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10.宰相様の想い

 午後の宰相府。書類整理を一段落させたジウスが休んでいると、そこにアルバーンが訪れた。


「よっ! 今、大丈夫か?」

「……お前か。ちょうど書類整理の合間だ」


 気安い声で話しかけるアルバーン。しかしジウスは当たり前のように肩をすくめただけであった。


 侯爵家の次男であるアルバーンとジウスは昔からの友人である。ふたりは薬術と錬金術という、近い領域を勉強していた。そのため今も、何かと専門的な相談をすることが多い。


「さっきフィリア様に届け物をしてきたよ。久しぶりに顔を拝見できた」

「そうか……。特に問題は?」

「ないさ。はたきやほうきが出してあったから、掃除をしてたみたいだが。それより、調子の悪かった成長の植木鉢をぱっと直してもらったよ」

「ほう……?」

「魔術省に持ち込もうと思っていたやつだ。フィリア様は無表情でくるくる植木鉢を持ち替えたと思ったら、あっという間に原因がわかったみたいでな……。昨日、俺達が徹夜で調べてもわからなかったのに」


 薬草園と魔術省は独立した組織であり、ある種のライバルなので持ち込むのは最終手段だった。それをしなくても済んだのは幸いだった。


「さっそく彼女が活躍したか」

「ああ、大活躍だ。多分、これから王宮で大人気になるぞ。錬金術に関係する悩みは多いが、受けられる人が全然足りていないからな」

「結構なことだ。彼女が引き受ける仕事については、俺は干渉しない」


 執務室のティーポットを借り、アルバーンが紅茶を入れる。そのまま飲み始めたアルバーンがほっと息をつく。


「美味い……強烈な渋みだが、気合が入る」

「午後にはちょうどいい。紅茶でリフレッシュしていけ」


 ゆっくりと紅茶を飲みながら、アルバーンがにやりと笑う。


「ずいぶん優しいな、ジウス」

「……急な仕事だったからだ」

「そうじゃなくて、フィリア様のことさ」


 ジウスが口をつぐむ。


「色々な噂やお前からも話を聞いていたが、ここまで話が一気に進むとはなぁ……」

「お前には話していた通り、これは政略だ」


 アルバーンは騎士であり、爵位を持ってない。だが薬師としての技能と実家の繋がりから、交友関係は恐ろしく広い。


 貴族社会の裏からジウスに協力する、それがアルバーンであった。そのためジウスとフィリアの関係についてもある程度は教えられている。


「フィリアも俺との結婚は望んではいない」

「ふーん……そうか……」

「納得していないようだな?」

「寄宿学校や社交界では『銀の華』と呼ばれたお前が、ついに身を固めたと思ったんだがなぁ」

「そのあだ名はやめろ」


 ジウスが嫌そうにうめいた。子供の頃から群を抜いた美形であったジウスは、どこに行っても注目された。


 とはいえ、それを心地良く感じたことはない。勉強が好きなジウスにはうっとうしいだけだった。


「父が調子に乗って俺を連れ回したからだ」

「それだけ整った顔立ちだとな、周りに自慢したくもなるだろう。俺も息子と娘がいるからよくわかる」

「はぁ、おかげで色々と人脈はできたが……あの頃はフィリアの家庭教師が一番楽だった」


 なにせフィリアは、ジウスに錬金術以外の興味を向けなかった。多分、家族を除けばほぼ唯一の存在である。


「はは、お前からそんな言葉が出るとはな」

「……何?」

「ちょっと前なら、昔を懐かしんだりはしなかっただろう。寄宿学校の頃だったら、絶対言わなかった」

「ふむ、そうかもな……」


 ふっとジウスは肩の力を抜いた。フィリアのことを考えると、心が安らぐ。それは事実だった。


 多分、叶わなかった錬金術師の夢を今でも彼女を通して見ているのだろう。今の生活とは真逆だった、あの頃の夢を。


 あくまで表情は変えないジウス。紅茶を飲み干したアルバーンが半分本気で、


「いっそ、ちゃんと結婚まで行き着いたらどうだ?」


 と言うが、ジウスは頑なだった。フィリアの人生をこれ以上左右したくはない。それがジウスが己に決めた一線だった。


「……それはまた別の話だ」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。


おもしろい、続きが読みたいと思って下さった方は、

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