サンセットでの手続き
王国の大臣執務室には、マルコスが積み上げられた手紙の山を前に座っていた。各地の冒険者ギルドからの返信が並べられ、彼は一通ずつ丁寧に目を通していた。
「まあまあの人数を派遣してくれてるな」
マルコスは満足げに頷きながら手紙を片付けた。次に手に取ったのは、宿場町の冒険者ギルドからの返信だった。
「……あの街かぁ」
手紙を開くと、そこには参加者数が記されていた。マルコスの眉が一瞬しかめられた。
「たった二名だけ?」
マルコスは手紙の内容を改めて読み直した。そこには、確かに二名の冒険者が派遣される旨が書かれていた。
「まったく、二名だけとは……」
マルコスはしばらく考え込み、その後に手紙を机に置いた。
「だが、数が少ないとはいえ、有能であることに期待するしかないか。宿場町のギルドも大変なのだろう」
マルコスは他の手紙と一緒に宿場町からの返信を整理し、次の手紙に手を伸ばした。
「少しでも役に立ってくれることを祈るしかないな」
彼はそう呟きながら、手紙を丁寧にまとめ始めた。
サンセット街の冒険者ギルドの会議室には、ギルドマスターと騎士団の代表者が集まっていた。部屋の中央に大きなテーブルがあり、その上には派遣された冒険者たちのリストと地図が広げられていた。
「まずは、各地から派遣された冒険者たちをどう取りまとめるかを話し合おう」
ギルドマスターがリストを指差しながら言った。騎士団の代表者は頷き、地図を見ながら話を進めた。
「サンセット街が中心となって、派遣された冒険者たちをここに集め、一旦取りまとめる。その後、彼らを各地に派遣して魔物の討伐や警備にあたらせるという計画だ」
ギルドマスターは地図を指しながら説明を続けた。
「まずは、派遣された冒険者たちをサンセット街に集め、彼らのスキルや経験を確認する必要がある。それによって、どの地域に派遣するかを決定しよう」
騎士団の代表者も意見を述べた。
「特に危険な地域には、経験豊富な冒険者を派遣する必要がある。若手や初心者は比較的安全な地域で訓練を兼ねた任務に就かせよう」
代表者はリストを確認しながら言った。
「他の地域からの派遣者も含めて、全員をここに集めるのには少し時間がかかるだろう。その間に、準備を整えておこう」
ギルドマスターは地図を畳みながら話をまとめた。
「そうだな。まずは冒険者たちが集まるための宿泊施設や食事の手配を行おう。彼らが快適に過ごせるようにすることも重要だ」
騎士団の代表者が立ち上がろうとしたとき、ギルドマスターがさらに続けた。
「忘れてはならないのは、こちらが無理を言って来てもらっているのだということだ。くれぐれも丁重に扱ってくれるよう頼む。彼らの協力がなければ、この任務は成功しない」
代表者は深く頷き、ギルドマスターに握手を求めた。
「その点は心配いりません。我々も全力を尽くします」
ギルドマスターも握手を返し、笑顔で答えた。
「そうだな。我々も全力を尽くそう」
二人は部屋を出て、それぞれの準備を進めるために動き出した。サンセット街の冒険者ギルドと騎士団は、派遣された冒険者たちを迎えるための準備を着々と進めていった。
——それからしばらくして。
セリスとミスティはサンセット行きの馬車から降り立った。
目の前に広がる大都市の景観に、二人は一瞬見惚れていた。
「ここがサンセット街ですのね…宿場町とは全く違いますわ」
セリスは感嘆の声を上げ、周囲を見渡した。
石造りの建物が立ち並び、活気あふれる市場や広場が広がっている。道行く人々も多く、街全体が活気に満ちていた。
ミスティも無言で周囲を見回し、セリスに同意するように頷いた。
二人は紹介状を手にしながら、冒険者ギルドを探し始めた。
「ギルドはどこにあるのかしら?紹介状を持って行かないといけませんわね」
セリスは紹介状を手にしながら、通りを歩き始めた。彼女は通りがかりの市民に道を尋ねる。
「すみません、冒険者ギルドはどちらですの?」
市民は親切に道を教えてくれ、二人はギルドの方向へと向かった。道中、セリスは再び感嘆の声を上げた。
「本当に素晴らしい街ですわ。こんな大きな街で、どんな冒険が待っているのか楽しみですわね、ミスティ」
ミスティは無言で微笑み、セリスに続いて歩いた。しばらくすると、大きな建物が見えてきた。冒険者ギルドの看板が掲げられている。
「ここがギルドですわね」
セリスは紹介状を握りしめ、建物の中へと足を踏み入れた。中は広々としており、多くの冒険者たちが行き交っていた。
ギルドの受付カウンターには、受付嬢が忙しそうに対応していた。
