ただいま、我が家!
懐かしい景色、懐かしい匂い、懐かしい感覚、五感すべてを駆使して懐かしさを感じる。
「ただいま帰りまし……た⁉︎」
ドアを開けて真っ先に目に入ってきたのは、でかでかと『おかえりマードリア!』とかかれ、綺麗に装飾された横幕と、両脇に添えられているこれまた豪華な花。
少し落ち着いてあたりを見回すと、どれほどの時間をかけたのだろうと思ってしまうほどの飾り付け。
そして、特別な行事の時にしか着ない服を着ている家族。
これまた派手なお出迎えだこと。
「おかえりリア。本当は僕も一緒に迎えに行きたかったんだけど、この飾り付けがあるから行けなかったんだ。申し訳ない」
お兄様はぎゅっと、本当にぎゅっと私を抱きしめる。
「マ、マードリア、しばらく見ないうちにこんなに魅力的になって……」
お父様は泣きすぎて上手く話せないみたいだ。ていうか、ほんの数ヶ月でそんなに変わらないと思うけど……。
お母様はまともであって欲しいと願い、お母様と目を合わせる。
「こらこら二人とも、マードリアは今帰ってきたばっかなのだから休ませてあげなさい。──おかえりなさい、マードリア」
「ただいま帰りました、お母様」
ああ、よかった。お母様は普通の出迎えだ。
「ところで──」
なんだろう、これはまずいと私の中の女の勘が騒いでいる。
だめだ、間に合わない!
「マードリアは男性の方とお付き合いをしているの? 今までは旦那様達のせいでそういう機会は与えられなかったけど、学園ともなれば多少は自由になっているものね」
そういう恋愛話が好きなのは、女性であれば年齢は関係ないんだなって思わせる。そして、まじで本当に、私に縁談がなかったのはお父様とお兄様が原因だったのか。
「それとも、もしかして女の子かしら? それもいいわねぇ。マードリアなら女の子とも上手くやっていきそうだわ〜」
お母様は話を一人で飛躍させていく。さすが、百合作品を嗜んでいるだけはある。
後ろの二人は見えないけど、お父様の魂は抜けかける寸前までいっているのと、私の恋人を始末しようと笑顔で静かに殺気を出しているお兄様が手に取るようにに分かる。
「残念ですがいませんよ。それに、私にそんな思いを寄せてくださる方に、これからの人生で出会えるか分かりません」
「あらそうなの、残念ね〜」
お母様は本当に残念がっている一方、私の後ろでは、静かに今年一番の喜びを噛み締めている二人を感じる。
「でもね、マードリア。あなたが気づいていないだけで、もしかしたらもうあなたに惹かれている方もいるかもしれないわよ」
「いませんよ、そんな方。そもそも私なんかよりも魅力的な方が学園にはたくさんおりますので」
「そう言って自分を卑下してはだめよ。もし本当にマードリアのことを一人の女性として見ている方がいれば、その方に対しても失礼にあたるわ。それに、マードリアの家族である私たちにもよ。
マードリアはもう少し自信を持ちなさい。
旦那様にカーター、もちろん私も、家族だからってだけでマードリアを好きなんじゃないの。マードリアにしかない人を幸せにさせる力が、私達のマードリアに対する好きを深めているのよ」
お母様は頭を優しく撫でた。
お母様の手は柔らかくて、細くて、いつも暖かいので大好きだ。
この時だけは、もう顔も声も忘れてしまったお姉ちゃんを思い出させてくれる。
だけど、私に与えてくれるものは真逆のものだ。
「お母様の言う通りだよ。だからマードリア、今後はより一層気をつけるようにね」
「そうだぞ、マードリアは嫁に行く必要なんてないのだからな」
この二人は、お母様の言いたいこととはたぶん、きっと、いや、絶対逆のことを言っている。
次話 本日中