49.完成
迎賓館のキッチンでは料理作りが佳境を迎えていた。
「お米が炊けました、フィリア様」
「わかったわ、桶に移してもらえるかしら」
米もきちんと炊けている。ほくほくの白米が桶に移されると、フィリアはゆっくりと木べらで米をかき混ぜ――調合酢をふりかけた。
「これでよし、と……!」
さらに白米と調合酢を混ぜていく。この工程も何度もやってきた。フィリアの身体にはすでに混ぜる動きが染み付いている。
「私は配膳の用意をいたします」
「お願いね。それが終わる頃には、準備もほぼ終わっているわ」
シェナが小皿をトレーの上に並べていく。小皿はどれも純白の陶器、高級品だ。とはいえフィリアの感性では食器の判別は苦手であり、ジウスの用意したものをそのまま使っているだけであったが。
マグロもサーモンも赤身と脂身を切り揃え、準備は万端である。イカもツブ貝も昆布出汁を少し吸わせ、味を整えた。
「あとは……スープね」
鍋には粗熱を取った昆布出汁が出来上がっていた。
フィリアはスプーンで混ぜながら、使わなかったマグロとサーモンの切り身を投下する。
「ちょっとだけにんにく、たまねぎ、白ワイン、醤油を……」
もう一度加熱しながら、味をみていく。もちろん切り身もだ。優しい、すっきりとした味わいのスープである。
「普通なら淡白すぎるとも思いますが、この寿司にはちょうど合いますね」
「デミグラスソースみたいに濃厚じゃないし、そこはバランスね。濃いスープだと風味が飛んでしまうわ」
「お嬢様は徹底されておりますね。お酒も調合したものを用意するとは思いませんでしたが……」
残ったひとつの箱には調合済みの酒のボトルが入っている。レモンとライムをわずかに効かせ、さらに微量のスパイスと数種類の酒を混ぜた白ワインだ。本来であれば邪道だが、寿司そのものに合う酒が他にないのでやむを得ない。
シェナが何かに気づいたようにはっとする。
「……お嬢様、まさか日頃お酒を混ぜて飲まれているのですか?」
「そ、そんなことはしていないわ」
実はしていた。フィリアは味が気に入らないと、なんでもほいほいと自分で調整する。
もちろん酒でさえ例外ではない。ちょっとスパイスやハーブなんかを足して、酒をまぜまぜしてみたら……という誘惑に錬金術師であるフィリアは逆らえないのだ。
「じぃ……」
「そんなことより、こちらももう終わりよ。運ぶ準備をしましょう!」
フィリアがさっと話題を切り替える。目の前には魚介類が切り揃えられ、桶には酢飯が入っている。
「さぁ、これで王子の元へ持っていきましょう……!」
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