セリスはカウンターに近づき、紹介状を手渡した。
「私たちは宿場町から派遣されてきました。セリスとミスティですわ」
受付嬢は紹介状を受け取り、確認した後に微笑んだ。
「ようこそ、サンセット街の冒険者ギルドへ。お二人の到着をお待ちしていました。こちらで手続きを行いますので、少々お待ちください」
セリスとミスティは受付嬢の指示に従い、手続きを済ませた。周囲の冒険者たちが彼女たちに興味を示し、視線を向けていた。
「これからが本番ですわね、ミスティ」
セリスとミスティが手続きを終えると、ギルドの職員が近づいてきた。
「お二人とも、お手続きをありがとうございます。次に、簡単な面接がありますので、こちらにお越しください」
セリスは少し考え込み、あえて自分の実力を低く申告することに決めた。
彼女はミスティに軽く合図を送り、二人は職員に従って面接室へ向かった。
面接室に入ると、そこにはギルドマスターと数名の職員が待っていた。セリスはミスティと共に席に着いた。
「ようこそ、サンセット街の冒険者ギルドへ。まずは自己紹介をお願いします」
セリスは微笑みながら答えた。
「私はセリスですわ。こちらは私の相棒、ミスティですの。私たちはチームで行動していますわ」
ギルドマスターは頷き、続けて質問をした。
「なるほど。お二人はどのような経験をお持ちですか?」
セリスは一瞬考えた後、あえて控えめな答えを選んだ。
「私たちは宿場町のギルドで活動してきましたが、大きな冒険はそれほど経験していませんの。まだまだ修行中の身ですわ」
ギルドマスターは少し驚いた様子で質問を続けた。
「そうですか。ですが、宿場町から派遣されてきたということは、何かしらの実力があるはずです。具体的にどのような任務をこなしてきたのか教えていただけますか?」
セリスは微笑みながら答えた。
「主に小規模なモンスター討伐や、町の護衛任務などですわ。討伐といっても……リザード程度しかありませんの」
ギルドマスターは頷き、メモを取りながら続けた。
「なるほど。お二人はチームで行動しているとのことですが、どのように役割分担をしているのですか?」
セリスはミスティを見ながら答えた。
「私は主に剣を使った戦闘を担当していますわ。ミスティは投擲物やトリッキーな戦術で敵を翻弄するのが得意ですの」
ミスティは無言で頷き、自分の役割を示すように手を動かした。ギルドマスターは二人の協力体制に関心を持ち、さらに質問を続けた。
「ありがとうございます。それでは、サンセット街での活動にあたり、何か希望や要望があれば教えてください」
セリスは一瞬考え、控えめに答えた。
「特に大きな要望はありませんわ。ただ、できればチームとして一緒に行動させていただけると助かります」
ギルドマスターは頷き、メモを閉じた。
「——ところで」
ギルドマスターはセリスの持っている剣を指差しながら言った。
「その剣は何ですか?見たところ……かなりの業物に見えるが……」
セリスは一瞬戸惑ったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「この剣ですの?これは家宝ですわ」
彼女は微笑みながら答えた。
「先祖代々伝わる剣で、家族の一員として持ち歩いているだけですわ」
ギルドマスターはその説明に疑念を抱きつつも、強く追及することは避けた。
「なるほど。そういうことでしたか。了解しました。ただ、何か特別な事情があるように見えたので、気になっただけです」
セリスとミスティが面接室を後にした。
廊下を歩きながら、セリスは内心でヒヤヒヤしていた。
まさかギルドマスターが初対面でこのアイスソードの力を感じ取っているとは思っていなかったのだ。
彼女は一瞬心配そうな表情を浮かべたが、すぐにそれを隠し、ミスティに微笑みかけた。
「危なかったですわね、ミスティ。あのギルドマスター、本当に鋭いですわ」
ミスティは無言で頷きながら、セリスの言葉に同意した。
セリスは心の中で、自分の嘘が通じたことにほっとしながらも、今後はもっと慎重に行動しなければならないと自戒した。彼女はギルドマスターが何かを疑っているかもしれないことを忘れず、次の行動を計画し始めた。
セリスとミスティが面接室を後にして少し経った。
廊下を歩いていると、ギルドの職員が再び彼女たちに近づいてきた。
「セリスさん、ミスティさん、もう一つお知らせがあります。戦闘スキルのテストがありますので、こちらにお越しください」
「え?」
セリスは一瞬足を止め、焦りの色を隠せなかった。
戦闘スキルのテストがあるとは予想外だった。手加減しないと自分の実力がバレてしまう。
