48.天秤
迎賓館の乳白色の大広間では、優美な音楽が奏でられていた。演奏の切れ目に、ギラスが隣の席にいるジウスへと声をかける。
その瞳には演奏への賛美と品定めの色がありありと浮かんでいた。
「いや、実に素晴らしい。一流の国は一流の楽団を擁しているものだ」
「お褒めに預かり、光栄に存じます」
ジウスが如才なく応じる。ギラスは水以外には手をつけず、菓子類も下げさせていた。
「今回は色々と注文をつけて悪いことをした。貴国の要人が来訪される際は、私が存分にもてなしをしよう」
「ははは、どうかお気になさらず。今回のようなことも友好の証です」
「それを聞いて安心した。貴国とは距離があるゆえ疎遠であったが、もっと早くこうしているべきだった。そなたもそう思うであろう?」
ギラスが反対側に座るスレイン大公に声をかける。ジウスは微笑みを崩さなかったが、ギラスの魂胆は明白であった。
「まったくでございますな。しかしこのような言葉もあります。空虚だからこそ情けも募る、と」
「おお、それは我が国の詩人ブラニウスの一節ではないか。スレイン閣下は詩も嗜むのか?」
「ええ、このあと出てくる吟遊詩人は、私が懇意にしている者です。その者から色々と学びましてな」
「なるほど、広い見識をお持ちだ」
そこでギラスがまたジウスに顔を向ける。さっきから演奏が一段落するたびに、ギラスはこれを繰り返しているのだ。
(我らを天秤にかけている、ということか……)
しかしそれは逆に言えば、料理勝負についても公平で予断はないということ。その証拠に今朝迎賓館に来てから水以外は何も口にしていない。
ギラスと会話をしながら、ジウスは心を落ち着かせる。フィリアなら心配はないはずだ、と。
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