27.進展
「焼きおにぎりを食べ切ったあとで良かったね」
「そ、そうですね……」
「濡れてない? 大丈夫?」
「大丈夫、です……」
気遣ってくれるジウスに、フィリアに生返事しかできない。これまでにないほどジウスが近い。
(先生の上着、ああぅ……)
肩と髪に触れる婚約者の上着。ぽつりぽつりと雨粒が増えていき、さらにジウスが身体を寄せてくる。
でないと身体が濡れてしまうので仕方ないが、さらに密着度が上がる。ほんのちょっと腕を回せば、ジウスの身体に抱きつけそうなくらいに。
特に頭を寄せれば、ジウスの胸元にくっついてしまいそうだった。
(あ、ぁぁ……! 忘れろ、そんなことを考えちゃてはダメ……)
丘を回りながら、研究所への道を歩いていく。ジウスからは話しかけられるものの、フィリアからは話題を振ることができない。それどころではなかったのだ。
フィリアはなんだか頬が熱くなるのを自覚していた。早く研究所に戻らなくては……と、そこに傘を差したアルバーンが駆け寄ってくるのが見えた。
「あー、ここにおられましたか、いやはや雨が降るとは! 傘を持ってきましたよ!」
見るとその手にはちゃんと2本の傘を持っていた。
「助かった、ありがとう」
「あ、ありがとうございます……!」
ささっとジウスとフィリアはアルバーンから傘を受け取り、さっそく開く。これで密着する必要もなくなったわけだが――フィリアは無意識に残念に思った。
(……あれ? 私、どうして……)
自分の感情が最近、よく分からない。些細なことで動揺して、顔が熱くなってしまう。
今も別に、ジウスに上着を被せられたのが嫌というわけではなかった。ただ、どうしていいのか分からなくなるのだ。
傘を差して歩きながら、フィリアはこの感情をうまく言葉にできないのを痛感した。誰かに聞いてみるしかない。
(今度、シェナに聞いてみよう……)
手の甲を頬に当てる。身体の熱はもう去りつつある。どこか上の空になりながら、フィリアは傘を差して研究所に戻るのだった。
◇
2日後、魔剣製作者の報告のために、ジウスはガルフとの面会に向かった。
「……話が不必要に大きくならないよう、注意しないとな」
ジウスは無人の廊下で呟く。設計図も持ってきたので、問題はないはずだ。宰相府でエイドナ家が魔術品製作の許諾を持っていることも確認できた。
この許可は現在も有効であり、フィリアの魔剣製作に違法性は全くない。
……恐らく当主であるフィリアの父が知らないことだけが問題かもしれなかったが。
とはいえ、ガルフに掘り下げられても困る点はない。つらつらと問答をシミュレートしながら、ジウスはガルフの元に到着した。
軍務省の執務室にてあらましを報告すると、ガルフはのけぞって驚いた。
「まさか……っ! あのエイドナ嬢が? 錬金術師として、これほどの能力があったとは……!」
「ええ、私も確認いたしました。この設計図を見てもらえれば、わかると思います」
「信じられん、設計図も……」
ジウスが丸まった設計図を取り出し、ガルフへと手渡す。ガルフは設計図を手に取ったが、そのまま設計図を開きはしなかった。
「設計図……。まぁ、君の婚約者なら託すこともあるだろうが……」
ガルフは小さく言いながら、設計図を開こうとしては躊躇していた。やがてガルフは丸まった設計図を開くことなく、そのままジウスへと返却した。
「……見るのはやめておこう。わしも魔剣の愛好家として、設計図の重要性は理解している」
「よろしいのですか?」
「君の報告を信じよう――疑問点もおおむね解消した。エイドナ家からのモノであれば、仲介の商人も口は割るまい。注意を引きたくない、というのも真実であろう」
ガルフはそこで髭に触れた。
「しかし欲がないことだ。やろうと思えば、もっと金にも名誉にもなるだろうに」
「……錬金術の探求に邁進しておりますので」
欲がない、との評にジウスは同調しなかった。むしろ分かりづらいだけで、フィリアはかなり欲がある。錬金術の機材や東方料理――ただ、自分の興味がないものまで揃えたくはないだけなのだ。
「結構なことだ。ふむ……」
そこでガルフは軽く身を乗り出した。瞳に少し楽しそうな色が映っている。
「いずれ魔剣製作について、王宮職人に講義でもしてもらいところだな。王国の魔剣製作のレベルも底上げされよう」
「フィリアの研究が進めば、そのような機会もあるかと。今、彼女は試験に持ち込んだ稲の研究にかかりきりですので」
ジウスの言葉にガルフがにやりと笑う。
「よかろう。薬草園の機材について、特例で優先的な使用権を許可しようではないか」
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