第十話 真実
「アリガトウゴザイマス!!」
俺たちは、突如響いたその声が魔物のものである事を認識するのに、時間を要した。
目の前の魔物は身体を丸めて頭を地につけている。
「巣ノ掃除シテクレテ、アリガトウゴザイマス!!」
感謝の第二波が我々を襲う。ビリビリと空気が震える。
「ま……魔物がしゃべった……?」
口を開いたのはアイリスだった。
そうだ、まずそこに触れなきゃ話は進まない。
なんとか今の状況を理解しなければ。
「ア……エットソノ……掃除シテクレタオカゲナンデス……」
魔物の説明は、その言葉から始まった。
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………………
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話は要約するとこうだった。
魔物は元々知能を有していた。
しかし、魔物には、汚い場所だと知能が下がってしまうという特性があった。
度重なる人間の環境破壊により住む場所を追われ、衛生環境に大きな影響が出た魔物たち。
知能を失うには十分な条件だった。
しかし、俺たちが巣を進みながら掃除して行ったおかげで、ここの魔物は久しぶりに知能を取り戻すことに成功した。
………
………………
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「トイウコトデス……」
『そんなことが……』
とても有益な情報だった。
こうなるともうやることは一つだ。
「おい魔物」
「ゴリスケデス……」
「ゴリスケ。他の魔物の巣は知ってるか?」
「ハイ、アンナイデキマスガ……」
「よし、じゃあ知ってる巣をありったけ案内してくれ」
「ご、ご主人! まさか……」
アイリスの言葉に、俺は微笑んで頷く。
「ああそうさ。全魔物の知能を取り戻しに行くぞ」
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それから半年後。
「ハッ! ワタシハイッタイナニヲ!?」
「よう。巣の掃除しといたぞ」
「エッ、アッ、アリガトウデス……」
俺たちは今、最後の巣の掃除を終えた。
これでこの山に危険な魔物はいない。
『ずいぶんかかりましたね』
「ほんとそれ。早く帰ろうぜご主人」
「ああ」
俺たちは長期間通いつめた山を背にし、自分の家へ帰った。
フラヴィは、これまでそれを妨げた理由が排除されたのだから当然といえるが、ずいぶん発展していた。
もうこれで安泰である。
あとは悠々自適な領主ライフを送るだけ─────そう思っていた矢先のこと。
『ご主人様、なんか手紙届いてます』
三号が持ってきた一枚の紙切れによって、俺の描いた未来は音を立てて崩れることとなる。
差出人の欄に書かれていた名は、”ドフラーゴ・ライキルト”。
俺の父である。
内容は以下の通りだった。
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フラヴィ領主 フローデ・ライキルトへ。
ライキルト王国の王、ドフラーゴ・ライキルトの名のもとに、以下の二つを命ずる。
・王都へ戻り、清掃技術を国のエンジニアへ普及し、引き続きその研究をすること。
・その際、アイリス・ルイスを連れて来ること。
この手紙が着いてから三日間、良い返事が聞けない場合は、我々は武力行使も厭わない。
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「行く訳ないでしょうがァ!!!」
そう叫んだのは俺ではない。アイリスである。
「でもほら、武力行使って……」
「知ったことか!! 返り討ちにしてくれらァ!!!」
こうなったアイリスの意見は、とても変えられたもんじゃなかった。
俺の人生最大にして最後の戦いは、斯くして始まったのである。