26.小粒
ふたりで焼きおにぎりを食べる。
ただそれだけなのに、フィリアは妙にドキドキとしてしまう。それは多分、膝がジウスに当たりそうだからだ。気を緩めると身体がかなり接触事故を起こしてしまう。
だが、ジウスはそんなフィリアのことはお構いなしに、実に美味しそうに焼きおにぎりを食べていた。
「米は薬草園にいつもあるのかな?」
「え、ええ……そんな口振りでした。すでに炊いていたものだけ、焼きおにぎりにしましたが……」
「なるほど、じゃあ次に焼きおにぎりを食べたくなったらアルバーンに作らせようか」
「ふふっ……そうですね。レシピも教えましたし」
と、そこでフィリアがはっとする。アルバーンに作ってもらうのはいいが、自分もさらに色々な焼きおにぎりを作る予定だ。それもジウスに食べてもらい、感想を聞きたい。
「……私も作ります。まだ試していない色々なおにぎりがありますから」
「そんなにおにぎりは種類があるの?」
「まず焼いてないおにぎりもありますし、塩漬けしたサーモンや木の実をトッピングするのもメジャーらしいです。東方の貴族は、肉厚の貝や珍しい魚卵でおにぎりを彩るのだとか」
「へぇ、やっぱり東方の米に対する思い入れは違うね。我々のパンに対するこだわりに似ているよ」
ジウスが感心しながら焼きおにぎりを食べ終える。
「すっと食べられたよ。これも私好みの味だね。他にも好むウィード人は多いと思う」
「そうだといいですね……。改良した稲から米を生産しても、今度は普及がありますから」
今のところはジウスやアルバーンといった、元々東方料理に相応の親しみを覚えている層に限定されている。ただしこの人達はウィード王国でも最上位層だ。他の地域や国ではどうだろうか。
「自信がないわけではありませんが、時間はかかるでしょうね。まぁ、錬金術に近道はありませんので地道に成果を積み重ねましょう」
「普及なら――もしかしたら近いうちに機会が来るかもしれない」
「ど、どんな機会でしょう?」
身体が当たらないようにしながら、フィリアは少しだけ身を乗り出す。
「昨夜、ナルン殿下の会議に出たんだけどね。どうやら美食家として鳴らす大物がウィード王国に来るかもしれない」
「それはいい機会ですね……!」
「その方は来ないはずだったんだけれど、どうも急遽来訪されるかもしれない。まぁ、まだどうなるか確定じゃないよ」
「もし東方料理に興味を覚えそうな方なら、ぜひ私に作らせてくださいね」
「わかった、ナルン殿下から詳細の話があったら伝えるよ――あっ」
ジウスがふっと空を見る。ぽつり、と小さな雨粒が降ってきた。
「……雨です」
「空は晴れてるのにね、戻ろう」
ジウスがさっと立ち上がる。これで身体が接触することはなくなった――が、フィリアはこの幸せな時間が終わったことを少し残念に思った。
(私って、もしかして運がないですか……?)
なぜだかジウスとふたりきりになると、こうしたことが多いような気がする。
フィリアがそんなことを思っていると、ジウスがさっと上着を脱いで小さな傘を作った。
「フィリアが濡れるとまずいから」
「はっ、えっ……!?」
そのままフィリアはぐいっとジウスに引き寄せられ――上着の傘に入れられる。もちろんかなり密着しながら。
「あっ、あっ……そのっ!」
「嫌だとは言わないよね?」
ジウスが微笑みながら、有無を言わさぬ雰囲気を醸し出す。心配をかけてしまったフィリアとしては、言えなかった。
「は、はぃ……」
フィリアは消え入りそうな声を出した。頭の中でチカチカと火花が散っている気がする。
しかしとにかく、研究所に戻らなければならなかった。――この上着の傘で一緒になりながら。
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