「ええと、戦闘スキルのテストですか?どのような内容ですの?」
職員はにこやかに答えた。
「はい、簡単な模擬戦闘を行っていただきます。お二人のスキルを確認するためのものですので、リラックスして臨んでください」
セリスは内心で焦りながらも、表面上は冷静さを保った。
「わ、分かりました。準備ができ次第、伺いますわ」
職員が去った後、セリスはミスティに顔を寄せ、小声で話しかけた。
「どうしましょう、ミスティ。手加減しないと私たちの実力がバレてしまいますわ」
ミスティは無言で頷きながら、セリスの心配を共有していた。二人は慎重に計画を立てながら、戦闘スキルのテストに臨む準備を始めた。
セリスとミスティは戦闘スキルのテスト会場に到着した。広い訓練場には、すでに試験官が待っていた。試験官は筋骨隆々で、見るからに強そうだった。
セリスは内心でため息をついた。
こんな相手、彼女にとっては雑魚同然だった。しかし、実力を隠すためには演技が必要だ。
試験官が大きな声で叫んだ。
「セリスさん、準備はいいか?始めるぞ!」
セリスはわざと震えた声で返事をした。
「ひえぇ〜、私は人と戦うの慣れてませんわ〜」
試験官が攻撃の構えを取ると、セリスはわざとらしく後ずさりし、逃げ惑うふりを始めた。彼女はあちこち走り回り、まるで本当に怖がっているかのように見せた。
試験官が攻撃を繰り出すたびに、セリスは素早く避け、時折軽く反撃するだけに留めた。
彼女は全力を出さず、わざと拙い動きを見せることで自分の実力を隠そうとしていた。
「ひえぇ〜、助けて〜!」
セリスの演技は完璧で、試験官も職員も彼女が本当に恐れていると思い込んでいた。
ミスティも冷静にセリスの演技を見守っていた。
最終的に、試験官は攻撃を止め、息を切らせながら言った。
「分かった、分かった。これ以上は必要ない。君の戦闘スキルは確認できた」
試験官はセリスの実力は大したことないと思いながらも、攻撃の避け方に違和感を覚えた。
セリスは息を整えながら、心の中でほっとした。彼女の演技は成功し、実力を隠し通すことができたが、試験官の目には違和感が残っていた。
セリスのテストが終わり、次はミスティの番になった。
ミスティは無言で頷き、試験官の前に立った。
「さあ、次はミスティさんだ。準備はいいか?」
ミスティは静かに頷き、手元のナイフを握り締めた。
試験官が攻撃の構えを取ると、ミスティは素早くナイフを投げた。しかし、ナイフはわざと狙いを外し、試験官の横をかすめて飛んでいった。
試験官は一瞬驚いたが、すぐに攻撃を繰り出した。
ミスティはわざと攻撃を避けるのが遅れ、試験官の木剣が体に当たった。ミスティは大げさに吹っ飛び、地面に転がった。
「——!」
彼女は痛みを装いながら、地面に倒れ込んだ。周囲の職員たちが心配そうに見守っていた。
試験官はミスティの動きを見て、彼女もまた大した実力ではないと思った。しかし、先ほどのセリスと同様、何かが引っかかる。
「大丈夫か?」
試験官が心配そうに尋ねた。ミスティは無言で立ち上がり、再びナイフを構えた。彼女は再度ナイフを投げたが、今度もわざと狙いを外し、試験官の周りを飛び交うだけだった。
「もういい。これで十分だ」
試験官は攻撃を止め、テストを終了させた。
ミスティは内心でほっとしながらも、表面上は痛みに耐えているふりを続けた。
戦闘スキルのテストが終わり、セリスとミスティはギルドの職員から指示を受けながら、残りの手続きを済ませた。
セリスは手加減したとはいえ、試験官に違和感を抱かれたことが気にかかっていたが、なんとかやり過ごすことができた。
夕方になり、ようやく全ての手続きが完了した。
「これで手続きは終わりです。お二人ともお疲れ様でした」
職員が笑顔で告げた。セリスとミスティは礼を言い、与えられた部屋に向かった。
部屋に入ると、セリスはベッドに腰を下ろし、深い息をついた。
「ふぅ、なんとかやり過ごせましたわね」
ミスティは無言で頷き、部屋の隅で荷物を整理し始めた。彼女の表情には疲労の色が見えたが、その目にはまだ鋭い光が宿っていた。
セリスは自分たちの作戦がうまくいったことに安堵しつつも、今後の任務に対する不安を感じていた。エリシアの指示通り、しばらくこの町での任務をこなさなければならない。
「今日はもう休みましょう。明日から本格的に任務に取り掛かりますわ」
ミスティは静かに頷き、セリスと共に夜の静けさの中で休息を取る準備を始めた。外の喧騒から離れ、二人だけの静かな時間が流れていった。




