25.ベンチで焼きおにぎりを
錬金術の話をしながらふたりは丘をぐるりと回る。
裏側は手入れこそされ、田畑の形こそしていたが特に何も植えられてはいなかった。
丘のふもとには小さめの木のベンチが、丘と向かい合うようにいくつも並んでいる。職員達の憩いの場であったのだろう。
「ここですね」
「ああ、眺めは良さそうだね。少し空気が湿っているけど」
ジウスが曇りがかった空を見る。
「まぁまぁ、雨なんか降らないと思います。さっそく焼きおにぎりを食べましょう……!」
フィリアがハンカチで木のベンチを払った。
「ありがとう、フィリア」
「いえいえ……どうぞどうぞ」
ふたりが並んでベンチに座る。造りは豪華だが、ちょっと狭いかもしれない。ふたりでかなりぎりぎりだ。
実際、ここまで密着して座るのは――どう考えても初めてだった。
「あーっ……はい、焼きおにぎりを食べましょうか……」
意識すると深みにハマりそうなので、東方料理に話題を変える。ちょっと不自然すぎる勢いかもしれないが。
「そうだね、さっそく食べようか。ところでこの焼きおにぎりなんだけど、東方でも外で食べる料理なのかな?」
ちょっとした疑問のようで、ジウスが首を傾げながら聞いてくる。
「ええ、そうですね。屋内でも食べますが『おにぎり』自体が携行用の米料理になります」
「なるほど、やっぱり1個が小さいのと三角形はそれが理由なんだ」
ジウスも納得したようである。フィリアにとっては、こうして東方料理に興味を持ってくれるのは嬉しい限りだ。
「この辺りで米料理といえば、リゾットが代表だね。あとは海や山でパエリアとかかな」
「基本的に他の具材と煮たり、炊いたりするのがほとんどですよね」
「ああ、そうだね……。あとは大人数で食べるイメージが強い。携行料理もあるとは、ちょっと驚きだ」
ウィード王国でも米は食べられているが、決して多くはない。王都なら富裕層でもなければ口にできないだろう。地方ならもう少し普及しているところもあるが、それでもパンに比べれば圧倒的に少ない。
「このおにぎりは加熱したので、保存性も良好です。さらに東方の貴族は香木の葉に包み、旅行先でおにぎりを食するのだとか」
「それはなんとも優雅な風習だね……!」
食に対するこだわりはどこにでもある。東方には東方のこだわりがあるのだ。
「我々はそこまではできませんが、しかし紙に巻けば手につくこともありません」
「……ナイフとフォークは?」
「先生にだけ私見を伝えると、東方にはナイフやフォークはそもそもありません」
じぃっとフィリアはジウスを見上げた。
「ウィード王国のマナーに照らせば、ナイフとフォークを使うのが適切です。しかし本当のところ、それは現地のマナーではありません」
「つまり、紙で巻いた形で食べたいんだね? まぁ、ふたりきりだからいいか……」
「ご理解、感謝します!」
許しを得たフィリアはバケットを開け、紙に包まれた焼きおにぎりを手に取った。
まだほかほかと温かく、焼いた醤油の香りが漂う。
「私も頂くよ」
ジウスも紙に包まれた焼きおにぎりを手に取る。並んで同じものを食べるのは――そう、とても親密な気がする。
フィリアはそんなことを思いながら、焼きおにぎりに口をつけた。
「はむっ……!」
ナイフ、フォークとはまた違う。一気に頬張ったことで一気に旨味と香りが突き抜け、口を満たしていく。
「どれどれ――ん! なるほど、濃厚だけど後味はさっぱりしてるね。隠し味は昆布かな? しっとりとした旨味が絡みついてる」
「昆布出汁を使ったのがわかりますか……! はふはふ……」
「昨日食べたからね。あとは確かに、これは外で手に持って食べるのにぴったりだ」
ジウスが焼きおにぎりを食べながら、悪戯っぽくフィリアを見た。それはフィリアでもあまり見たことがない、ドキリとするような表情だった。
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