17.熱
そこでジウスが身体を少し傾けて、刃の部分に手をかざす。
「刃の部分から魔力加工を始める人も多いけど、どうしてフィリアはこの部分から始めるんだい?」
今、フィリアが触れているのは柄である。フィリアがさっと手を動かせば、ジウスの手に一瞬で触れられるだろう。
それは逆もしかり。ジウスがすっと手を動かせば、フィリアの手に届く。そう考えてしまうと、彼の手から目が離せなくなっていた。
「簡単な魔力加工ならそれでもいいのですが、私の加工は色々と独自要素があって……。中央から広げていくようにするとちょうどいいのです」
「なるほど、勉強になるよ」
「い、いえ……」
ジウスの純白で細い指が刃を撫でる。
フィリアは本当に頭がクラクラしてきた。寝不足とジウスがそばにいるダブルパンチだろうか。
(ああ、落ち着かないと……)
そう思えば思うほど、冷静さが溶けていくような気がする。心なしか呼吸が速くなり、身体が熱っぽい。
今のままだと魔力加工にも支障が出そうだ。フィリアはとにかく息を吸って吐いて、集中を取り戻そうとした。
「……ねぇ、もしかして体調悪い?」
「えっ?!」
しかしなんだか落ち着かないフィリアの様子に、ジウスが気が付いてしまった。
「ここに立ってから、なんだか辛そうだし……」
「そ、そんなことはありません」
辛いとか痛いとか、そういう嫌な感覚ではない。でもうまく言葉にできないのだ。
「……そう? ちょっとごめんね」
フィリアがどう伝えようか悩んでいると、ジウスがさっと手をフィリアの額に当てた。
「――熱はないようだね」
「……ぅ……っ!」
絶句するフィリアに対し、ジウスは眉を寄せる。
「でも本当に体調は良くなさそうだし、無理はしないほうがいいよ。引っ越しで精神的に疲れたのかもしれない」
言いながら、ジウスはフィリアの額から手を離した。
「でも……」
「いいから、別に今すぐ、やらなくちゃいけないわけじゃない。フィリアのほうが大切だ」
ジウスは譲らなかった。促されるまま、フィリアは仮眠室へと歩いていく。
「申し訳ありません……」
「気にしないで。私のほうこそ、色々と持ち込み過ぎた」
そんなことはないのに。フィリアは肩を落とした。
寝不足なのも、集中できないのも自分が悪いのだ。
でも本調子ではないのは事実。とりあえずベッドに横になろう。
「何か欲しいものはある?」
「い、いえ……大丈夫です」
鈍った頭のフィリアでも理解できた。ここで甘えたら、ジウスの看病が始まってしまう。
(先生がそばにいたら、眠れるわけない……!)
それだけは回避しなければ……!
フィリアはふっとアトリエを見渡し、話題を変える材料を見つけた。
「あの、先生……? もし良かったら、ですが」
「なんだい?」
「作業台の横に、さきほどの魔剣の設計図があります。あれをガルフ殿下へ持って行かれては?」
錬金術師にとって、自筆の設計図は魂に等しい。親しい家族にすら保管場所を秘密にする人も多い。
だからこそ、魔剣製作の実演をしてもらったのだ。設計図を借りれば早いのだが、それは本来聞くだけ無駄なのである。
「いいのかい……?」
設計図の重みはジウスも知っている。だからこそ、息を飲むほど驚いた。
「これまでの設計図は手元にないのですが、ガルフ殿下に納得いただく材料にはなるかと」
「……わかった、ありがとう。少し借りるよ」
「はい、では――」
仮眠室の前で、フィリアはジウスに別れを告げる。
「ああ、またあとで様子を見に来るよ」
ぽむぽむ。本当に軽く、フィリアは頭を撫でられた。
(ちょーーっ……!)
フィリアは顔が燃えそうになる。だが、なんとか外には出さずにすんだ。
「じゃあね」
ジウスがアトリエに向かうのを眺めながら、フィリアは仮眠室へと入った。
仮眠室の扉を閉めたフィリアは、そのまま床にへたり込んでしまう。
「……私、変だ……」
これは契約のはずなのに。形だけの婚約のはず。
なのに、どうしても身体が反応してしまうのだ。何かが、自分の中で違ってきている。
フィリア自身も、そう自覚せざるを得なかった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
おもしろい、続きが読みたいと思って下さった方は、
ぜひともブックマークや↓の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価をよろしくお願いいたします!







