18.薬草園
一度、ジウスは宰相府の執務室へと戻った。
様々な役職についているガルフに会うには、改めてアポを取らねばならない。
とりあえず自分の仕事を片付けよう――ジウスは書類の整理に専念する。
「ふぅ……」
よどみなくペンを走らせながら、ジウスは嘆息した。
「……彼女に甘えすぎたか」
急いでフィリアの元に行かなくても、もう少し落ち着いてからで良かったのだ。
しかし、どうにも抑えられなかった。ガルフは情に厚く、信頼できるが――王族であるため、神経質になってしまった。
「本当にフィリアは大丈夫か……?」
フィリアのやや赤みがかって、とろんとした目。少しふらつく身体。思い返すとさらに心配になってくる。
本人は大丈夫、大丈夫とアピールしていたが。
「……時間が空いたらアルバーンのところへ寄ってから、フィリアのアトリエに向かうか」
あそこには薬が置いてある。解熱剤と喉、鼻の薬をもらっていけば良いだろうか。
ついでにアルバーンが魔剣の調査をしたと言うし、資料も頂いていこう。もう製作者はわかっているが、念の為である。
「夕方には行けるか……」
机に重ねられた書類の山を見ながら、ジウスは呟いたのであった。
◇
午後――フィリアが仮眠からぱちりと目を覚ました。
「……復活です」
やはり寝不足が問題だったらしい。数時間の睡眠で驚くほどに調子が戻っていた。熱っぽさはすっかり消えてなくなっている。
鏡で自分の顔を確認する――ややぼさぼさになった黒髪と切れ長の漆黒の瞳。人によっては威圧感を覚える美貌がそこにはあった。
肌の色も目つきも、普段と変わらないとフィリアは自己確認した。
「ふぅ……しかし魔力加工の実演ができないとは……」
とんだ失態だった。しかしやってしまったものは仕方ない。錬金術に失敗はつきものである。
「先生が見たいと思うかもしれませんし、魔力加工は後回しにしますか」
魔剣製作は同じような工程の積み重ねだが、やはり初回は重要である。他の作業をやったほうがいいだろう。
「そうだ、アルバーンさんの薬草園に行ってみましょうか」
ぽんとフィリアが手を打った。許可証はすでにもらっている。散歩がてら、ちょっと覗きに行ってみよう。
身支度をささっと整えたフィリアが外出する。
「おっと、念の為にちゃんと書き置きを……」
家の壁には黒板が埋め込まれ、チョークが置かれている。王都では一般的な『連絡板』がここにも備え付けられていた。
『体調万全、薬草園に外出中』
さらさらと必要事項を書いたフィリアが薬草園に向かう。左手にそびえ立つ王宮を見ながら、小石が敷き詰めれた道がずっと続いていた。
ここら辺は完全に、政務から離れたエリアだ。
「空気がおいしい……っ!」
王宮の敷地内だけあって植木はよく手入れされ、ちょっとした庭園のような風情がある。
たまに直立不動の衛兵がいるが、喧騒はない。虫の鳴き声や鳥の歌がよく聞こえてくる。
「さて、そろそろ薬草園のはずだけれど」
さすがに王都育ちで公爵令嬢のフィリアである、迷うことなく王宮の敷地内を進む。
アトリエからのんびり歩いて10分ほどすると、生け垣に囲まれた区画とアーチ状の小さな門があった。
『王立薬草園』
門の横には小さいが守衛所もある。暇そうな衛兵に許可書を見せると、あっさり中に入ることができた。
「おっー……!」
薬草園に入ったフィリアは、思わず声を漏らした。
門から続くように様々な樹木と畑がぎゅっと密集している。
正面には小さな丘があり、その斜面には段々畑と水田が広がっていた。フィリアにとってはまさに夢のような光景だった。
「おや! フィリアさん!?」
果樹園の横から作業服姿で出てきたのは、アルバーンであった。
「お邪魔いたします、アルバーンさん。見学なのですが、よろしいですか?」
「いえ、お邪魔なんてことは……! どうぞどうぞ、案内いたしますよ!」
アルバーンは人好きのする笑顔でフィリアに駆け寄る。
「い、いいんですか?」
「もちろん、ぜひ一緒に――もし何かあれば、遠慮なく教えてもらえばと思います」
アルバーンはフィリアの学識に全幅の信頼を置いていた。彼女が見て回ることで、きっとプラスになるに違いないと確信している。
「……わかりました。では、お願いいたします」
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