後、セリスを呼び出した。


 静かな廊下を歩く足音が響く中、エリシアの表情は緊張感に包まれていた。


 エリシアはセリスを自分のオフィスに迎え入れ、重い空気の中で話を切り出した。


「セリス、二回目のサンセット派遣を」

「嫌ですわ」


 エリシアは穏やかな微笑みを浮かべ、説得を続けた。


「今回は冒険者のフラッグシップとして戦ってほしいのです。だからもう実力は隠さなくてもいいですわよ」


 セリスはため息をつきながら渋々とした態度を見せた。


「それなら、少しはやりがいがあるかもしれませんね。でも、正直に言えば、またサンセットに行くのは気が進みませんの」


 エリシアはセリスの肩に手を置き、真剣な眼差しで見つめた。


「わかっています。でも、冒険者達の士気を高め、王国との関係を維持するためには、その力が欠かせません」


 セリスは少し考え込んだ後、やがて頷いた。


「仕方ないですね。やってみます。でも、今度はもっといい条件を用意してください」


 エリシアは笑顔を見せた。


「もちろんです。君の努力に見合う報酬を用意しますわ。それに、あなたは第二のエリシアとなるのです」


 セリスの目が輝いた。


「行って参りますわ〜!」


 セリスは急にやる気を出し、再びサンセットへと向かう準備を始めることになった。


 その次に、エリシアはシェイドを密かに地下倉庫の奥の部屋に呼び出した。


 部屋の中は薄暗く、重厚な扉が静かに閉ざされた。エリシアはシェイドに向き合い、低い声で話を切り出した。


「シェイド、今回は極秘の依頼がありますわ」


 シェイドは冷淡な目つきでエリシアを見つめ、静かに答えた。


「依頼だと?面白そうじゃないか……」


 エリシアは微笑みを浮かべながら、さらに詳しい内容を伝えた。


「もし誰かがダンジョンの秘密を探ろうとしたり、ダンジョンの最深部に辿り着こうとした者がいれば、始末してほしいのです」


 シェイドは無言でエリシアを見つめ、考え込むように顎を撫でた。エリシアはポケットから分厚い袋を取り出し、シェイドに差し出した。


「これは着手金です。私のポケットマネーからかなりの金額を用意しましたの」


 シェイドは袋を受け取り、中身を確認すると、薄笑いを浮かべた。


「……ふふ、金には興味がないんだ。ただ、お前たちの周りで起きることが面白いだけだ」


 エリシアはさらに話を続けた。


「私たちの計画が進むためには、ダンジョンの秘密が守られる必要があります。そのために、あなたの力が必要なのです」


 シェイドは袋をしまいながら、冷たく言い放った。


「わかった。俺を楽しませてくれれば、それでいい」


 エリシアは満足げに頷き、シェイドに背を向けた。


「よろしくお願いしますわ、シェイド」


 シェイドは暗闇の中で立ち上がり、部屋を後にした。その背中には、冷酷な暗殺者としての冷たい決意が漂っていた。


 ——そして猶予期間が終わる。


 ガレンとエリシアは市議会の議場に集まった。派遣人数の報告が始まり、緊張感が漂う中、エリシアが口を開いた。


「報告します。集まった冒険者の人数はこれだけです」


 エリシアは報告書を市議たちに手渡し、その中には派遣人数が詳細に記載されていた。しかし、人数はわずかに不足していた。


 市議たちは一瞬顔を曇らせたが、エリシアはすぐに続けた。


「ですが、セリスをもう一度派遣する手配を整えました。彼女の実力は皆さんもご存知の通りです。これで補っていただけると考えています」


 市議たちは顔を見合わせ、次第に笑顔を浮かべ始めた。


「なるほど、セリスがまた行くのか。それならば、王国側には上手く言っておこう」


 一人の市議が上機嫌に言い、その言葉に他の市議たちも賛同の声を上げた。


「確かに、彼女がいれば問題ないだろう」


「そうだな。派遣人数の不足も帳消しになる」


 ガレンは黙ってエリシアを見つめ、彼女の計画が順調に進んでいることに安堵の表情を浮かべた。エリシアもまた、市議たちの反応に満足し、心の中で微笑んだ。


「ありがとうございます。それでは、準備を進めさせていただきます」


 エリシアは市議たちに一礼し、ガレンと共に議場を後にした。二人は共にギルドの未来を見据えながら、次なる計画に向けて動き出した。


 ——翌日。


 業者からレンタルした馬車がギルドの前に並び、冒険者たちとギルドのスタッフたちが次々と乗り込んでいった。馬車の車輪が石畳を鳴らしながら進む音が響く中、街の人々が見送りに集まっていた。


「気をつけて行ってらっしゃい!」


「無事に帰ってくるんだぞ!」


 声援が飛び交う中、馬車は徐々に街を離れていった。冒険者たちはそれぞれの装備を整え、ギルドのスタッフたちは資料や物資を抱えていた。


「これで一安心だな」


 冒険者の一人が隣の仲間に話しかけた。


「まあな。でも、向こうでも色々と忙しくなるだろう」


 仲間が苦笑しながら答えた。


 街の外に出ると、風が少し冷たく感じられた。馬車の中ではそれぞれが目的地での活動について話し合っていた。


 その頃、手薄になったギルドのオフィスでは、ガレンがスタッフたちに指示を出していた。


「職員の募集を急ぎましょう。ギルドの業務が滞らないようにするために、早急に人員を確保する必要があります」


 ガレンの声にスタッフたちは真剣な表情で頷いた。


「わかりました、ガレン様。募集広告を出し、面接を迅速に進めます」


 スタッフの一人が力強く答えた。


「よろしく頼む。それと、引き継ぎ資料も今のうちに整理しておいてください。新しい職員がすぐに仕事に取り掛かれるように準備を整えましょう」


 ガレンが続けて指示を出すと、スタッフたちはすぐに動き出した。掲示板には募集広告が貼られ、面接のスケジュールが次々と決まっていった。


「我々には時間がありません。皆、精一杯頑張ってください」


 ガレンの激励にスタッフたちは一層奮起し、ギルド全体が再び活気に満ちていった。

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